「今年の秋は雨がよく降るなぁ。」






栗東を訪れていた多良崎がつぶやいた。

「有力馬の多くは、重馬場を苦手にしているからな。このまま秋華賞当日まで降り続いてくれたらいいんだが・・。」

「そんな他力本願でどうする?有田。」


「ワタシに任せて!アボリジニの友人から教わった「雨乞いの儀式」デキマス!」

「うさんくさい・・・。」 多良崎が呆れた顔で見つめる。


「”栗東の雨乞いジョージ” とは、ミーのことね!」



「(”栗東のビリー・ザ・キッド”じゃなかったのか・・・?)」

顔を見合わす有田と多良崎。











「富士川さん!グリーンワールドの調子はどうですか?」






「おお、ユタカクン!」

「豊さん!」

「秋華賞の最終追い切りですからね!ボクも気合いが入ってますよ!」

「ユタカクン、ちょっと・・・。」

「はい?」


マスター富士川が主戦騎手である竹本豊を裏手に連れ出した。

「きっと、マスターが秘策を授けてるんですよ!」 と沖田。

「そんなこと、天才・豊に任せとけばいいのに・・・。」 有田は渋い顔。

「ええ!グリーンワールドの脚は完治してないですって?!」

「シー!声が大きいデス!」

「す、すみません・・・。」

「正確には、「再発一歩手前」というべきでしょう。だいぶ炎症もひきマシタが、まだ違和感が残ってるようデス。」

「つぼみカップは、たしかにG1レース級の負荷がかかりましたからね・・・。」

「そういうことで、今日の追いきりは見送りますネ。」

「わかりました。本番までに症状がやわらげばいいですね。」

「オーナーには悪いデスが、結果は二の次デス。くれぐれも、レース本番では無理をさせないようにオネガイシマス。」

「まだ将来のある若駒ですからね、無事に完走させますよ。任せてください!」

「ユタカクン、頼みましたヨ!」

(つづく)




秋華賞トライアル・つぼみカップの激闘から2週間後、富士川厩舎の馬房では、マスター富士川と沖田がグリーンワールドの脚を入念にチェックしていた。








「ガッデム!まだ激走のダメージがひかないデスネ・・・。」 

「秋華賞の出走権を手に入れたのに、まいったな・・・」 沖田が苦い表情を見せた。

「本番までまだ日はアリマス。ミーたちは、ダメージの回復に全力を注ぎまショウ!」

「はい!」


「あ、マスター。そろそろメインレース中継の時間ですよ?」

「もうそんな時間デスカ?!」


「ウワアアアアアア」


中山のメインレースは電撃の6ハロン戦、G2・雷風記念です!天候はあいにくの雨ですが、本番に向けたステップレースとして、短距離界の猛者が顔を揃えました!

1番人気は古馬・マッドヘリオス!百戦錬磨の逃げ足は、重馬場でも威力を発揮するでしょう!あと注目すべきは、3歳馬ウインドジュエルの参戦でしょう。春のクラシック戦線をわかせた同馬が、短距離界に殴り込みをかけてきました。 世代最高のスピードを武器に、古馬の牙城を崩すことができるか!

さあ各馬のゲート入り。続々と入っていきますが・・・マッドヘリオスがまた言うことを聞きません。うーん、呆れた馬でありますマッドヘリオス。 ようやく今入りますか・・・いや、入りません。脚蹴りを食らわせておりますマッドヘリオス。鞍上海老名、アタマを殴って無理矢理のゲートイン。


今ようやく入りました。五月蠅いところを見せておりますが一応のゲート入り。あとはスムーズに入っていって・・・さあ全馬16頭、準備が整いました。気合いが入ります。


「ガシャン!」


マッドヘリオス好スタート!今日もいったぞ、マッドヘリオス!これに負けじとウインドジュエルも続いた!前は激しい先行争いだ!

さあ、いった、いった!ヘリオスとジュエル!ヘリオスとジュエルがスピード比べ!後続はちょっとついてこれないか!グングングングン突き放す!この馬場でこのスピードは脅威です、マッドヘリオスとウインドジュエル!


