矢部嵩 著『魔女の子供はやってこない』を読みました。

角川ホラー文庫です。











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今回の本のお供には、ちょっと前に私が作ったうさぎ犬ちゃんに務めてもらいましたー。

うさぎ犬ちゃんの、可愛いけれど毒のある感じの世界観が、この本に似合うかなーと思いまして。






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『小学生の夏子はある日「六〇六号室まで届けてください。お礼します。魔女」と書かれたへんてこなステッキを拾う。
半信半疑で友達5人と部屋を訪ねるが、調子外れな魔女の暴走と勘違いで、あっさり2人が銃殺&毒殺されてしまい、夏子達はパニック状態に。
反省したらしい魔女は、お詫びに「魔法で生き返してあげる」と提案するがーーー。
日常が歪み、世界が反転する。
夏子と魔女が繰り広げる、吐くほどキュートな暗黒系童話。』
(カバー裏より)





ちょっと前に『保健室登校』を読んだ矢部嵩の↓


『保健室登校』読書感想



↑作品です。
『保健室登校』がすごく面白かったので、さっそく他の本も読んでみましたー。

めっちゃ面白かったです。
んー、私は『保健室登校』よりも『魔女の子供はやってこない』の方がもっと好きかも。

物語としてまとまってるし、大好きな魔法少女は出てくるし。


もちろん、あのちょっとずれた奇妙な文体と、可愛い悪夢みたいな世界はこの本でも健在です。



そしてやっぱり、角川ホラー文庫には入ってますけど…これは怖くはないよなぁ。
スプラッタ表現はあるんですけど、ホラー的な部分ってそこだけじゃないかしら?
どっちかというと、ホラーというよりも、現代アート的とかSF的とか幻想文学的とか、そっちの方のカテゴリーの方がしっくりくると思います。
一番しっくりくるのは、例えば魔法少女文学とか?






以下めっちゃネタバレありの感想です。
未読の方は、ここでお帰りくださいませ。

特に、もしもさきほど引用しましたカバー裏解説を見て興味を持たれた方は、絶対この先は読まず、どうか小説自体を手に取って先に読んで見てくださいね。
ネタバレしたら台無しになるような本なのですよ。

私は基本的にはネタバレ大歓迎で、ミステリ以外の本はむしろネタバレしてもらった上で読む方が好きなくらいなんですけど。
この本に関しては、ミステリ小説以上にネタバレ無しで読んだ方が良い!って思うのですよ。





















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未読の方はこの先の閲覧を控えて、お帰りくださいね。
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ここまで来たら大丈夫でしょうかね。

感想書きまーす。

この本は連作短編集なので、一話ごとに感想を書きたいと思います。





物語は、先に引用したカバー裏の解説の通り、小学生の安藤夏子が魔女からのメッセージ付きの変なステッキを拾うところから始まります。
いかにも何か曰ありげなそのステッキを友達と一緒に魔女の住むマンションの一室に届けに行ったところ、(そのマンションには夏子の同級生だって住んでいるのですから普通のマンションの一室のはずが)何故だか悪夢みたいな世界になっています。

なんか、もうこの辺で「いやおかしいだろ、怪しすぎるし引き返した方がいいだろ?」と突っ込み入れまくりたくなるんですが、夏子達は突き進みます。

ゴミ屋敷みたいな魔女の部屋で夏子達はなんとかお婆さんの魔女に会うことができたのですが、魔女の勘違いや手違いやらでいきなりお友達が二人も魔女に殺されてしまう超展開に。

その後誤解が解けて、魔女は夏子達の願いをなんでも一つ叶えてあげるからそれでお友達を生き返らせたらと提案するのですが。
今度はお友達グループの人間関係上の隠れたもつれが露わになって足を引っ張る奴がでてきたり、仲間を助けることよりも自分の欲望に走る子が出てきたりして、魔女の願いをめぐる内ゲバが始まり、夏子達はうまくみんなを生き返らせることができないまま、結局最終的に夏子以外のお友達は全員死んでしまい死んだままになってしまいます。

その惨状に夏子が泣いていたところ、魔女が「私と友達になろうよ」と、死んでしまったお友達グループの代わりに自分が夏子の友人になることを提案し、夏子の前でおばあさんの皮を脱いで可愛い少女の姿を現します。

