小説 都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて ──その5── | Berryz LogBook

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彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

「なんで怒ってるかわかんないのに、謝るの?」


それまで一言も発さずに、行き来する人々を窓から眺めていた紗耶が、伶奈に尋ねた。

「そりゃそうでしょ。悪いことしたんだから謝るのが当然でしょ」

「でも、なにが悪かったか、わかってないんだよ?
 それで謝って、伶奈ちゃん彼氏さんのこと、許せるの?」

「そんなの、許せるわけないじゃん」

「……だよね」

なにか反論するかと身構えた伶奈だったが、その予想に反し紗耶はすぐさま引き下がった。

汐里が紗耶の顔を覗き込む。「なんで怒ってんのか、わかんないの?」

紗耶は顔を上げ「うん」と頷いた。

「心当たりもないの?」

汐里が重ねて聞くと、今度は首を横に振った。

「じゃあ、直接聞いてみたら?」

りかが、提案する。
急な話題の展開についていけない伶奈の表情が曇った。

「ねえ、なんの話ししてんの?」
「いっちゃんは、ちょっと黙ってて」

りかが両手を伶奈の顔の前にかざし、諭すように言う。
伶奈は反論しようと口を開きかけた。
が、その前に紗耶が身を乗り出した。

「伶奈ちゃんさ、彼氏さんが『なんで怒ってんの』って聞いたら、答える?」

「そりゃぁ…」突然の問いに、伶奈は戸惑ったような顔をした。

ちょっとした沈黙が流れる中、りかが口元に拳を当て、ひとつ咳払いをした。

「う、うぅん。伶奈、なに怒ってんだよ」

姿勢を正し伶奈に対して体を傾けて座り直し、太い声を出す。

「なにそれ?」伶奈が眉をひそめた。

「彼氏の役やってんの」

りかが苛立った声を上げる。
答えに窮するに伶奈に、この場でシミュレーションしてみようということらしい。

「そんな言い方しないんだけど」

体を傾けて遠ざかり、横目でりかを睨みつける。

「いいから! ……伶奈、なに怒ってんだよ」

不満顔の伶奈だったが、りかに言いくるめられ、小芝居に付き合うことにした。
居住まいを正す。

「別に。なんも怒ってないんだけど」
「いやいや、怒ってるでしょ」

イタズラっぽく言うりかに、伶奈は顔を近づけオラついた。

「怒ってないし」
「ほら、その言い方。やっぱ怒ってんじゃん」
「怒ってないもん!」

そう言って、伶奈はそっぽを向いた。

そのあとは、なにを言っても受け付けない。
りかが呆れ顔で、汐里と紗耶に視線を送った。

汐里は腕組みをして、口元を少し歪めた。

「結局、言わないってことね」

三人の顔が曇る。

伶奈はそっぽ向いたまま、抹茶ラテを乱暴に掴み取り、ヅヅと啜った。

 

 

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