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2課に戻るとみんながホワイトボードの周りに集まっていた。
花井 『ボス、事件と言うのは?』
桐沢 『子供誘拐事件と詐欺事件が起きた』
花井 『誘拐事件の身代金の要求はあるんですか?』
桐沢 『いや、今のところない。詐欺の方は500万円騙し取られたとのことだ』
花井 『わかりました。天王寺と櫻井は誘拐された子の自宅で聴取だ。俺と京橋は詐欺事件にあたる。浅野と瑛希は』
浅野 『花井さん、俺は引き続き強盗事件を追いたいんですけど』
花井 『そうだな、じゃあ瑛希、浅野と一緒に行ってくれ』
八千草 『了解です!』
桐沢 『みんな、よろしく頼む。何かあったらすぐに連絡してくれ』
一同 『はい!』
私たちはコンビに分かれて、2課を後にした。
天王寺さんの運転する車で被害者宅へと急ぐ。
天王寺 『櫻井、すまんかったな』
あず 『なにがですか?』
天王寺 『お前を見合いの席になんか連れて行かなければよかったって・・・・お節介にもほどがあんな、俺』
ハンドルを握って前を見つめたまま、元気のない声で言う天王寺さん。
私は首を横に振って笑顔を作った。
あず 『気にしないでください、天王寺さん。私、最初から花井さんにはふさわしくなかったってことなんですから。あの場に行かなかったら、知るべきことも知らないままだったんだし・・・・よかったんですよ。花井さんの本当の気持ちが分かったんだから』
天王寺 『俺は違うと思う。知らなくてもいいことやったと思う』
あず 『ううん、知らないままでいるより、今知ってよかったんです。もっと先に知ることになったら、もっと傷ついたと思うし・・・・』
天王寺 『お前さ・・・・いい子にもほどがあるんじゃね?』
あず 『・・・・・・』
天王寺 『辛いのにニコニコしてさ、一沙に気を遣ってさ。そんなことして、お前の気持ちはどうなるんや』
あず 『・・・・・・』
一沙のこと大好きだけど、一緒にいたらキャリアの邪魔になる。
遠ざかってあげることこそ愛情・・・・。
自分の気持ちに向き合ったら、現実からますます目をそらせなくなる。
目をそらしちゃいけないってわかってるけど、見つめるだけの心の準備がまだできていない・・・・。
あず 『わかんないです、自分でも・・・・』
私はそれ以上なんて言ったら良いのかわからなくて、
窓の外の景色をぼんやりと眺めることしかできなかった。
天王寺 『お前さ、一沙にふさわしくないからって諦めんのか?』
あず 『・・・・・・』
天王寺 『結婚相手の家柄なんかかすむくらいに、お前が一沙にふさわしい女になればええんちゃうの?』
(ふさわしくないから諦めるんじゃなくて、私がふさわしくなればいいい・・・・?)
天王寺 『一沙のことがほんまに好きやったら、できるやろ?お前も刑事として実績作って、キャリアを積めばええんとちゃうか?』
あず 『刑事として実績・・・・』
(そうだよね。私、ずっと一沙に認められたいと思って仕事頑張ってきた。だから仕事で一沙と釣り合う人になればいいんだ)
天王寺さんの言葉が今ようやく胸にストンと落ちた。
(私がもっと変わればいいんだ・・・・それなら、決してできないことじゃない。だって一沙のこと、今さら諦めるなんてできないよ・・・・)
あず 『私、やってみます。どこまでできるかわからないけど、やっぱり花井さんにふさわしい人になりたいです』
天王寺 『それでこそ櫻井!』
あず 『はい!天王寺さん、ありがとうございました!私、すごくやる気になってきました!』
天王寺 『お前ってほんまに単純やなあ』
さっきと打って変わった私を見て、天王寺さんは楽しそうに笑ってくれた。
子供が誘拐されたお宅では母親がむせび泣いていた。
母 『わ、私の・・・・せい・・・・です・・・・私が・・・・ちょっと目を離した隙に・・・・あの子、いなくなって・・・・』
あず 『お子さんはどこで遊んでいたんですか?』
母 『公園の砂場で・・・・』
天王寺 『怪しい人物は見かけましたか?』
母 『いえ・・・・まったく気付きませんでした』
天王寺 『お子さんの叫び声も何も聞こえなかったってことですか?』