「ウワアアアアアア」

スピードのある馬しか前に行けませんハイレベルの短距離戦、マジックブルボン三番手でやや追っつけ気味、バクシンマツカゼも好位続いてあとはどうか、有力どころトモミナンバーワンは中団あたり、

早くも前は第三コーナーから最終コーナーへ、マッドヘリオスにウインドジュエルが一馬身差に詰めてきたか、内から上がってくるバクシンマツカゼが今四番手から五番手に、後続どうか、後続まだ後方まで差があってさあ電撃の六ハロン戦、早くも前は最後の直線に向かってくるが、


さあマッドヘリオスが頑張るぞ、追ってウインドジュエル二番手から前に並んでくるか、内からバクシンマツカゼ三番手、あとはどうか、あとは混戦模様、混戦模様で何が突っ込んでくるか分かりませんが、


マッドヘリオスが先頭、さあ二番手からウインドジュエルがこれに迫った迫った、懸命にムチ、懸命にムチが入ってマッドヘリオス今日の鞍上は海老名正義、踏ん張る踏ん張るマッドヘリオスだが、


外からウインドジュエルが並んで来るっ、外からウインドジュエル、マッドヘリオスに並んで来てこれを交わしに掛かるっ、しかしヘリオス抜かせないっ、ヘリオスが根性見せて抜かせないっ!ジュエル食い下がる、ジュエル食い下がって差が無く懸命に前に出ようとしているが、

マッドヘリオスか、マッドヘリオスこのままか、ウインド二番手、三番手一馬身差でバクシンマツカゼだがこれはどうやら三番手まで、後ろからトモミナンバーワンがこれに襲いかかってくるが、


これはすごい!スピードが落ちないぞ、ヘリオスとジュエル!降りしきる雨を切り裂いてヘリオスとジュエルがゴールに突進だ!

前はマッドヘリオスにウインドジュエルがもう一度!もう一度ウインドジュエルがマッドヘリオスに並んで来てああっ、交わすかついに交わすかゴール板前、

ヘリオス!ジュエル!ヘリオス!ジュエル!マッドヘリオスとウインドジュエル、馬体をあわせて、今ぁゴールイン!!!


「ドオオオオオオ!」

これは分からないぞ!結果は写真判定に持ち越されます!










ああ、結果が出ました!ジュエル!ジュエル!

マッドヘリオス敗れるーーー!勝ったのは3歳牝馬・ウインドジュエルです!!!


そして二着にマッドヘリオス。そのあとはバクシンマツカゼとトモミナンバーワンあたり。

見ごたえのある逃亡劇は、サクラバクシンオー産駒・ウインドジュエルに軍配があがりました!短距離界にニューヒロインの誕生です!!!

「マスター!ウインドジュエル、やりましたね・・・!」

「フー!今日はジュエルに勇気をもらいましたヨ!

 ミーたちも、”あたってくじけろ ネ!」


「”あたってくだけろ”です!!!」

(つづく)





ふりしきる雨の中、中山のメインレースは秋華賞トライアルとなります、つぼみカップG3。いよいよ発走であります。






締め切り間際のオッズに寄りますと、9番のグルーヴダイナと15番のサカナトウショウが人気を分け合う形になっています。続いてウインドジュエル。それ以外はどれも十倍以上。このメンバーに入ってこれだけの支持を受けるこの三頭は余程の人気と見て良いでしょう。


馬場コンディションは生憎の不良馬場。道悪苦手で有名な女王メジロトップレディは人気を下げております。

さあ、既にゲートインが始まっております。


これが復帰戦のグリーンワールド、リエマリアなどすんなり収まっていきます。グルーヴダイナ、サカナトウショウ、ウインドジュエルなど入っていって、、、いやあ、改めて凄いメンバーです。G3とはいえ揃ったメンバーは間違いなくG1級。一体どの馬が勝つのでしょう!


全馬16頭、無事にゲートイン完了致しました。気合いが入ります、、、

「ガシャン!」今、スタートしました!

