捜査データを調べてまとめる作業は、思った以上に時間がかかった。
分かりやすいように時系列にデータをまとめ、
犯人のものと思われる遺留品の写真も組み込んでいく。
(あれ?この日の事件では遺留品はなかったのかな。写真の撮り忘れかな)
私はイスから立ち上がると、倉庫の奥へ行き、遺留品を探し始めた。
(日付からするとこの辺にあるはずなんだけど・・・・)
ごそごそと箱を探っていると、キーッとドアの開く音がした。
(誰か調べ物しに来たのかな)
ガチャ
(え?)
明らかに鍵を閉める音がした。
コツ、コツ、コツ・・・・
足音が近づいてくる。
(誰!?何なの!?)
私は音を立てないように箱を棚に戻し、息を潜めた。
コツ、コツ、コツ・・・・
確実に私の方へと近づいている。
(どうしよう・・・・でも、なんとかしなくちゃ!)
静かに、でも大きく息を吐き、気持ちを整える。
棚の影から人影がすっと現れると、私は意を決して身構えた。
あず 『誰!』
大きな声を上げ、棚の向こうを睨みつける。
が、そこから現れたのは、なんと一沙だった。
花井 『大声上げんなよ』
あず 『か、一沙・・・・』
安堵のため息をつくと、私は棚にもたれかかった。
あず 『脅かさないでよ。ほんとに怖かったんだから!』
思わず睨む私に、一沙は呆れたように笑う。
花井 『そんな怖い顔すんなって』
あず 『誰のせいだと思ってるの?』
花井 『さあ』
一沙は答えをはぐらかすように笑ってみせる。
花井 『ボスが、お前がまだ戻らないって言うから来てみた』
あず 『そ、そっか・・・・。捜査はどうなの?』
花井 『防犯カメラに映った人物と参考人が同一っぽくて、天王寺と浅野が早々と任意同行した』
あず 『え、もう任意同行したの?』
花井 『ああ。今、天王寺が事情聴取してる』
あず 『そうなんだ。で、一沙はここにいていいの?』
花井 『ああ。天王寺に任せておけば間違いない。俺は休憩』
一沙はにっこり笑うと、一歩踏み出して私の目の前に立った。
と次の瞬間、ぐいっと私を抱き寄せた。
あず 『か、一沙!?ちょっと!』
いきなり抱き締められて、言葉を失う。
花井 『嫌なのか?』
(嫌?そんなわけない・・・・)
私は言葉が出ず、頭を振るだけで精一杯だった。
(一沙の腕の中、久しぶり・・・・あったかくて気持ちいい)
一沙はさらに私を強く抱きしめ、髪に顔をうずめた。
花井 『いい匂い。あずの髪の香り、久しぶりだ・・・・』
一沙のあたたかい息がかかって、思わず力が抜ける。
(ずっとこうしていたい。でも・・・・やっぱり心配)
あず 『ねえ、一沙』
花井 『なに』
あず 『こんなことするの、やっぱりまずいよ・・・・』
花井 『なんで』
あず 『誰か来たらどうするの・・・・?』
花井 『鍵閉めた』
あず 『あ・・・・』
一沙は腕を緩めると、片手で私の顎をぐいっと持ち上げた。
花井 『俺を誰だと思ってる?』
あず 『え・・・・』
一沙はわざとニヤリと笑うと、ゆっくり顔を近づけてきた。
ふわりと重なった一沙のあたたかい唇。
久しぶりの感触に、瞼が自然に落ちる。
甘く、優しく、とろけるようなキス。
一沙は時にじらしながら、私をますますキスに夢中にさせる。
花井 『あず』
キスをしながら一沙がささやく。
あず 『え?』
花井 『今度、お前の休みに合わせて有休とるよ。どっか行こう?』
(一沙・・・・それってつまり、休日のデートができるってこと?)
