一沙の家のリビング。
相変わらずキレイに整理整頓されている。
花井 『あず、先にシャワー浴びな』
あず 『ううん、一沙、先に浴びて』
一沙はふっと小さく笑った。
花井 『前にもこんな会話したことあったな』
あず 『ゴミの中から私のお守りを探してくれたとき?』
花井 『ああ』
一沙の手がゆっくりと伸びてきて、私の髪をすく。
私の目をまっすぐに見つめて、ふわりと微笑んだ。
花井 『今日は一緒に浴びる?』
あず 『!?』
(急になに聞くの・・・・!?だめだよ、そんなの、さすがにまずいよ・・・・)
あず 『そ、そ、それは・・・・ちょっと・・・・』
頭を横に振って答えると、殴られた箇所がズキンとした。
あず 『痛っ』
とっさに頭を抱えると、一沙が心配そうに頭を覗いた。
花井 『まだ痛むか。確か冷蔵庫に保冷剤あるはずだから、後で冷やそう』
あず 『うん・・・・』
花井 『じゃ、先に浴びてくる。ソファでくつろいでて』
あず 『うん。いってらっしゃい』
花井 『お待たせ。入ってきな』
一沙がリビングに戻ってきた。
せっかくシャワーを浴び終えたというのに、きちんとシャツを着て、ネクタイを締めている。
(そっか。この後、一沙は仕事に戻らないとならないんだもんな)
花井 『これ、お前のシャツ』
あず 『ありがとう。じゃあ、シャワーお借りします』
花井 『ごゆっくり』
一沙からシャツを受け取り、私はシャワーへと向かった。
シャワーを浴び終え、一沙のシャツを着てリビングへ戻る。
花井 『おかえり』
一沙はソファでワイングラスを傾けて、すっかり寛いでいる。
花井 『あず、こっちおいで』
手招きする一沙の元へ行き、隣に座る。
一沙は自分の服を着ている私をじっと見つめた。
花井 『そのシャツ、ちょっと小さかったか・・・・』
あず 『そうかな。ぴったりだよ』
花井 『・・・・いや、やっぱり小さいよ』
なぜか顔を赤らめ、頭を掻いている。
(ワインのせいかな?でも頭を掻くってことは、照れてる?照れる?なんで?)
私はよく分からなくて、きょとんとしていた。
花井 『保冷剤、頭に当てておきな』
あず 『ありがとう』
一沙はハンドタオルに保冷剤を包んで、手渡してくれた。
私は腫れている箇所にそっと当てる。
あず 『冷たくて気持ちいい』
花井 『あず、ワインでも飲む?』
ボトルを傾けて、私に問いかける。
花井 『あ、でも傷口が傷むかな』
あず 『・・・・・・』
(というか・・・・)
花井 『ビールの方がいい?』
私は小さく頭を振って断る。
(一沙、ワインとか飲んで寛いでいていいの?)
花井 『喉渇いてないのか?』
あず 『ってゆーか』
花井 『なに』
あず 『一沙、仕事は?』
花井 『あとで戻るよ』
あず 『あとでって・・・・。私は1人で大丈夫だし、捜査に戻っていいよ』
花井 『だからあとで戻るって。で、ワイン飲む?』
あず 『飲まない』
花井 『じゃあ、何飲む?お茶がいい?』
あず 『何も要らない。とにかく、私に気を遣わないでいいってば』
一沙から笑顔が消えた。
ボトルをテーブルに置くと、私を正面から見据えた。
花井 『あず、なんでいつもそういうこと言うわけ?』
あず 『私なんかに構ってる時間があったら、仕事した方が良いに決まってるじゃない?』
花井 『俺、そんなこと言ってないだろ!』
あず 『言ってなくても分かるもん!』
どちらもお互いから視線を逸らさない。
徐々に声が大きくなって、感情が入り混じる。
花井 『俺に気を遣うなよ!』
あず 『一沙だって私に気を遣わないで!』
花井 『俺は、お前がどうしたいのか言ってほしいだけだ!』
あず 『どうしたいか言ってほしい!?ワガママ言ったら困るくせに!』
花井 『何か言う前から、"困るくせに"なんて決め付けるな!』
興奮のあまり、顔が徐々に近づいていく。
あず 『だったら、ワガママとワガママじゃない堺を教えてよ!』
