:*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'゜::*'



上層部の人が一沙にお見合い話を持ちかけているのを、天王寺さんとこっそり聞いてしまった。


(お見合いって・・・・一沙、どうするつもりだろう)


本当は耳を塞ぎたかったけど、私はざわめく胸を押さえて耳を澄ませた。


上層部 『お相手は政治家の娘さんだ。お前のキャリアを考えたら、絶対にいい話だと思わないか?』


(キャリアのための結婚・・・・)


花井 『ありがたいお話とは思いますが、私にはもったいないお話かと・・・・』


上層部 『先方も是非話を進めて欲しいと仰ってくださっているんだ』


(そ、そんな・・・・)


花井 『お言葉ですが、私はまだ結婚は考えられません』


お見合いを断るためだとしても、一沙の言葉にズキンときた。


上層部 『別に今すぐ話をまとめて結婚しろってわけじゃない。まずは婚約しておいて、結婚の時期はまたそれから考えればいいじゃないか』


花井 『申し訳ありませんが、婚約自体、やはり私にはまだ早すぎます。失礼は承知で申し上げます。今回のお話はお断りさせていただけないでしょうか』


上層部 『花井、将来出世するにはきちんとした女性と結婚すべきだってことくらい、分かっているだろう?』


(いくら勉強して優秀でも、それだけじゃ出世できないんだ・・・・)


上層部 『こんな良い話、めったにないぞ?それに先方も喜んでくれてるんだ』


花井 『ですから・・・・』


上層部の人はあえて一沙の言葉を遮るように続けた。


上層部 『とにかく会うだけ会っておけ。俺が話を進めておく。いいな?』


花井 『お約束できません』


上層部 『いいから会ってみろ。かなりのべっぴんさんらしいぞ。会ったら気が変わるかもしれんじゃないか』


花井 『そうは仰られましても、私は・・・・』


天王寺 『おい』


(キレイな政治家の娘か・・・・)


天王寺 『おい!』


(一沙のキャリアを考えたら、私じゃ不釣合いなのかな・・・・)


天王寺 『櫻井!』


肩を揺すられてはっとした。


天王寺 『2人が話を切り上げる前に戻らんと』


あず 『は、はい』


私と天王寺さんは廊下を歩きながら、ひと言も交わさなかった。

言葉を発する元気など、これっぽっちもなかったから。









2課に戻ってしばらくして、一沙も帰ってきた。


桐沢 『おお、花井。一体どこに行ってたんだ。探したぞ』


花井 『申し訳ありません。ちょっと用がありまして』


いつもと変わらない様子の一沙。

なんだか、隠し事をされてるような気がして、ますます気分が塞ぐ。

一沙は桐沢さんのデスクに向かうと、捜査方針について話し合い始めた。

私は捜査資料に目を通しながらも、頭にちっとも入ってこない。

それだけ心がからっぽだった。


花井 『櫻井』


一沙に呼ばれて、一瞬ドキッとした。


花井 『さっきは話の途中にすまなかった』


あず 『・・・・いえ』


一沙を見ることができなくて、資料から目を上げずに答える。


花井 『どうかしたのか?』


あず 『・・・・・・』


花井 『櫻井?』


(まさか立ち聞きしたなんて言えない。仕事中だし、一沙に落ち込んでる姿を見せるわけにはいかないよね)


私は顔を上げるとパッと笑ってみせた。


あず 『あ、ごめんなさい!資料に集中してました!』


花井 『怒ってるのかと思った』


あず 『やだなー、花井さん!そんな会話の途中でいなくなったからって、怒ったりしませんよー!』


花井 『そうか。ならよかった』


一沙は安心したように微笑んだ。


(とにかく今はいろんなこと考えるのはよそう。仕事に集中しよう!)


