思想 | 想像と創造の毎日

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自分で撮影しております。

  成田さんの動画ばかり見ている私に息子が言った。

  そういう同じ人のばっかり見てたら、思想が偏るぞ。と。

  私は、反論できずに頷いてしまう。
 
  まさか、息子の口から、"思想"という言葉が出てくるとは思わなかった。

  しかし実際、そうなのである。
  私は、自分が感覚的に好きだと思う人の考え方に傾倒しがちなのだ。

  一度、この人の考え方や表現方法はいい。
  そう思うと、疑う余地がなくなるばかりか、信じ切ってしまうのだった。

  普段、人は誰でも、間違うし、善悪を同じだけ持ち合わせているものだと思っているくせに、自分の考えをその人に寄せてしまうのである。

  息子は、いろんなバイトをしているが、今は主に畑の仕事だ。

  しかしバイト仲間の中には、この仕事だけで生計を立てているおじさんもいるらしい。
  そういったおじさんの中には、いつも酒臭く、態度が悪く、若い息子に昔の自分の武勇伝を聞かせてはマウントを取る人もいるらしかった。

  バイト代は日払いらしいが、社長が勝手に出張に行ったりして、その日の給料を当てにしている人達は、不満を募らせているという。

  社長も入っているバイト仲間たちの連絡用LINEグループのトーク画面を、息子は私におもむろに見せて、「カオス。」と言って、苦笑いした。

  おい。電話出ろ。このやろー。
などという言葉が入っている。
 しかも、一度だけではなく、何回もだ。

  その仕事は聞けば、農協の下請けの派遣会社らしかった。
  最初に農協だと聞いたときは、こんなにお金に関して適当なわけがないし、時給ももっと高いと思っていたから不思議だったのだ。

  この辺の農協の畑や酪農のバイトであれば、そんな状態にはならないはずだ。

  農協は人を集める労力を派遣会社に任せ、派遣会社は農協からもらったお金を中抜きをする。
  派遣会社は、今日にも食べていくのを困っている人達を集める。

  そこまで言うと息子は、まあ、そういうことだよね。なるほど。と言った。

  息子はそのマウントおじさんの悪口を延々と私に聞かせた。
  私は、そのおじさんだって、酒をのんで、あんたみたいな若造に威張るしかない理由があるのだろう。と言ったが、言ってから、ふと、そう考える自分は残酷だな、というか、どこから目線でモノを言っているのだ?と、恥ずかしくなった。

  息子は、まっすぐにおじさんの態度の悪さや自分に対する扱いに怒っている。

  でも、おじさんにそれをぶつけるわけではなく、内心、バカにしていることがバレないように適当にあしらうのだと悪気もなく言った。

  息子は正直だ。
  そして、おじさんは、自分と同じ立場だと、同じ人間だと、心から思っている。

  だからこそ、まっすぐに腹が立つ。

  でもおじさんに嫌われると面倒だから、気分を損ねない程度に接し、しかし自分が手下のように扱われないようなバランスをあざとくも、考えている。

  私はどうだ。
  おじさんの気質、環境、知能、そして、それを利用する社会のシステムのことを考えている。
  自分だって、おじさんと同じ人間なのに、おじさんを上から眺めるように同情することで、私はどこか差別的なのだ。

  息子は不器用だ。
  そして決して賢くはないのに、プライドが高い。

  すぐに感情的になるし、そのくせ気が小さい。

  まるで私の欠点をそのまま写したようなその感じを久しぶりにリアルで味わってみて、私は居心地が悪いような、それでもこれがどこか心地いいような不思議な感覚になった。

  息子は自分が食っていくために、リアルな社会に参加している。

  いろんなバイトをして、暴言を吐かれ、こき使われ、世の中がどれだけ理不尽で残酷であるのかに対してまっすぐに怒りながら、社会を体感しているのだった。

  畑は暑い。
  蚊に刺されるし、腰も痛くなる。
 
  肉体が辛い仕事は、昔はそれなりに給料も良かったはずなのに、今はどうだろう。

  食べ物の価値がどんどん低くなっているのだ。
  だから、食べ物を作る労働力の価値も下がる。

  思想は、小さな画面の中にいる博識で賢そうな人の中にはないし、作っちゃいけない。

  息子は、だらしなくて、アホだけど、人が大好きだ。

  帰ってきて毎日、誰かと遊び回っている。
  最近では、また彼女もできたらしい。

  ブサイクなのに、またよくできたよね。と娘は毒づく。それが、彼女もまた、それなりに可愛いんだからさ。

  なんでもいいから、リアルに人と関わること。
  そこで起こる感情や熱に付随して、徐々に自分は作られていくものなのか。

  彼女のどこがいいのさ。

  つか、そもそも彼女はあんたのどこが良かったんだ?

  彼女ができるたびに私はくだらない同じ質問をしている。
 
  あの人、鳥を飼ってて、鳥が好きなんだよね。
  感性が合う。

  思想?感性??

  息子の口からそういう言葉が出る度に、思わず吹き出しそうになる。

  帰ってくるとき。
  ザックしか持ってなくて、着替えの入ったキャリーバッグを忘れてきやがった。

  帰るまで、高校の指定ジャージで友達と過ごすことになるだろう。
  だけど、そのことをむしろ楽しそうに喜んでいる。
 
  すぐに忘れるんだ。  
  大事なことも、苦しいことも、同じように。
  そこが致命的であり、そこが生きる推進力にもなっているから、どうしようもない。

  しかし、まじで。
  頼むから、勉強してくれ。