母 『はい・・・・なにも聞こえなかったです。け、刑事さん・・・・どうか、あの子を助けてください』
あず 『お母さん、大丈夫ですよ!必ず助けますから。私たちに任せてください』
(こんなに辛い思いをさせる犯人を許せない。絶対に捕まえて見せてやる。だから今は、一沙のことは考えないようにしよう)
私は震える母親の方を抱きしめて、自分にそう誓った。
警視庁に戻った時にはすでに日が暮れかかっていた。
天王寺 『参ったな。公園には防犯カメラもないし、現場には遺留品もない』
あず 『母親が目を離していたのは数時間ですし、車で連れ去られたとしか考えられないですね』
?? 『天王寺さん、櫻井さん』
振り向くと、一沙と京橋さんもちょうど戻ってきたところだった。
花井 『お疲れさま。そっちはどうだった?』
天王寺 『手がかりはまったくなしや。どこのどいつかさっぱり分からん』
花井 『こっちもだ。犯人は最初から偽名を使っていたし、携帯も他人名義だった]』
花井 『被害者の女性はショックのあまり泣くだけで、あまり話を聞けなかった』
京橋 『騙し取られた500万円は手渡していました。犯人は最初からアシが付かないように考えてたのでしょう』
私たちはやるせない思いでため息を付くと、警視庁へと入ろうとした。
とそのとき・・・・
あず 『わっ』
自動ドアの溝にヒールを挟んでしまい、転びそうに!
でも次の瞬間、腕を強く掴まれた。
(え・・・・?)
一沙が私の腕をぎゅっと掴んで、支えてくれていた。
(一沙・・・・)
心配そうな目で私の顔を覗きこんでくる。
花井 『危なかった』
あず 『・・・・すみませんでした』
私は小さく頭を下げると、私を掴む一沙の手から、腕を引っ込めた。
花井 『大丈夫か』
あず 『もう大丈夫ですから・・・・』
花井 『・・・・あぁ』
一沙の力がすっと抜けた。
(なんで胸がちくっとするのかな・・・・)
自分で腕を引いたはずなのに、手を離されたら寂しくて仕方なくなってしまった。
捜査状況を話し合ったり、報告書をまとめているうちにあっという間に夜になった。
浅野 『これから瑛希と再度、強盗事件の現場に行ってきます』
八千草 『聞き込みしたらそのまま直帰してもいいですか?』
花井 『あぁ。よろしく頼んだぞ』
バタン
ドアが開くと、桐沢さんが顔を覗かせた。
桐沢 『天王寺、京橋、ちょっと来てくれ。野村が呼んでる』
天王寺 『はい、わかりました』
京橋 『野村さん、一体何の用でしょうね』
みんながぞろぞろと2課から出て行くと、私と一沙の2人きりになってしまった。
沈黙が部屋を満たし、なんとなく居心地が悪い。
だからと言って、何を話したらいいのかわからない。
私は仕方なく、報告書に集中することにした。
花井 『あず』
下の名前で呼ばれて、胸がドキンとした。
一沙はパソコンから視線をこちらに向けると静かに私を見つめた。
花井 『さっき言いかけたことだけど・・・・』
あず 『さっき?私たち、なんか話してましたっけ?』
花井 『ほら・・・・カフェスペースで・・・・』
一沙は言いにくそうに言うと、唇をキュッと結んだ。
あず 『カフェスペース・・・・?えっと、ごめんなさい。なんの話してたんでしたっけ・・・・』
花井 『・・・・お前、泣いてただろ』
(あ・・・・一沙、気にしてくれてたんだ)
私を見つめたまま、一沙は視線を逸らさない。
真剣な瞳に私が小さく映っている。
(でも、今はもう、さっきみたいに泣いてた私と違う。だって一沙に釣り合う人になろうって決めたから)
私は一沙を見つめ返すと、パッと笑った。
あず 『もう泣かないよ』
花井 『え・・・・?』
あず 『私、決めたんだ。刑事として一生懸命仕事をして、一沙に認められるようになろうって』
花井 『・・・・・・』
あず 『私、一沙に不釣合いだって思われたくない。家柄は変えられないけど、自分のことなら変えられる。だからもう泣いたりなんかしないよ』
花井 『あず・・・・』
一沙はまっすぐに私を見つめたままだったけど、その目の奥はあたたかかった。
花井 『必ず犯人を捕まえような』
あず 『うん』
花井 『お互いのために』
あず 『うん、お互いのために』
私たちはお互いに頷くと、久しぶりに微笑み合った。