私は気持ちを入れ替えようと、大きく息を吐いた。


京橋 『なんだか喉渇きました』


あず 『あ、私、コーヒー淹れます!』


勢いよく立ち上がると、椅子が後ろに倒れた。


天王寺 『あーあー』


浅野 『少し落ち着きなよ』


あず 『全然落ち着いてますよー!で、みなさんも飲みますか?』


みんながうなずいたので、全員分のコーヒーを淹れて配り歩いた。

席に戻って取り調べ調書に目を通す。

いつも時間が掛かる報告書も、集中すると半分の時間でまとめられた。


あず 『桐沢さん、報告書ができました!』


桐沢 『おー、ずいぶん早いな』


あず 『なんかすごくやる気がわいてきちゃって!』


桐沢 『頼もしくなったなあ。花井に鍛えられたからかな?』


あず 『あははー!』


桐沢さんはからかうような目をして笑うと、タバコをふーっとふかした。


あず 『そろそろ鑑定から窃盗犯の指紋の照合が上がるはずなので、ちょっと行ってきます!』


私は桐沢さんに一礼すると、そのまま2課を後にした。









鑑定室へと廊下を急ぐ。


(忙しくしてると余計なこと考えなくて済むからいいな。もっともっと仕事がんばろう!)


天王寺 『櫻井』


あず 『天王寺さん、お疲れさまです!』


天王寺さんはふっと小さく息を吐くと、私をじっと見つめた。


天王寺 『今晩飲みに行こうや』


あず 『え・・・・でも仕事が』


天王寺 『ええやん、仕事なんて。とにかく、モンステで待ち合わせな。定時で上がれよ?』


天王寺さんはそういい残すと、私の返事など聞かず、すたすたと歩いて行ってしまった。









モンステに行くとすでに天王寺さんがカウンターに座っていた。


天王寺 『遅いわ。俺を待たせるなんていい度胸しとるやないか』


あず 『すみません』


阿賀佐 『今日は珍しいツーショットだな。っつーか、お、お前ら、まさか裏でこっそり付き合ってるんじゃ・・・・』


天王寺 『アホか。なんで俺がこんな女と付き合わなあかんのや』


あず 『それはこっちのセリフです』


天王寺 『あーあー、一沙に一途やもんな、お前は』


私と天王寺さんは飲み物をオーダーして乾杯をした。


天王寺 『ほんで、今日ここに誘ったのは、カラ元気なお前を見てられんかったからや』


あず 『カラ元気?私は普通に元気ですよ?』


天王寺 『ほんまにそうか?言い切れるんか?』


あず 『・・・・・・』


天王寺 『もっと素直になれっつーの』


あず 『・・・・すみません。あんなこと聞いちゃったら、どうしていいのかわからなくて』


天王寺 『お前の気持ちはわかる。俺もびっくりしたからな。でも俺は一沙のこと信じとる。なにかと鼻持ちならないヤツやけど、アイツは信じれるヤツや』


あず 『天王寺さん・・・・』


天王寺 『一沙、上層部のヤツに断っとったやないか。お前も聞いたやろ?』


あず 『はい』


天王寺 『あれが一沙の本音やと思うけどな』


あず 『そうですかね・・・・そうだといいんだけど』


私を安心させようと天王寺さんがやさしく微笑んでくれた。

そのやさしさに胸がじんとする。


天王寺 『ま、飲めや、櫻井』


あず 『はい!』


少し心が軽くなった私はカクテルをぐいっと飲んだ。


天王寺 『お、おい!大丈夫か、そんな飲み方して?』


あず 『大丈夫です、これぐらい』


口ではそう言ったものの、思ったより強いカクテルに、一気に酔いが回り始めた。

しばらくして・・・・


あず 『花井さんってプロファイリングが得意なのに、私がお見合い話のこと知ってるって見抜けないんですよ?』


天王寺 『そら、仕方ないんやないか?』


あず 『私のこと全然わかってくれてない。鈍いですよ、バカですよ』


天王寺 『バカって、それはないやろ。言い過ぎやないか?』


あず 『いいんです!ほんとに嫌になるくらいバカなんですけど、すっごくやさしいんです』


天王寺 『あ?』


あず 『デートの時は絶対レディファーストだし。家ではお茶漬け作ってくれたりするんですよ?』


天王寺 『はあ』


あず 『仕事では厳しいけど、2人の時はほんと優しくて・・・・』


天王寺 『結局はのろけとるんやないか』


あず 『いいじゃないですか!だって本当のことなんだし!あ、マスター、カクテルのお代わりください!』


阿賀佐 『飲みすぎじゃないのか?』


あず 『ぜーんぜん大丈夫ですっ!で、花井さんって・・・・』


天王寺 『しょーがない。今日はいろいろあったんや。飲ませてやってくれ』


阿賀佐 『そうか』


マスターは小さく微笑むとうなずいた。