Berryz Quest 第八話 ──その40── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

牢獄の固い床の上で、ミヤビは目を覚ました。
 
硬い靴音の響きが、近づいてくる。
 
起き上がろうとするのだが、背中に激痛が走り
うつ伏せの状態から、まったく身動きできない。
 
──キャプテン、ちゃんと逃げたかな。
 
モモコとアイリは大丈夫だろう。
ああ見えて、モモコは意外としたたかだ。
 
心配なのは、城内に舞い戻ってきたサキだ。
 
家令が倒れたところまでは憶えているが
そこから記憶がない。
 
一命を取り留めたということは
ここは子爵の屋敷ではないということだ。
 
ならば無理をすることはない。
ミヤビを置いて、ひとりで逃げてくれていれば。
 
そんなことを考える内、足音がすぐ近くで止まった。
 
鍵を回す音に続いて、扉が開かれた。
 
「立て」
 
男の声がした。

起き上がろうと腕に力を入れるのだが
やはり身体が持ち上がらない。
 
すると両腕を抱えられ、無理やり立たされた。
引きずるようにして、牢から出された。
 
どこに連れて行かれるのだろうか。
 
──まさか、死刑とかには、なんないよね。
 
まだはっきりしない頭で、ミヤビは考えた。



モモコが連行される少し前、サキは城内の執務室で
領主アクアサンタ公と対面していた。
 
「ミヤは…一緒に捕まった私の仲間は
 どうなったのですか?」
 
この部屋に連れてこられるまでにも
ミヤビの安否について、何度も尋ねた。
だが、誰も答えてくれなかった。
 
それどころか、なにひとつ口を利かない。
サキがこれまでの経緯を話そうとしても
誰一人聞く耳を持たない。
 
そして今、領主の眼前に居る。

部屋の中には、数人の側近、それに団長を筆頭とした
近衛兵数名が居るだけだ。
 
領主が口を開いた。
 
「連れのことなら心配せずとも良い。
 手当ては施した。命に関わることはない」
 
サキは安堵の息をついた。
 
「さて、そなたは、なぜあのような場所に居た。
 なにが目的だ。話してもらおうか」
 
サキは城内に忍び込んだ理由、子爵の悪行を
隠し立てすることなく、全て話した。

その間、領主はいくつかの質問を投げかけるだけで
静かに聴いていた。
 
話し終わると、サキの証言を書き取っていた側近が
その調書を領主に差し出した。
 
領主は、その書面に目を落とした。
ときおり側近や団長と耳打ちする。
 
一通り読み終えると、サキに鋭い視線を向けた。
 
「つまり深夜、密かに城内に侵入し
 屋敷に火を放ったことは、認めるわけだな」
 
調書に目をやりながら、領主が声をあげた。
サキは大きく、そしてしっかりと首を縦に振った。
 
「はい、事実です。ですが殿下…」
 
発言しようとするサキを、領主は手を上げ制した。
わかっておると頷き、書面に目を走らせる。
 
「確かに、この証言が事実であれば、由々しき事態だ。
 すぐにでも議会を開き、子爵の処分を検討せねばならぬ。
 しかしだ、証拠がない」
 
領主はそう言いながら、調書を指で叩いた。
 
「それは、当事者であるアイリに訊いてもらえれば…」
「話にならんな」
 
領主は鼻で笑った。豪華な刺繍が施された
大きな背もたれに身をゆだねる。
 
「売名行為や金品目的で、貴族や有力な人物を
 訴え出る事例は多々ある。
 著名な錬金術師といえど、本人の証言だけで
 爵位を持つ者を糾弾するわけにはいかん」
 
「証言なら私どもがします。
 拉致されるところを目撃しましたし
 彼女が屋敷に監禁されているところも発見しました」
 
「賊の証言が、証拠になりうるわけがなかろう」
 
重い空気が流れる。

二人のやり取りを書き取るペンの音が聞こえるだけで
他の側近や近衛兵たちは、存在を消し去るように
微動だにしなかった。





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