おっと、あまりスタートの良くない馬が二頭ほど、メジロトップレディ、ランディスリルあたり、あまり出が良くありません。後方からの競馬になります。

前は予想通りと言いますか、ウインドジュエルが行きます、さあウインドジュエルにムチが入ってリードを広げていきます。二番手押してイネクスピアブルでありますが、どうか、控えたかイネクスピアブル、二番手に控えるようです。

先頭はすんなりウインドジュエルが立っておりましてリードは二馬身から三馬身、さあ、おっとこれは速い速い、三馬身、四馬身とリードを広げて先頭であります。 二番手控えた格好になったイネクスピアブル。グルーヴダイナが一馬身差で絶好位三番手におります。オチャヅケバイオが内を進んでサツキウインディが押して外から行っております。


グリーンワールドがその後に続いて、サンデーネイチャも差が無く追走、トウカイミスアロン最内通ってこのあたり七番手八番手。アニバーサリーが外から行って、さあリエマリアが真ん中通って上がって行きます。ブリザードはちょっと押し気味で、おっと、ムチが入ったこのあたり、行きっぷりがイマイチか、直後サカナトウショウ、ブラッドララーあたりが進んでおります。


一馬身ほど開いてメジロトップレディ、下は気にしていないか、大丈夫か樫の女王、ランディスリル内から行って、最後方、最後方にオールマイラヴィン行って先頭からお終いまでは十七、八馬身ほどあるか、これはかなり縦長か、縦長の状態で進んでおりますつぼみカップ。

前はもう完全にウインドジュエルが先頭で五馬身ほどのリードになっているか、第三コーナーから第四コーナー、そろそろ詰めないとマズイか後続、イネクスピアブル、グルーヴダイナやや手が動いてきて差を詰めてくる、さあ後続一気に動いた、動いた動いた四コーナーの入り口!

ずーっとイネクスピアブル以下、差を詰めて来る、ウインドジュエル持ったままだが、作戦か、これは作戦か、それとも一杯になったのか、さあ、前は三頭四頭並んできて最後の直線に向いてきます、先頭は追った追ったウインドジュエル、ムチが一発、ウインドジュエルが先頭だ!またリードを広げて二馬身半、イネクスピアブル以下不意を付かれる感じでこれを追いかける、内目からオチャヅケバイオ、そしてグルーヴダイナは馬場の真ん中、外目からグリーンワールドなど、

ウインドジュエルが先頭だ!追ってくるグルーヴダイナ、イネクスピアブル、オチャヅケバイオなど、サカナトウショウ、メジロトップレディはまだ後方だ、ここから届くのかどうかっ、


ウインドジュエル、ウインドジュエルが粘っているっ、ようやく詰めてきたグルーヴダイナとイネクスピアブル、そして内からオチャヅケバイオやって来る、外からはグリーンワールドだ、そしてリエマリア、リエマリアが大外から飛んできているが、

先頭はウインドジュエル!粘れるかっ、粘ることが出来るかゴール目前、外目からグリーンワールド懸命に詰めて来るっ、しかしかしかしっ!しかしかしっ!


大外からリエマリアぁ飛んで来るぅ!!リエマリアだリエマリアだ、外から一気に飛んできたのはゼッケン8番リエマリアと的馬等、これは凄い脚、一気に前、ウインドジュエルを捕らえるか、おお、凄い凄い、リエマリア先頭に立った、


忘れたころのリエマリア!!


この馬がいましたリエマリアっ、前はリエマリア!二番手はウインドジュエル粘るところグリーンワールド詰めたところで今ぁ、ゴールイン!

やりましたリエマリア!牝馬3強の一角を担っておりました”妖精”リエマリア、久々にここでその実力を発揮しました!いやあ、それにしても素晴らしい切れ味!





2着にはクビ差でグリーンワールドか。秋華賞への優先出走権は、なんとなんとカムバックをはたした2頭、リエマリアとグリーンワールドが勝ち取った模様です。




忘れたころのリエマリア!最後の1冠に向け、一躍ヒロインに踊り出ました!