花井 『そんなの知るか!』
あず 『ほら、すぐに怒る!私がどれほど我慢してると思ってるの!?』
私を睨む一沙の顔が、息がかかるほどの距離にある。
それでも私たちは一歩も譲らなかった。
花井 『我慢?言いたいこと何も言わないで我慢とか言うな!』
あず 『一沙のわからず屋!』
花井 『なに?だったらこの際、お前の本心を言ってみろよ!』
あず 『一沙だって言ってみなさいよ!』
私たちの顔は今にもキスしそうな距離にあった。
花井 『・・・・・・』
あず 『・・・・・・』
私たちはどちらも口を閉じ、数秒黙った。
一沙の顔が少し傾いた。
と次の瞬間、
ちゅっと唇が重なった。
(一沙・・・・)
あんなに睨み合って、文句言っていた私たち。
それなのにキスしたら、一沙のことが今まで以上に愛しく思えてきた。
花井 『俺は、お前にもっとワガママ言って、甘えてほしい』
あず 『一沙・・・・』
花井 『お前のためなら、多少の無理をすることさえ嬉しいんだ』
あず 『本当?』
花井 『ああ。むしろ、俺をもっと困らせてほしい』
あず 『いいの・・・・?』
花井 『お前だから許せる・・・・分かった?』
あず 『うん』
花井 『あずは俺にどうしてほしい?』
あず 『もっと一緒に居てほしい』
花井 『いいよ。一緒に居るようにする』
あず 『一沙が有休取るって言ってくれた時、本当はすごく嬉しかったの』
花井 『でも遠慮したんだな?』
あず 『うん・・・・』
花井 『仕事も大事だし、お前も大事だ。どっちが大事かと言ったら、どっちもだ』
あず 『うん』
花井 『でも、仕事以外の時間はなるべくあずと一緒にいたい。お前に気を遣ってるからじゃなく、俺がそうしたいからだ』
一沙は唇をゆっくり離すと、私の頬をやさしく撫でた。
花井 『だから、一緒にいさせてくれるか?』
あず 『・・・・もちろん』
(だって、それが私の願いでもあるんだもん・・・・)
花井 『これからは言いたいことはちゃんと言おう』
あず 『遠慮してると、勘違いしたり、些細なことでこじれちゃうもんね』
花井 『あぁ。ひとつひとつ2人で解決していこう』
あず 『うん』
花井 『約束しよう』
あず 『うん。約束ね』
私たちはどちらからともなく唇を重ね合わせた。
仲直りのキスは、これまでのどんなキスよりやさしくて、私を安心させる。
唇から一沙のぬくもりが伝わってきて、思わずふっと力が抜けた。
やわらかい唇。
あたたかな息遣い。
頬を撫でる熱い手のひら。
一沙のすべてにうっとりしてしまう。
(一沙のことが大好き)
とそのとき、キスが止んだ。
一沙は小さく微笑むとソファから立ち上がり、なぜかベッドへ向かった。
ごろんと寝転び、せっかく締めたネクタイを緩める。
花井 『あず』
ベッドから私を呼ぶ。
花井 『こっちおいで』
あず 『え・・・・』
(こっちおいでって・・・・ベッドに・・・・?)
花井 『おいで』
あず 『・・・・う、うん』
私はドキドキしながらソファを立った。
ベッドの前まで来ると、一沙にぐいっと手を引っ張られた。
花井 『こっち来な』
あず 『わっ』
体勢を崩してベッドに倒れると、いきなり一沙が覆い被さってきた。
あず 『か、一沙・・・・?』
花井 『ダメなんて言わせないよ』
あず 『え・・・・』
花井 『その気にさせただろ?』
あず 『な、なにそれ・・・・』
花井 『このシャツ・・・・お前が着るとやらしい』
あず 『やらしい!?』
花井 『体の線が出すぎてる』
私は慌てて自分のシャツを見た。
確かに、ぴったりのサイズだと思っていたシャツには、体の線が浮かんでいた・・・・。
(だからさっき、小さすぎるかもって一沙が頬を赤らめたんだ)
とっさに一沙に視線を移すと、
一沙はわざとニヤリとした。
花井 『今日はお預けはなしだ。いいよな?』
一沙は私の返事なんて待たずに、シャツのボタンに手を掛けた。