ワクチンと師匠 | 想像と創造の毎日

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自分で撮影しております。

  ニュースでワクチンを打った人がほぼ、晴れ晴れとした表情をしていることが不思議だ。


  師匠は、山で熊に会うことはさほど怖がらないが、ワクチンを怖がっているらしい。


  師匠の奥さんのところにとうとうワクチンを打つ日取りの案内が届いたらしく、師匠は奥さんに先に打てというのだそうだ。


  それは決して、病弱な奥さんを気遣っているわけではなく、奥さんが大丈夫なのを確認してから自分も打つつもりなのだと、本当だか、冗談だかわからない口調で、奥さんは笑って言った。


  奥さんよりもっと高齢の人達は、それまでは感染することに怯えていたが、今度はワクチンの案内が届いたら届いたで、これでもうあんたに会うのは本当に最後かもしれない。と肩を落としたのだという。


  わっちは、いつ死んでもいい。普段はそう言っているのに、いざその瞬間が目前に迫ってくると人間なんてそんなものだと、奥さんはまた笑う。


  ワクチンの案内を、まるで戦時中の赤紙が来たかのように見ている。


  奥さんは、本当はまだ様子を見てから打ちたいけれど、これは国の決まりだから仕方がない。と言った。


  私は決まりではないと思う。と言ったけど、この田舎だ。

  打たなかったとなれば、村八分になるのは目に見えていた。


  師匠と畑に植える苗を一緒に買いに行った。

  私が植えたいものを植えてくれると言うからだ。


  師匠の一日は、普通の人間には考えられないほど忙しい。


  現代人の私には決して真似出来ないようなスケジュールで、一日中外を走り回る。


  その半分は、自分のことよりも他人のことだ。


  誰かが困っていると、ほぼ無償で助ける。

  畑仕事も大工仕事も、なんでも引き受ける。


  中には、プロに頼むと高く付くからと、師匠に頼む人もいて、その報酬はほぼないに等しく、奥さんは呆れ返っていた。


  なんていうか、お人好しというよりも、カッコつけなんだわ。


  そう言って、奥さんは諦めたようにいつも言うが、私はその様子にいつもなんだか泣ける気がするのだ。


  男はカッコつけなのが当たり前だと思う。

  私のじいちゃんもそうだったし、そしてその分、家の中では若い時は、傍若無人でもあった。


  師匠は奥さんの前ではとても威張っていて、時々よく分からないところでブチ切れる。


  それを初めは私も怯えていたのだが、最近は慣れて、話を逸らせるようになった。

  なので師匠の奥さんは、時々私を呼びつけては、師匠の話し相手をさせる。


  自分の感情の理由に無頓智であり、男特有のプライドに忠実な師匠は、その部分があるからこそ、生きるパワーに満ちていた。


  いつだったかは、遠くに住むヤンチャな姪っ子からお金を遠回しに無心され、甘えられていることをわかっていながらも何も言わずに送金していた。


  あの子は、かわいそうな子なんだ。と言って。


  最近は、居酒屋を経営する甥っ子のところに何度も山菜を届けている。

  突き出しなどに使うらしく、時々釣った魚も持って行っている。

  もちろん、無償だ。


  アイツは大変なんだ。

  休業して、補償金もらえばいいのに、店をしめたくないみたいだ。という。


  なのに自分は、ボロボロの服にボロボロの車で、釣り道具も壊れたものを繋ぎ合わせて使う。


  なんでだよ!

といつも、師匠を見ていると、わけもわからず、時々泣きたくなった。


  コンピューターには疎く、顔は広くても、人付き合いも不器用なところがあって、利用されては時々小さく傷ついている。


  私も師匠を利用している。

  だけど、お礼は絶対に受け付けてくれないから、師匠からもらった素材をなんとか工夫して料理して届けたりする。


  人が好きなだけなのだろう。

  そして、自然の中で身体を動かすことが好きだ。


  自然にそのまま生かされてきたような師匠が、訳の分からないワクチンで、肉体がおかしくなったらどうしよう。と私は悲しくなる。


  師匠は、同じ生の魚をみんなで食べても、一人だけあたったりしない強靭な肉体を持っている。


  薬なんてたいして飲まないし、山歩きで関節がおかしくなっても山歩きで治す。


  やちぶきを取ってたんだ。

  まだ新しい大きな糞があるのを見つけた。

  ふと、山の上を見上げると、熊がいるのが見えた。


  こっちを見ていたけど、威嚇するわけでもなくじっとしていた。

 

  その熊がいるすこし手前に本当はもっといいやちぶきがあるんだよな。


  だけど、欲張るのはダメだよなあ。そう思って、引き返してきたわ。


  熊には何度も会うけれど、本当に怖い思いをしたのは、一度だけだ。


  子供の熊が木の上に登ったのが見えて、これはやばいと思った。


  そういうときは、近くに母熊がいる。


  人間を見つけたら、自分の子供に木の上に登るように指示するんだろうな。


  案の定、遠くで母熊が両腕を上げているのが見えたから、すぐに車に乗り込んだ。

 

  師匠の山の話も海の話もおもしろかった。


  同じ街の出来事なのにまるで、自分が生きている場所とは違う世界の話みたいだったから。








   エゾシカは、狼が絶滅して増えた。


   中国では、毛沢東が雀を駆除してバッタを増やした。


   ウイルスを排除すると、今度は何が増えるのだろう。


  そう考えるととても、怖い気がした。


↑↑↑塩漬けのニシンをもらい、どうしたらいいのか思案中。