(つづく)




「はい。是非、せがれの馬をもらってください。」





「ええ!あのナムラコクオー産駒を?!」

「かーちゃんとも相談したんです。いつまでもそばにはおいておけないし、神戸さんならきっと大切にしてくれるだろう、って。」

「いいのか・・・?」

「もちろんです、有田さん!」

「・・・分かった!せがれさんの馬、たしかに引き受けたぜ!」  

「それは良かった!これでうちらも安心して引退できやす!」



「そうと決まれば名前をつけようぜ、有田。」

「まかせろ、多良崎!”ネーミングの神様” とよばれたオレが、最高の名前をつけてやる!」

「頼みますよ、有田さん」







「うーむ、そうだなぁ・・・。古来ファームのせがれさんに敬意を表して、”フルキキッド” はどうだ!」

「・・・シ、シンプルだな。」  多良崎は渋い顔。

「有田さん、フルキの冠は勘弁してください。恥ずかしいです。」

「パパ!もっと”すごーいおなまえ”つけてよ!」

すごい名前ねぇ・・・。うーん、すごい=スーパー・・・。 よし!

 ”スーパーキッド” で、ファイナルアンサー!」





「・・・シ、シンプルだな。」 やはり多良崎は渋い顔。

「うちらは異存ありやせん、有田さん。」  古来は納得顔である。

「よし!”スーパーキッド” で決まりだ!今日はなんだか冴えてるぜ!!!」

「・・・・。」


「多良崎!この調子で他の2歳馬の名前もきめてやるぞ!」

「そ、そうか・・・。まだ決まってなかったな。」

「まずは、多良崎がはじめて買った馬・・・マヤノトップガン産駒からだ。」

「(ドキドキ・・・)」

「あの気性難だからな・・・。よし!”ハマコーテンカイチ”だ!」

「イヤーーーー!(/TДT)/」


「じょ、冗談だよ・・・。」








「・・・・オカダ!”オカダトップガン” でどうだ?!」

「オカダ?!」


「そう!多良崎の恩師”岡田先生”から頂戴した。」

「なんだって?!」

「先生が亡くなっても、その意志はおまえの中で生き続けてるだろ?それが形となったのが、あの馬-”オカダトップガン”じゃないか!」

「有田・・・。」

「へへ、いったろ? おれさまは”ネーミングの神様”だって。」





「有田、お前の気持ちありがたく頂戴するよ。あの仔は今日から”オカダトップガン”だ!」


「多良崎さん、いい名前に決まってよかったですね!」 








「次はナリタブライアン産駒だな。うーむ・・・。」

「む、無理に決めなくてもいいぞ、有田。」

「できたー!(^O^)/」 有田がビストロスマップ調に叫んだ。





「まさか、”アリタブライアン”なんて言わないよな?」





「アハハ、多良崎さん、うちのかーちゃんでも、もう少しマシな名前を思いつくさ!」 古来が笑う。










「・・・・・・・・・・・。」





「なんで黙ってるの?!!! (((゜д゜;)))」

(つづく)




