小説 都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて ──その4── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

「で、その彼氏がどうしたの」

りかがストローの袋を弄びながら聞く。

「この前の土日、試合だったんだけど」

伶奈がそう言うと、知ってるしと、りかが呟いた。

先週末、都のインターハイ予選が行われた。
伶奈の奮闘むなしく、チームは準決勝で敗れた。
勝ち残っていれば、夏の本選に出場できたのだが、敗戦は三年生にとって、その時点での引退を意味する。

事情を知っている幼馴染三人も、当然のことながら応援に駆け付けた。
今更、改めて言われなくてもわかってる。

「そういえば、彼氏さん来てなかったよね」

汐里が言う。三人とも伶奈の彼氏と直接話したことはないが、二人で居るところや、写真で見たりしているので、顔は知っている。

高校最後の試合に、応援に来なかったことを、怒っているのか。
が、伶奈はそうではないんだと、かぶりを振った。

「伶奈が言ったんだもん、来なくていいって」

本番当日は無論のこと、練習に集中するため、二週間前から会っていなかった。
それだけではなく、電話やメール、SNSなど一切の接触を断っていたのだ。

「で、その夜に電話したわけよ」

試合結果については、直後にLINEで報告している。
彼氏からも、ねぎらいの返信があった。

ではあるが、文章だけのやり取りと、直接会話するのとでは、まったく違う。

二週間ぶりに彼氏の声を聞き、伶奈はときめいた。
ところが、である。

「ウチが明日、会おうよっていったらさ、用があるって」

伶奈は口を尖らせた。
汐里が両手で頬杖を突き、ほんの少し首を傾けた。

「そっか。伶奈ちゃん、彼氏さんと会えなかったんだね」

それは寂しいねと、りかが同意した。
伶奈がそうなのよとため息をつく。

しばしの間、沈黙が流れる。
あまりにも長い静寂に耐えきれなくなって、汐里が口を開いた。

「で?」

続きを促す汐里を、伶奈は不思議そうに見つめた。

「なにが?」
「えっ、続きは?」
「これで終わりだけど?」

りかと汐里は顔を見合わせた。

「えっと、いっちゃん怒ってなかったっけ?」

りかが伶奈の顔を覗き込む。

「怒ってるに決まってるじゃん。だって、二週間会えなかったんだよ!」

「でもそれは、伶奈ちゃんが会わないでおこうって言ったんだよね?」

「そうだよ、でも二週間我慢したら、すぐにでも会いたいと思うじゃん。
 なのに、用事があるって、どういうこと?」

なるほど、そういうことか。

伶奈の気持ちはわからないでもない。
だからといって、それでヘソを曲げられたのでは、彼氏の方も堪ったものではない。
そもそも会わないでおこうと言ったのは、伶奈のほうである。

恐るおそる汐里が尋ねた。

「で、彼氏さんはなんて?」
「なんにも」

伶奈はふくれっ面で首を振った。
どうやら、彼氏は伶奈が腹を立てていることすら、気づいてないようだ。

そのことが、さらに伶奈を苛立たせる。
「向こうが謝ってくるまで、絶対に許さない」

すると、それまで一言も発さずに、行き来する人々を窓から眺めていた紗耶が、口を開いた。

「なんで怒ってるかわかんないのに、謝るの?」

 

 

その3             その5