「で、その彼氏がどうしたの」
りかがストローの袋を弄びながら聞く。
「この前の土日、試合だったんだけど」
伶奈がそう言うと、知ってるしと、りかが呟いた。
先週末、都のインターハイ予選が行われた。
伶奈の奮闘むなしく、チームは準決勝で敗れた。
勝ち残っていれば、夏の本選に出場できたのだが、敗戦は三年生にとって、その時点での引退を意味する。
事情を知っている幼馴染三人も、当然のことながら応援に駆け付けた。
今更、改めて言われなくてもわかってる。
「そういえば、彼氏さん来てなかったよね」
汐里が言う。三人とも伶奈の彼氏と直接話したことはないが、二人で居るところや、写真で見たりしているので、顔は知っている。
高校最後の試合に、応援に来なかったことを、怒っているのか。
が、伶奈はそうではないんだと、かぶりを振った。
「伶奈が言ったんだもん、来なくていいって」
本番当日は無論のこと、練習に集中するため、二週間前から会っていなかった。
それだけではなく、電話やメール、SNSなど一切の接触を断っていたのだ。
「で、その夜に電話したわけよ」
試合結果については、直後にLINEで報告している。
彼氏からも、ねぎらいの返信があった。
ではあるが、文章だけのやり取りと、直接会話するのとでは、まったく違う。
二週間ぶりに彼氏の声を聞き、伶奈はときめいた。
ところが、である。
「ウチが明日、会おうよっていったらさ、用があるって」
伶奈は口を尖らせた。
汐里が両手で頬杖を突き、ほんの少し首を傾けた。
「そっか。伶奈ちゃん、彼氏さんと会えなかったんだね」
それは寂しいねと、りかが同意した。
伶奈がそうなのよとため息をつく。
しばしの間、沈黙が流れる。
あまりにも長い静寂に耐えきれなくなって、汐里が口を開いた。
「で?」
続きを促す汐里を、伶奈は不思議そうに見つめた。
「なにが?」
「えっ、続きは?」
「これで終わりだけど?」
りかと汐里は顔を見合わせた。
「えっと、いっちゃん怒ってなかったっけ?」
りかが伶奈の顔を覗き込む。
「怒ってるに決まってるじゃん。だって、二週間会えなかったんだよ!」
「でもそれは、伶奈ちゃんが会わないでおこうって言ったんだよね?」
「そうだよ、でも二週間我慢したら、すぐにでも会いたいと思うじゃん。
なのに、用事があるって、どういうこと?」
なるほど、そういうことか。
伶奈の気持ちはわからないでもない。
だからといって、それでヘソを曲げられたのでは、彼氏の方も堪ったものではない。
そもそも会わないでおこうと言ったのは、伶奈のほうである。
恐るおそる汐里が尋ねた。
「で、彼氏さんはなんて?」
「なんにも」
伶奈はふくれっ面で首を振った。
どうやら、彼氏は伶奈が腹を立てていることすら、気づいてないようだ。
そのことが、さらに伶奈を苛立たせる。
「向こうが謝ってくるまで、絶対に許さない」
すると、それまで一言も発さずに、行き来する人々を窓から眺めていた紗耶が、口を開いた。
「なんで怒ってるかわかんないのに、謝るの?」