秋の長雨が続いたある日の朝、事務所で7杯目のカレーをガっついていた有田の元に電話が入った。





「はい、モグモグ。神戸HCです。」


「グーテンモルゲン!」


「マスター富士川、どうした?」


「グリーンワールドの復帰戦の相談デース!」


「おお、ついにグリが始動か!」


「秋華賞トライアルの『つぼみカップ』はどうデス?」



「ヨ、ヨシ!頼んだぞ、マスター!」


「ラジャー!」




「ガチャ」


「ん?どうかしたか、有田」


多良崎がくるみを抱いて入ってきた。


「だだだだだだっこしてんじゃねー!グラァ!」



「ちょっと、パパ!ジャマしないで!」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」






「ピンポーン」


「おや、お客かな?」


「こんにちは、有田さん、多良崎さん。」


「あ、あんたは・・・古来さん!」









「おお、奥さんはご無事で?!」



「ええ。おかげさまで。なんとか日常生活が送れるまで回復しました。本当になんとお礼をいっていいか・・・。」


「あの場にいたら、誰だって同じことをしたさ。そんな気にしないで。」


「ありがとうございます。今日はそのご報告と、あと・・・。」


「何か?」


「ええ、実は古来ファームをたたもうと思いましてね。」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」








「かーちゃんは、おかげさまで一命はとりとめましたが、以前のような重労働はできやせんし、それに・・・。」


「それに?」



「今まで家庭を顧みず、走ってきやしたから・・・。ここらでカミサン孝行でもしようかな、なんて。」


「エライ!」


「働くばかりが人生じゃないぜ。古来さん、あんたかっこいいよ!」


「へへ。スカーレットメールとその産駒たち、牧場一式を清算したら、どうにか夫婦二人が暮らせる金もできやした。」


「良かったな、古来さん!」













「そういや、プリンセスメールはどうなるんだ?」



「先日オーナーから電話がありましてね。引退が決まったそうです。」






「ええええええええ!(((゜д゜;)))」








「オーナーには、オーナーの考えがあるんですよ。」




「そ、そうか・・・。」








「まあ、繁殖入りが早い分、次代にその夢を託すことができますし、英断だったのかもしれません。」





「たしかに・・・。」












「そこで、今日は神戸さんにお願いがあってきたんです。」


「ん?競馬界から足を洗う古来さんが、いったいおれたちに何を?」


「是非、せがれの馬をもらってください。」





「せがれの馬って・・・。あの、ナムラコクオー産駒を?!」




(つづく)




「グリーンワールド、無事帰還しましたよ!」









トレセンに止まった真っ白な馬運車から、沖田が嬉しそうに顔を出した。


「おかえり!待ってたよ!」 有田と多良崎が出迎えた。


「それにしても、この馬運車は快適そのものですよ!”メルセデスの馬運車”なんて、初めて乗りました!」

「そうだろ?世界に7台しかないんだぜ。」有田が胸を張った。

「本業がうまくいってるとはいえ、少し散財しすぎだろ?」 多良崎は苦い顔。

「おかげで、グリもストレスなく帰ってくることができました。さあ、これからみっちり鍛え直しますよ!」

「沖田くん、頼んだよ!」

「沖田クーン、ご苦労サマ!」 やや遅れて、マスター富士川も小走りにやってきた。

そのとき、真っ赤な馬運車がマスター富士川のすぐ横をかすめ、急停車した。


「キキーッ!!!」


「うわー!」

「マスター!危ない!」

「モウ!どこ見てるんデスカ!」


「見ろよ、有田。真っ赤な馬運車だぜ・・・。」

「ま、まさか、”赤い彗星”が出てくるんじゃ・・・?」

「・・・・あのエンブレム!あれは”フェラーリの馬運車”ですね。」

「なに?!どこのどいつだ?!見栄っぱりめ!」

「有田、お前が言うな・・・。」


真っ赤に燃えるフェラリーの馬運車から、1頭の馬がおりてきた。

「ああ!リエマリア!」 富士川が叫ぶ。

「すげえ、馬を見ただけでどの馬か分かるんだ・・・。」

「あたり前デス!”天才”調教師をなめたらあかんゼヨ!」

「つ、ついにリエマリアも復帰か・・・!」 沖田の目に闘志がみなぎった。

「おもしろい!役者が揃ったじゃないか!」 勝負師・有田も楽しそうに笑った。

「さあ。同じフジキセキ産駒、どっちがNo1か勝負だな。」  


翌日、さっそく沖田とグリーンワールドは、ウッドコースを流して患部の感触をたしかめた。

『これならイケる!ありがとう・・・響さん!』

「いいかんじだね!グリ。」

すると、1頭の馬が併走してきた。

『おかえりなさい』

『アクエリアス!』 グリーンワールドは故障の原因ともなったライバルを睨みつけた。

『脚はもう大丈夫?』

『よくも・・・』

『ごめんなさい。貴女が位置取り・仕掛けが未熟なのは分かっていたから、わざと進路を邪魔したの。でも怪我をさせる気なんてなかったのよ。』

『・・・。』

『でも、アナタの最後まで勝負を捨てない走りには驚いたわ。』

『アクエリアス・・・。』


『出たいんでしょ?秋華賞?』

『も、もちろん・・・!』

『じゃあ、まずはトライアルに向けて特訓ね!私がみっちりしごいてあげる。』

『特訓・・・』

『素質だけでは勝てないのよ、G1は・・・』


『ちょっと?私もまぜてもらえないかしら。』

戦線復帰をはたしたリエマリアが、割って入ってきた。

『私にとって、最初で最後の3冠レース・・・。悪いけど、貴女たちには負けないわ』

『リエマリア・・・。私だって負けないわよ!』


「おい、見ろよ!豪華な3頭追いだな!」 朝もやに浮かんだ3頭の影を見た記者たちが驚きの声をあげた。


「こ、こら!グリ!ムリしちゃダメだよ!」 沖田が嬉しそうに手綱をしぼった。

(つづく)




キキッー!