その提案を受け入れた夏子はその日の記憶を魔女によって消されることにも同意し、自分の旧友を捨てて新しい可愛い魔女のお友達を手に入れたのでした。




ってところが第一話『魔女マンション、新しい友達』でした。



この本の中で少しでも怖いところを探すとしたら、この第一話の魔女に会いに行くまでの道のりくらいでしょうね。

マンションの部屋のドアを開けると、何故かプラットホームがあって電車がやってきて電車に乗り込んで、その先に魔女の部屋があって。
たどり着いたそこはとんでもない汚部屋で、物とゴミと腐った食物や虫と排泄物とでぐちゃぐちゃの部屋で、しかも室内なのに芝生があったり車が置いてあったり、不穏すぎる部屋を夏子達は突き進んで行くんです。
まだ魔女の正体が分かってない状態でこれらの描写を読んでいると、まるで地獄にでも向かっているみたいでちょっぴり怖くなります(…ただ矢部嵩の作風をもう知っているので、まあこの後にアホな展開はあっても怖い展開はこないだろうとわかりますけど)。

この後のお話にはもう怖さを感じさせるような場面は出てきません、一応ホラー小説ではあるんですが。


夏子があっさり古い友達を捨ててすんなりと魔女を受け入れちゃうところとか、ご都合主義を超えたあえての無茶な展開が面白いです。
おとなしそうに見えて、けっこう夏子がクズな性格をしていることも第一話ですでに分かっちゃいますね。





続く、第二話『魔女家に来る』は読んでいて懐かしい気持ちになりました。

小学生の頃、友達に自分の家族がどう見えてるのかとか、なんか気になったよなーって。
家族を見られると、自分の生活のしょうもなさを知られて、自分がつまんない奴だってのがバレちゃうんじゃないかって、不安になったものです。
なーんか、お友達の家庭はすごくしっかりしてるように見えちゃったりして。
誰だって生活してるんだから、カッコ悪いところやダサいところあるに決まってるのに、それを受け入れて当たり前って思えるようになったの、私もいい大人になってからでしたよ。

子供の頃ってまだ未熟だから、自分に自信が持てないんですよねー。
どんなダサい生活してたって自分は価値ある存在なのだって、なかなか信じられないんだろうなぁ。
そのためにはまずは他人を信じることだと思うんですけどね。

なんかあの必死に自分のダサさを隠してた感じ、むず痒いような気分で思い出しました。


後半の夜の街のクルーズはすごい幻想的で綺麗なお話でしたね。
お姉ちゃんが、好きな男の子の枕元でただ佇んでる(多分こっそり寝ている男子に好きって言っちゃう)シーンも、心がきゅんってなりました。
あー、子供の頃の片想いってそんな感じだったかもーっ!て。




第三話『雨を降らせば』

魔女修行のために、塗り絵ちゃん(魔女)と夏子は二人で、魔法で人々の願いを一つ叶えてあげます。
ただし、願いを叶えたらその人の記憶を消して魔法の存在は忘れてもらうのですが。



魔女の住む同じマンションの住人の女の子Mちゃんは、お父さんを事故で亡くします。

それを知った夏子は、あの子はお父さんに生き返って欲しいと思ってるに違いない。
だから願いを叶えてあげたいって、塗り絵ちゃんに言い出すのですが。
いざ本人に尋ねてみると、彼女はそれを望まないのです。

夏子は単純に『死んでいやだと何故ならないの、そんなに嫌いだったのお父さんのこと』なんて言いますが。

塗り絵ちゃんは『事故で死んだんだねMさんのお父さん。ただの事故ならよかったけれど。例えばそれが自殺だったら、ただ生き返してもまた死んじゃうかもしれないね。死にたくなった理由も消してあげなきゃ。仕事なら探してあげて、喧嘩なら仲直りさせて、愛されないなら長所をあげて、』『ただ巻き戻せばただ繰り返すよね。やり直せば今度はうまくいくのかな。死んだ家族とまた暮らすの。』と。



そう、そんなに単純なことではないのでした。
物事は繋がっている。
出来事はそれ単体でポツンと存在しているわけではなく、他の物事と繋がりがあって存在しているのです。
お父さんが死んだことは悲しくても、だからといって生き返させる(=生き返させて幸せになる)となると、変えなくてはいけないことが多すぎて、それってもう世界の書き換えみたいになってしまう。
とても複雑なことなのでした。

それでもなんとかMちゃんを元気付けようとして、夏子と塗り絵ちゃんはその後、魔法の変な薬でトリップして原宿へ繰り出し、可愛いお洋服を買い求めます。
ドラッグとガーリーとごちゃまぜな、とんでもなくキュートなトリップショッピングです。
こういうの好き!