うれしすぎて、私は一沙にきゅうっと抱きついた。
花井 『どうした?』
あず 『ううん、なんでもない』
(一沙とたくさんの時間、一緒にいられるなんて!幸せすぎて言葉にならない)
そんな中、ふと理性が過ぎる。
(有休取ると、他の日の仕事がきつくなる。私のためにそんなことさせられない)
私の心は2つの選択の間で大きく揺れ動いた。
花井 『どこに行こうか?あずの行きたいところに行こう?』
あず 『・・・・・・』
花井 『どこがいい?』
あず 『・・・・いいよ、無理しないで』
結局、理性が勝ってしまった・・・・。
一沙はキスを止めると、私をまっすぐに見つめた。
花井 『どうしたんだ、急に』
あず 『・・・・・・一沙、無理してまでお休み取らなくていいよ』
花井 『無理してないよ』
あず 『でもいいから、私に気を遣わないで?』
花井 『別にそういうわけじゃない』
あず 『でもとにかく、有休取ってまで出掛けなくていいよ』
花井 『・・・・・・』
一沙は小さく息を吐くと、唇をきゅっと結んだ。
花井 『わかった・・・・。じゃ、その代わりに』
一沙は私の髪をすいて、うなじにキスをした。
やわらかい唇の感触に思わずドキッとする。
一沙はそのまま首筋に唇を這わせ始めた。
手は背中から腰へとゆっくり撫でるように下りていく・・・・。
あず 『ちょっと、一沙?な、なに?』
花井 『いいだろ?』
熱い吐息に思わず目を閉じてしまいそうになるのを、必死にこらえる。
あず 『よくないって!さすがにそれはダメだって!』
花井 『なんでだよ』
あず 『ここ庁内だし!』
花井 『そんなの関係ないだろ』
あず 『あるに決まってるでしょ!』
花井 『うるさい、黙れ』
一沙はキスで私の口を塞いだ。
あず 『ん・・・・ん・・・・!だ、誰か来たらどうするの!』
花井 『誰も来ないよ。鍵閉めたんだから』
あず 『そういうことじゃなくて!とにかくダメ!止めて!』
一沙の手がピタリと止まり、唇もふと離れた。
でも息のかかるほどの距離で私を睨む。
花井 『こんな気持ちにさせといて、ここでお預けかよ。ヒドイ奴だ』
あず 『・・・・ごめん』
花井 『本当に悪いと思ってる?』
あず 『・・・・うん』
花井 『だったら、どこまでなら許してくれる?』
一沙はいきなりぎゅっと力いっぱい抱きしめてきた。
あず 『か、一沙・・・・!?なんでそうなるの?』
花井 『どこまでか言えよ』
あず 『そんな・・・・』
花井 『なあ』
あず 『・・・・・・』
花井 『聞こえない』
あず 『・・・・・・』
花井 『あず、言って』
耳元で、ようやく聞こえるほどの小さな声で、甘えるようにささやく。
(か、かわいい・・・・)
私は一瞬、力が抜けた。
そんな私を察したのか、一沙は髪にキスを浴びせてきた。
花井 『本当にいい香りがする』
あず 『・・・・・・』
一沙は私の髪を除けると、今度は耳にキスをし、またうなじへと唇を這わせた。
あず 『っもう・・・・』
誰かに見つかったらどうしよう・・・・。
ドキドキしながらも、私は一沙の愛撫を受け入れた。
一沙と別れた後、私は化粧室に入った。
鏡の前に携帯を置き、しばらく鏡の中の自分を見つめる。
(何やってるんだろう、私・・・・)
少し乱れた髪をて具氏で整えながら、ため息が漏れる。
(有休取るって言ってくれたのに、どうして素直にありがとうって言えなかったんだろう。ありがとうって言うのは、別にワガママでもなんでもないはずなのに・・・・)
私は鏡に映る情けない自分にもう一度ため息を吐くと、そっと目を逸らした。
廊下に出るや否や、2課のみんなが血相を変えて走り回っていた。
あず 『どうしたんですか?』
京橋 『非常にまずいことが起きたのです』
あず 『何ですか?』
浅野 『通り魔犯が逃げた』
あず 『えっ!?』
天王寺 『俺に引き継いで1課が事情聴取してたんやけど、隙を狙って逃げやがった!』
八千草 『1課ってどうしようもなく間抜けですよ!』
とそこに、一沙が走ってやってきた。
花井 『犯人が逃げたって本当ですか?』
桐沢 『ああ。まだ庁内にいるのは確実だ』
花井 『手分けして捜した方がいいですね』
桐沢 『そうだな。じゃあ・・・・』
あず 『あっ』
桐沢さんの指示を仰ごうとしたそのとき、ポケットに携帯がないことに気付いた。
あず 『す、すみません、私、携帯を化粧室に置き忘れちゃったみたいで・・・・』
天王寺 『あー?』
花井 『ったく。ぼやっとしてるからそういうことになるんだ!』
あず 『すみません・・・・』
花井 『いいから早く取って来い!』
あず 『はい』
私は化粧室へと猛ダッシュした。
あず 『あった!』
鏡の前で携帯を発見。
あず 『よかった』
ほっとして独り言が出た直後、なぜか体が固まった。
(え・・・・?)
背後から視線を感じた。
(嫌な予感がする。まさか・・・・でもそんなはずは・・・・)
私は息を飲むと、意を決して振り返った。
と次の瞬間・・・・
あず 『痛っ!』
いきなり激痛が走った。
(一体、何が起こったの・・・・?)
私の意識はそのまま遠のいていった・・・・。