「ついたぞ、多良崎!【マヤノトップガン×マザーメリー】の仔馬、まだ売れてなかったらいいな!」





「あ、ああ。(ドキドキ)」

「フフ。多良崎さん、初恋の女性に会いに行くみたい。」


「すみません!ご主人はいますか?」

「はい、どちらさまで?」

「じつは・・・」


(30分後)


「気を落とすな、多良崎・・・。」

「これも運命だ。気にしちゃいないよ。有田と沖田くん、悪かったな。つきあわせちまって・・・。」

「多良崎さん・・・。」



多良崎が惚れたマヤノトップガン産駒は、既に買い手がついていた。

「いま人気の種牡馬ですからね・・・。仕方ないですよ、多良崎さん!」

「そうだな。来年また来ようぜ!」

「ああ。さ、そろそろ神戸に帰るとするか!」







「ガシャン!ガシャン!」


「ウワァ!こいつ大人しくしろ!!!」


裏手の馬房から、大きな音と、悲鳴が聞こえた。

「な、なんだ?」

一行が急いでかけつけてみると、1頭の仔馬が馬房せましと暴れまわっていた。

「あ、あぶねぇ・・・。」






「オイ、この仔馬!クスリでもやってるんじゃないか?目がイってるぞ・・・!」







「ハアハア・・・よし、大人しくなったか!今度暴れたら、撃ち殺すぞ!」

「ご主人、大丈夫か?」

「ああ、神戸さんか?なんとかね。やれやれ、この馬鹿を生産したのは間違いだったよ。」

「この仔馬は?」

「【マヤノトップガン×ミスピーチ】の牡馬さ。おたくらが買いにきた牝馬とはエライ違いだろ? 」






「マヤノトップガン産駒?!」  多良崎がくいついた。

「こんな気性難だから、誰も買い手はつかなくってね。種付け料、損しちゃったよ。」

「まだ売れてないの?!」  多良崎の頬がみるみる紅潮してきた。


「多良崎・・・オマエまさか・・・。」

「多良崎さん・・・目が輝いてますよ・・・。」

「チラッ (@_@)」

「クッ・・。そんな目で見るな、多良崎!」





「さらにチラッ (@_@)」

「やれやれ・・・。沖田くん、傷害保険には入ってるだろうな?」

「ええ。帰ったら、生命保険にも入りますよ・・・。」

(つづく)




「今年の新馬セリは、おまえとおれで、1人2頭ずつ候補を選ぼう。」









仙台から戻った有田が、札幌のホテルで朝食をとりながら切り出した。


「いいのか?おれは血統なんぞ、さっぱりわからんぞ。」


「だからいいんだよ、多良崎。ホラ、候補を出せ。」









 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 入札候補馬 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ・【ナリタブライアン×グッドマイラヴ・♂】  有田


 ・【ラムタラ×マックスビューティ・♂】     有田  多良崎


 ・【マヤノトップガン×マザーメリー・♀】        多良崎


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「ほお、マックスビューティに2票はいったか。」有田が驚いた。



「気が合うね。」



「ということは、入札者も多いということだ。こりゃ覚悟しないとな。」








一行は、昨年グリーンワールドと運命の出会いをはたしたセリ市へと向かった。


「今年は、去年以上の盛況ぶりだね。」


「人気はラムタラ産駒とナリタブライアン産駒か・・・。」



欧州3冠馬ラムタラの産駒たちは、そのセリでも主役の座を独占していた。
既に前日のセリでも、【ラムタラ×ベガ】、【ラムタラ×メジロラモーヌ】などの仔馬たちが、高値で取引されていた。



(1時間後)




