小さな合掌 | 「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽  

「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽  

かけがえのない大切な時の流れ・・・
心の窓を開いて望む一瞬の風景を、優しい言の葉で綴ります。



新しい年を迎えて、はや10日あまりが過ぎ、元旦を除いてほぼ

毎日のように、大切なご家族を見送られる場面に立ち合わせて

いただく中、「神様の悪戯にしてはあまりにもかわいそう・・・!」と

彼女のいたいけな姿が目に焼きつくご葬儀がありました。

彼女とは・・・・・まだ2歳の女の子です。生後8ヶ月くらいの赤ちゃんと

ご主人との4人家族に突然訪れた、まだ30代半ばの奥様の急逝。

闘病の末というわけでもなく、もちろん事故や自殺でもなく

病院の死亡診断書に記された死因は、突然死としか考えられない

もののようでした。担当者も、詳しくは聞いていないとのことですから

そこをあえて私達が聞き質すこともなく、茫然自失のご主人には

最低限の説明にとどめて、お見送りをしていただくほかありません。

今回は通夜からご一緒させていただきましたので、ご焼香の作法や

尊前へのお進み方なども合わせて説明し、通夜勤行が始まると

静寂の中にお寺様の読経だけが響き渡りました。

ふと、喪主を務められるご主人に目を向けると、膝の上にちょこんと

座った小さな女の子が、可愛い両の手をぴたりと合わせ

目を閉じて、まるでお経を静かに聴いているかのような姿がありました。


喪主のご焼香をアナウンスした際には、パパに手を引かれてその女の子も

尊前へと歩いていきました。喪主はとても背の高い男性で、ちょうど降ろした

手のひらが彼女の頭の位置になり、二人並んでご遺影のママと向き合い

お辞儀をして、パパのしぐさを真似るように両手を合わせていました。

この場の状況が理解できるわけもないのでしょうが、いつもなら

すぐそばにいるはずのママがいないことを、彼女はどう受け止めて

いたのでしょうか?隣に座っていらした祖母らしき女性も、抱っこしていた

赤ちゃんを他のご親族に預けて、ご自身も焼香へと進まれました。
代わる代わるご親族が焼香に向かわれる中、女の子は動き回ったり

おしゃべりをしたりすることもなく、時折キョロキョロと周囲を見渡すくらいで

あとはまた、じっとパパの膝の上に座っておとなしくしているのです。


いったん閉式した後も、お見えになる弔問客は途絶えることなく続き

同年代の男性に囲まれた喪主は、訃報に驚き駆けつけたと思われる

皆さんに事情を話したり、励ましや労わりの言葉に涙されるお姿も・・・。

翌日、打ち合わせのために喪主にお声かけをさせていただくと、前夜は

「何も言えないから」と謝辞も割愛されていましたが、少し落ち着かれたのか

弔電の確認やら式次第の説明にも、普通に応じてくださり


「昨晩の娘さんのご様子には、感心しました。」と話しかけると


「別に自分も誰もこうしなさいと教えたわけではなかったのに

 周囲の大人を見て、自分で真似して手を合わせたみたいです。」


と、少し笑いながらお話ししてくださいました。奥様のことに話が及ぶと

見る間に目が潤み、言葉が途切れてしまいました。

その前に、私は女性スタッフが故人のメイクを直しに来た際に

柩の蓋を開けた時、胸元にご家族の写真をたくさん入れてあったのを

見て知っていましたから、昨年の秋に写されたらしい、七五三の

晴れ着を着た女の子を囲んでの微笑ましい写真をはじめ、お好きだった

歌のCDなどのエピソードも盛り込んで、少しだけ語らせていただくことに・・・。


通夜の際には、すやすやと気持ち良さそうに眠っていた赤ちゃんも

この日はぐずりっぱなしで、きっとお母さんの抱っこが恋しくて泣いていたに

違いありません。その泣き声が、なおさら人々の涙を誘いました。

お別れの献花の際には、パパに抱きあげられて花に埋もれて眠るママの

顔を見つめていた女の子。出棺謝辞の時にも、マイクを持って挨拶をなさる

喪主のもう片方の手は、しっかりと彼女の手が握り締められていました。

愛らしい小さな手を合わせた合掌。澄んだ瞳には、大好きなママの顔が

どのように映っていたのでしょうか?まだまだ、母親のぬくもりに包まれて

安心して眠りたいはずの幼な子の姿は、あまりに切なく

せめて夢の中ででも、抱きしめてあげてほしいと願わずにはいられません。



ママはね、きっとこれからもずっとあなたのそばにいるよ。

一緒に笑ったり泣いたり、時には誉めたり叱ったり・・・・。

そして、その小さな両手を合わせて空を見上げた時には

そ~っとママも両手を重ね合わせて、温めてくれるはず。

ママは、あなたの笑顔が大好きだから、いつもニコニコ笑っていてね。



「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