小説 都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて ──その6── | Berryz LogBook

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彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

完全な拒絶をみせる伶奈の背中を眺めながら、りかが呟くように言った。

「まあ、いっちゃんの場合、彼氏さんは怒ってることすら、気づいてないんだもんね」
「そっか、そうだよね」

汐里はそう頷くと、紗耶の顔を覗き込んだ。

「なんで怒ってるって、わかったの?」
「えっ、それは…返信が遅かったから」
「どれくらい?」
「うんとね、一時間半くらいかなぁ」

絞り出すように言う紗耶の言葉に、汐里が驚いたような声を上げる。

「えっ? 全然、早いっしょ」
「早くないよ、だって夜の9時だよ。お風呂に入ってたとしても、一時間半は長くない?」
「寝落ちしてたのかもよ」
「だったら、そう書くでしょ」

確かにそうかと、汐里も納得せざる得なかった。

二人のやり取りを聞いていたりかが、そっぽを向いたままの伶奈の肩を叩いた。

「ねえ、いっちゃん」
「怒ってないって言ってるでしょ!」

肩を回して手を振りほどく。
そして、りかを睨みつけた。

「そのくだり、もう終わってるから」

呆れ顔で言うりかに、伶奈は「そうなの?」と恍けた表情で返した。

「いっちゃんもね、LINEの返信、ちょっと遅らせてみたら」
「なんで?」
「そうしたら、彼氏さんも怒ってるのかなって思うかもしれないでしょ」
「そうなの?」

不思議そうに首を傾げる伶奈に、りかは自信満々で頷いた。
ところが汐里が顔をしかめ、ダメダメと手を横に振る。

「だって伶奈ちゃん、元々返信遅いじゃん」
「そうか、そうだった」

りかの頭が、がっくりと落ちた。
部活動と受験勉強との両立のせいか、それとも元々の性格なのか、伶奈の返信は恐ろしく遅い。
既読のまま二、三日放置されることなんでザラだ。

今更、既読スルーしたところで、いつものことだと思われてしまうのがオチだろう。

そう言えば、と汐里は外を眺める紗耶の肩に手を置いた。

「その時、どんなやり取りをしたの?」

紗耶は人差し指を顎に当て、天を見上げた。

「ん~とねぇ、『今度のお休み、どこ行く?』って送ったんだよ」
「うん」
「そしたら返信が一言『部活』って」
「えっ、それだけ?」

紗耶は唇をギュッと結んだまま、大きく頷いた。

「それは怒ってるわ」

汐里は背もたれに体を預け、吐き出すように言って遠くを見つめた。
一時間半も待たせた挙句の、絶対的な拒絶を示す一言返信。
これは疑いようもない。
りかも、ストローの袋を弄びながら、たしかに怒ってるねと、何度も頷いた。

伶奈が声を荒げる。

「だから、さっきから言ってんじゃん、怒ってるんだって!」

りかと汐里、そして紗耶の三人は、ゆっくりと伶奈に視線を向けた。
不思議そうに見つめる三人を見回し、伶奈は

「なに?」と眉を寄せる。

三人は咳ばらいをしたり、ドリンクを手に取ったりと、それぞれがあらぬ方を向いた。

 

 

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