大阪に友達のライブ収録を見に来ている…。
居酒屋の奥にある細くて緩い螺旋階段を登って二階にある一室の扉を開けると、広めの和室に友人を真ん中にして左右に二人ずつお坊さんが座っていた。
それぞれの背後に絵が飾られている。
螺旋状に一筆書きされた墨がキラキラと輝いていた。
私はその絵見たさに、カメラが回っていることも気にしないで撮影中の和室の中にズカズカと入っていった。
絵の前に座り『綺麗だなぁ…』と夢中になって一枚また一枚と眺めていった。
三枚目を見てた時にやっと「あ、やば!これカメラ収録して配信するって言ってたじゃん!」と思い出し、他の絵も気になったが仕方がないと急いでその部屋を飛び出した。
螺旋階段を降りてガヤガヤと賑わっている店内を小走りに抜けて外へと出る。
このお店はトンネルの中にあるようで、転々と照明が左右へと伸びている。
どちらも突き当たりの出口はトンネル内より薄っすらと明るい…。
「どっちに行こう…」と迷いながらまず右側に向かった。
テクテク歩いて通りへ出ると、なんてことはない普通の知らない街並みが広がっていた。
きっと深夜なのだろう店はどこも閉まっている。
街灯も少なく閑散としている。
特に街を探索しようという気にもならず来た道を振り返ると、トンネルの中央に位置する先程の店が煌々と明かりを放っている。
「戻ろう…」
そう思った時、サッと視界の隅で女の人が横切ってトンネルの中に入っていった。
私もその人の後を追いかけてまたトンネルの中に戻っていく。
お店の前まで戻ってくると、その人はどこへ消えたのか居なくなってしまい、私の興味も反対側の出口へと移行した。
「よし、今度は左側に行ってみよう」と歩き出す。
左側の出口に近づいてくると、右側の街の時よりも出口が明るい事に気づいて、自然と歩く足が速くなっていく。
はやる気持ちを抑えて歩き続け出口を抜けた先に広がった景色は、自然と近未来都市が融合した感じの大きな駅だった。
空はピンクと紫が綺麗なグラデーションを作っていて、夜が明ける直前の一番綺麗な瞬間と言うかのような美しさだった。
私はこの景色を記憶だけじゃなく記録として残したいと思った。
でも、何にも持ってきていない。
「そうだ、さっきのお店に戻ればもしかしたら私の荷物があるかもしれない」
「携帯は……持ってきてないけど、これは夢だから、あると思えば現れるはず…」
と……私は思った。
店に戻って階段を上がって、二階の部屋に入る。
収録はすでに終わっているようで、和やかに会話をしながら皆くつろいでいた。
皆んなの荷物置き場に近づいて自分のバッグはどれだろうと探してみる、それらしい物を掴み取り、友人と談笑している男の人に向かって『あの、携帯もありません?』と声をかけた。
すると『え? いやそれはないよ……と思わせてこの布の下に…』と言って、何処からともなく出してきた布を自分の手の上でワサワサと揺さぶっている。
布の下に薄っすらと携帯のフォルムが浮かんでは歪んで消えを繰り返した。
具現化まであと一歩という事で、その場で「携帯はある、携帯はある…ぐぬぬぬぬ…」と私は一心に意識に集中した。
するとグングン携帯のフォルムが浮かび上がってきて、掛けていた布をサッとめくるとまるで手品のようにそこに携帯が現れた。
ほら…やっぱり出来た…。
と、思いながら「ありがとう」と言ってそれを受け取ると、私は急いで駅に向かって走った。
しかし、私がもう一度到着した時にはすでに澄み渡る青空の広がる朝に変わってしまっていて、駅は人で溢れていた。
仕事へ向かう人・遊びに向かう人・何処かへ向かう人でごった返した駅で「あぁーぁ…間に合わなかった…」と肩を落としていると「あなたもこの電車に乗る?」と後ろから女の人が声をかけてきた。
どうしようかな…と思い電車に目をやると、ギュウギュウに押しつぶされた人たちを乗せた満員電車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出した。
朝のラッシュ時の駅のホームのような光景を見てなんとも言えない気持ちになり「いえ、私は乗らないです」と言って「あの景色…撮りたかったなぁ」と呟きながら 私はその駅を後にしトンネルの中へ戻って行った。