少し大きな街の駅前通りにある寂れた店構えの定食屋さんは、腰の曲がったおじいさんが一人で営んでいるらしかった。
昼時には近くのサラリーマンのお客さんが、次から次へと暖簾をくぐる。
水はセルフサービスで、テーブルを拭くのも、お客さんたちが各々で行っていた。
ラーメン、蕎麦、オムライス、各種定食といった様々なメニューがあったけど、ほとんどのお客さんはロースカツ定食を頼んでいた。
豚ロースが足りなくなったのだろう。
おじいさんは、おもむろに電話の受話器に手をかける。
トンカツ用のロースを五枚。
受話器の先は、馴染みのお肉屋さんのようだ。
すぐにお肉屋さんらしきおじさんがやってきて、おじいさんは古びたレジから1000円札を四枚数えて渡した。
お肉屋さんは、ポケットから小銭を取り出しておじいさんに渡す。
ロース肉だけで、一枚700円以上する。
私はとっさに頭の中で計算してから、もう一度メニューを見た。
ロースカツ定食は1000円だ。
大きなロースカツにキャベツの千切り、トマト、ごはん、お味噌汁、キュウリの浅漬け。
ごく普通だけど、豚ロース一枚だけで700円もするのなら、儲けはないだろう。
その辺にあるチェーン店のとんかつ屋とは比べ物にならないぐらい、美味しい。
国産のロース肉の味がする。
私は自分でも嫌になるぐらい、味にはうるさい方だ。
値段に味が見合わなかったら、テーブルをちゃぶ台の如く、ひっくり返したい衝動に駆られる。
友人が前にこの店のとんかつの味の評判を聞いて行った時、閉店間際だったようで、おじいさんが暖簾を下ろそうとしていたらしい。
しかし友人が来たことを確かめると、まだいいよ。と言って、中に入れてくれたそうだ。
ゴートゥーイートというものがあると聞いて、自分の街にもあるのかと検索してみたのだが、使えるのは大きなお店だけだった。
きっとおじいさんの経営する定食屋さんでも、使えないのだろう。
しかし、おじいさんのお店は、そんなものがなくてもきっと、お客さんはたくさん来るだろうって思う。
でも、来れば来るほど、逆に儲からないんじゃないかという気もしてきた。
サクサクの衣の食感に、手切りの千キャベツ。
揚げ油は、もしかしたらラードかな。
変な匂いがしなかった。
食堂で毎日同じ料理を同じクオリティーで提供するということに、職人の技を感じて、いつも感動した。
飽きないのかな。
つまらなくはないのだろうか。
だけど、いくら素材の値段が上がっても、メニューの料金を上げないのは、やっぱり美味しいと思って来てくれる人がいることが嬉しいからなんだろうと思う。
いらっしゃい。でも、ありがとうございました。もない、一見、無愛想に見えるおじいさんが、毎日、変わらない仕事を淡々とこなしていることにただかっこよさを感じた。
マスクだの、ソーシャルディスタンスだの、消毒だの、PCR検査だの。
毎日、報道される陽性者数には、治癒した人の数は含まれていない。
よく見たら、その下に小さな数字で、現在の陽性者数と治癒した人の数字が記されている。
親が口の周りに吹き出物が出て、病院に行ったら、同じ症状で来院する人がたくさんいたのだという。
子供たちは消毒のし過ぎで、手が荒れている子が多い。
特にアトピー持ちの子は、これからもっと乾燥に悩まされるだろう。
町のインフルエンザの予防接種は、いつになく大盛況だ。
もう予定していた本数は、予約でいっぱいになったようだ。
海外で副作用で死亡した人がいるだとか報告がされているコロナワクチンを無料で国民が受けられるようにと政府が画策しているらしい。
何が正しいのか、さっぱりわからないが、うちの母親は、肺炎球菌ワクチンでえらい目に遭ったから、コロナワクチンには、びびっている。
何が正しいのか、わからないんだ。
金がそれなりにある人は、そりゃああればゴートゥーキャンペーンを使うだろう。
しかしその一方で、小さな飲食店やホテルは、その恩恵を受けられないんじゃないか。
あのとんかつ。美味しかったな。
とんかつだけじゃない。
ごはんもしっかりガスで炊いてるみたいに粒が立っていたっけ。
おじいさんは今日も淡々ととんかつを揚げているのだろう。
傾いた外観のお店にすすけた年季の入った暖簾を出して。
ゴートゥーイートなんてものは、どこ吹く風で。
