Berryz Quest 第八話 ──その39── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

突然、外が騒がしくなった。
 
馬のいななき、車軸の回る音、男たちの声。
 
モモコは窓に駆け寄ったが
外に目をやることなく駆け戻った。
 
慌てて揺れる蝋燭の火を吹き消す。
 
ひょっとすると、子爵の手の者かもしれない。
 
アイリの家に戻れば安心だと思い込んでいた。
だが、そもそも彼女は、ここから連れ去られたのだ。
ある意味、もっとも危険な場所だ。
 
サキはそこまで指示しなかったが
ここに戻った後、すぐにでも信頼の置ける
誰かのもとに駆け込むべきだったのだ。
 
モモコは己の迂闊さを呪った。
 
カーテンの隙間から外を伺う。
垣根の向こうに立派な馬車が見えた。
 
が、昨日見た子爵の馬車とは違っていた。
屋根に君主アクアサンタ公の紋章が記されている。

周りを囲む騎馬は、領主直轄の兵たちだ。
 
激しく扉を叩く音が鳴り響いた。
 
アイリが不安げな視線を巡らせた。
モモコも、どうすればいいのかわからず、おろおろした。
 
扉を叩く音は、激しさを増した。
 
「殿下の使いである。中に居るのはわかっておる。
 なにをしてる、早くここを開けぬか!
 さもなくば扉を打ち破るぞ!!」
 
男の怒鳴り声が響き渡った。
 
「ど、どうしよ? アタシ、どうしたらいいかな?」
 
アイリがモモコの手を取った。
落ち着きなく身体を動かす。
 
「そんな、モモに訊かれたって…」
 
モモコも、アイリの動きに合わせるように
身体を揺らせた。
 
扉を叩く音は、まだ続いている。
モモコは窓に顔を向け、外を見やった。
 
「あの馬車、モモたちのこと捕まえにきたにしては
 立派すぎるし、とりあえず出てみる?」
 
貴族や町の有力者を連行するならともかく
モモコやアイリの様な庶民相手なら
幌馬車の荷台に押し込められるのが関の山だ。
 
伝説の錬金術師といえど
罪を犯せば特別待遇はない。
 
「そ、そうだね。扉、壊されちゃ困るしね」
 
ふたりは覚束ない足取りで、玄関に向かった。
 
なおも叩きつけられる扉に向かってアイリは
「今、開けます。お待ちください」と震える声で応えた。
 
扉を開けると、厳めしい顔つきの兵たちが立っていた。
 
手を取り合い、怯えるふたりの顔を見比べ
ひとりの兵が声をあげた。
 
「どちらがこの家の主だ」
 
アイリがモモコを振り返りながら、おずおずと一歩前に出た。

すると兵は後ろに居るモモコに向かって
顎をしゃくって見せた。
 
「そこの者、城まで連行する。出てきなさい」
 
モモコは目を見開き、自分の顔を指差した。
 
兵がしかめっ面で、億劫そうに頷いた。
モモコは手と首を全力で振った。
 
「モモ、なんにも悪いこと、してないですよ。
 ずっとここに居たし。
 お城に忍び込んだりとか、してないですよ!」
 
必死で言い訳するモモコに、アイリは声は出さずに
「ダメ、ダメ」と口を動かしながら首を小刻みに振った。
 
だがパニックに陥ったモモコには、まったく通じない。
 
「子爵の屋敷に、火なんか点けてないし」
 
と誰も訊いていないことを口走る。
もうダメだと、アイリがうな垂れた。
 
兵がうんざりした口調で言う。
 
「そなたを捕えるとは、誰も言ってないだろうが。
 いいから来なさい」
 
モモコの手を掴み、強引に引っ張る。
 
「モモ!」
 
アイリがその後を追おうとするが、兵たちに阻まれる。
 
馬車に連れ込まれるまで、モモコは
何度も振り返りアイリを見た。
 
「アイリ、心配しないで!」
 
モモコはそう叫んだ。

だが、彼女の胸の内に、どうなるんだろうという不安が
止め処もなく広がっていった。




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