二人はそれからMちゃんのお父さんのお葬式に乗り込んで大暴れして、Mちゃんの願いを聞き出して、叶えてあげるのですが。

この第三話あたりに来ると、『魔女の子供はやってこない』はただの馬鹿ホラーではないなって感じが強くなってきます。

まあバカはバカなんですけど。
ただのバカじゃなくて、けっこう考えさせられるようなことも多いんですよ。
さっき述べたMちゃんのお父さんの死とか、タイトルの元となっている学校の先生の言ってた雨を降らすことは神様しかしちゃいけないことじゃないかとか。





第四話『魔法少女 粉と煙』

このお話は読んでてかなり気持ち悪くなりました。
ボリボリボリボリボリボリボリボリ。

シンデレラのお話がベースになってますね。
馬車に乗って病院へ向かったり、靴が脱げてしまったり合わなかったり。
こんなロマンチックな演出をしてるのに、内容が、痒い痒いボリボリボリボリだからなー。

お話自体は気持ち悪くはあるけど、割と普通だなぁって思ってたら。
最後の最後、タヒチさんの記憶を消すあたりで一気にブラックに落としましたねー。

タヒチさん、何考えてんだろ。
高い理想を掲げてそれを他人に強要し、あげくに願うことはゲスな思いからの願い。
怖っ。





第五話『魔法少女 帰れない家』

このお話はミステリでしたね。
どんでん返しありの。

お友達の主婦の奥さんが学生時代の知り合いの結婚式に出席する間に、奥さんになりすまして家事を取り仕切ってあげる…ってのが今回夏子と塗り絵ちゃんが叶えてあげた願いなんですけど。

なんか…外から見てたら理想と思っていた家庭だって、たくさんの問題を抱えていてそんなに素敵なものではなくて、でもそれでもやはり家族というのは愛おしいものなのだ…みたいなハートフルな感じでまとめるのかと思ったら。

じつは奥さんもまたゲスすぎた!さすがこの小説の登場人物!

魔法による完全犯罪ですもんね。
アリバイは完璧だし。
しかも記憶も消えるから罪悪感すら無いという。

しかも夏子のお面、あんなことに使うなんて、奥さんいい歳こいて酷いなぁ。

この第五話はこの小説中いちばん構成が良い気がします。
まさかのどんでん返しですごく面白いし。
ちゃんとお話し中に伏線もありましたから、フェアですしね、包丁とか。









第六話『私の育った落書きだらけの町』

前半は塗り絵ちゃんが魔法の国に帰ってしまうお話。

塗り絵ちゃんがもういなくなるというのに、夏子は塗り絵ちゃんと喧嘩してしまって。
一人で小さな女の子の願いを叶えてあげようとして、大失敗してしまい、結局塗り絵ちゃんに助けてもらうという。

で、そこまでは良いとして。
そこからまさかの夏子の人生のお話になり、しかもブルースと結婚しちゃうし!(←ちょっと嬉しい展開)
ビックリしました。

そして、塗り絵ちゃんとの再会。



ところで。
実は私、この本を読んでいるときにフライングして最後の一行を先に読んじゃったのです。
『そうして私は地獄に落ちました。』

この一行から、どんな悲惨な結末が夏子を襲うのかと思っていたら!



まさかあの言葉が夏子の救いだったとは。

ダメな自分を直して天国にいかなきゃって自分を否定するのではなく、クズはクズとして生きそして地獄に落ちる自分を良しとする。
とても優しい言葉だったんですねー。


この第六話では第一話の伏線も一気に回収されたし。
人殺しジュースがなんで提供されたのか、魔女の家の合言葉を教えてくれたおばあさんは誰だったのか、Mちゃんのお父さんが死んだ理由、なによりあの変なステッキを用意したのは誰か。

なんかもう、色々カタルシスでした。


この本が最後にこんなに感動させてくれるとは思ってなかったです。
ビックリ!

この最後のカタルシスを存分に味わうためには、この本は最終話のネタバレは絶対しない方が良いですよねー。











今年はまだ半分しか終わってませんけど。

私が今年読んだベスト本のフィクション部門は、多分この本になると思います。



読んでよかったー!
面白かったー!






私、この本の作者の矢部嵩の本、あと2冊積んであります。
楽しみー!

もっと書いてくれたら良いのになぁ。
寡作なのが残念な作家さんです。

しかし、私より若い人だから、これからまだまだ書いてくれる希望は有りますよねー。
期待して待とっと。
























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私のブログの読書感想文の記事をまとめたページです↓




過去記事もよろしくお願いしまーす。