寂しさ | 想像と創造の毎日

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写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。

  週末の天気予報を見て、愕然とする。

  二週間先まで、雨の予報だからだ。

  本州は梅雨が明けて、いよいよ本格的な猛暑がやってくるようだが、その雨が太平洋東側にやって来るのだろう。


  北海道には梅雨はないと言われるが、蝦夷梅雨と呼ばれるものがある。

  それは、本州の梅雨のようにハッキリとした雨の季節ではないかもしれないが、終始ジメジメとしてカラッとした天気ではなくなり、青空の日が少なくなる。


  特に道東は、夏に晴天が少ない。

  夏休みの頃には、景色は霧に包まれて、肌寒い日が続く。

  しかしここ何年かは、例年とは違い、真夏日や晴天が続いたりしていたから、今年が本来の正しい道東の夏なのだろう。

 

  幼い頃の夏休みの思い出は、いつも灰色の空の下の鬱々とした季節の中にある。 

  テレビ画面の中にある夏休みの風景とは全く違う。

  肌寒い日のに、湿度の高さで肌はベタベタとして皮膚呼吸ができず、身体全体が常に息苦しい。


  近隣の海は水温が冷たいだけでなく、泳げるような遠浅の浜辺はない。


  夏はいつもどこか、せつなく寂しい気持ちを思い起こさせる季節だ。



  登山の計画がことごとく崩れる。

  雨の休日の過ごし方をすっかり忘れた。

  身体を動かし続けなければ、心が壊れそうだ。

  灰色の空は、そのまま私の心を投影する。


  息子の彼女がこの間、一人で泊まりに来た。

  息子と休みがなかなか合わないのもあるが、息子が仕事が終わったら、一人で過ごしたいと言って構ってくれないと言っていた。


  そういうことが時々、不安になるのだろう。

  しかし息子は外で人一倍気を使うタイプだから、ストレスが溜まると一人で何かに没頭したくなる習性があることを私は知っている。

  彼女に対しては言葉にしないらしいが、息子が彼女を大事にしていることは、私にはよくわかる。


  息子は、彼女は初めての一人暮らしで寂しい。でも俺も自分の仕事以外の全ての時間を彼女に費やせない。だから一人で俺の実家にでも行ってこい、とか言われたのだろう。 

  それで彼女も遠慮なく来るのだから、可愛いものだ。


  娘も彼氏が夜勤の時などは、寂しくなるのかLINEをしてくる。

  しかし彼氏がいるときには一人でススキノに行くのに、変なやつだ。


  男女の付き合いが長く続くと、それは日常になる。日常はともすれば退屈だ。刺激がなく、生活は社会に埋没する。


  しかし、それを平和と呼ぶのだろう。

  息子の彼女と娘の寂しさは、約束のない不安と自ら作り出した欠乏によるものだ。


  それでも彼女たちは、自分の楽しみを自分で見つけられる強さを持っているとも思う。


  心の形を言葉にして誰かに伝えられる技術も、その行為を通して自分の心を俯瞰することもできる。


  今ある心の状態は、拒むものでも否定するものでもない。

  

  特に負の感情は、自分がどこに意識を向けていて、何に価値をつけているのかを知るいい機会だ。


  山はいい。

  自分の体力がすり減る過程で心にある澱も汗と共に流れ出ていくような気がする。


  身一つで、自分を守る文明がない自然の中に漕ぎ出して、湧き上がる命の力を再確認するのだ。


  日常に絶えずある既知が、生きようと日々、生まれ変わる細胞で構成された肉体と心を分断している。


  しかし山に登ると、心こそが身体を動かし、また身体こそが心を動かしているのだと思い知るのだ。


  頂上での一時の達成感を経た後、下山し、元の登山口に降り立ったとき、こうして生きていることが奇跡なんじゃないかと思い、背後にあるあの尖った山の先端に自分が辿り着いた事実に恍惚とする。

 

  一人で人気のない山中にいるとき、怖くて、寂しくて不安でどうしようもなくなる。

  突然の雨に降られて泣きそうになったり、稜線に吹き付ける突風が恐ろしくて足が震えたり、苦しくてもう降りようかと何度も思う。 

  

  そんなときに出会う花や鳥や虫に勇気づけられ、また再び足を進める。

  ゆっくり、一歩、一歩、と。

 

  見知らぬ人にすれ違うといつもは煩わしい他人が、妙に愛おしくなる。


  寂しさはいつも、人恋しさを思い出させた。

  

  だから寂しさは排除しなくていい、否定しなくていい、埋めなくていい。

  寂しいってことに気付くだけでいい。

  味わうことができれば、もっと、いい。

  浸る、のではなく。


  


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