「ふう・・・今年はいいセリになったな。」


会場を後にする有田が笑った。


「2頭とも期待できそうだな。でも・・・」多良崎がくやしがった。


「ああ、分かってる。多良崎が目をつけていたマヤノトップガン産駒が、急遽セリに不参加とはな。」


「本当にくやしいよ・・・どうしても欲しかったからね。」


「そうだ。明日、生産牧場に行ってみよう。もしかして、まだ買い手がついてないかもしれないぞ。」


「い、いいのか?有田!!」




多良崎にとって、その馬が走るかどうかなど、どうでもよかった。
彼はただ、マヤノトップガンの仔が、どうしても欲しかった。


そんな多良崎の心情を、有田もウスウス感じていた。


「あんな血統で走るわけがない」そう言葉が出かかったが、そっと心の奥にしまいこみ、”おれはここまで夢中になるほど、馬を愛したことがあるのか?” と、自問した。


興奮を隠せない様子の多良崎を見つめながら、有田は思った。





”この男を相棒に選んだのは、間違いじゃなかった。” 



(つづく)




「お、奥さん!大丈夫ですか?! (((゜д゜;)))」





「か、かーちゃん、しっかりしろ!(((゜д゜;)))」





「多良崎!おまえ獣医だろ?なんとかしろ!」

「無茶いうな!・・・古来さん、はやく救急車を呼んで!」







「ピカツ!ゴロゴロゴロ!」





にわかに雷雲がたちこめ、スコールのような雨が大地に激しく降り注いだ。


(1時間後)


「それで、奥さんの容態は?」

医者から容態の説明をうけた牧場長を、神戸HCの一行がとりかこんだ。

「脳腫瘍だそうだ。もって3ヶ月らしい・・・」

「そんな・・・。」

「おれが悪いんだ。ずっと、かーちゃんに無理ばかりさせてきたから・・・。」

重苦しい空気が辺りをつつむ。




「まだ手術すれば治るんじゃないのか?!」 と多良崎。

「このあたりには執刀医がいないそうなんだよ。それに・・・。」

「金か・・・。」

男はだまってうなづく。

「あきらめたらそこで終わりだ!いいか、みんなで手分けして執刀医のいる病院を探すぞ!」 多良崎が叫んだ。

「多良崎さんはアナログなんだから。僕のノートPCを使って、ネットで名医を検索します!」

「ヨ、ヨシ!オヤジさん、金ならこの有田に任せろ!」


「あ、あんたたち・・。」







「よし、連絡とれたぞ!『仙台医療センター』だ!」

「でかした、多良崎!」

「仙台?!こんな天候の中、かーちゃんを仙台まで運ぶのはムリだ・・・。」






「バババババ!」

「ヘ、ヘリ?!」

「やっときたか。若林に連絡して、ルストマ・シーランドの所有するヘリで最速のをよこしてもらったよ。」

「ひゅー!多良崎、今日は冴えてるじゃないか!」




「多良崎さん・・・。なんでうちらのために、そこまで・・・。」

「奥さんは絶対生きて帰ってくる!人間、そんな簡単に死んでたまるか!」

「多良崎さん・・・。」

「何の前触れもなく、突然命を奪われたヤツラも大勢いるんだ。奥さんはまだ生きてるんだろ?だったら精一杯、悪あがきすればいいじゃないか!」

「ううう・・・!」





古来夫妻を乗せたヘリは、仙台へと飛び立った。

「あの奥さん、きっと助かりますよ。 ねえ?多良崎さん!」 沖田が微笑んだ。

「ああ、そうだな。今回は有田のおかげだよ。金はあるに越したことないな。」

「あれれ?有田さんは?」

「な、なんでヘリのパイロットがここにいるの?!」



「有田さんがご自分で操縦するって・・・。」



「ええええええええ!(((゜д゜;)))」
「ええええええええ!(((゜д゜;)))」



(つづく)



初夏のある日、神戸HC一行は、札幌行きの機内にいた。






「すまないねぇ。沖田くんまでつきあわせちゃって。」

「いえいえ!たまにはマスターにも働いてもらわないと!」





「古来ファームに寄ってナムラコクオー産駒を見た後、セレクトセールに参加するんですよね?」

「ああ。そろそろ2歳馬を揃えていかないとな。」

札幌入りした一行は、翌日静内のはずれにある古来ファームを訪れた。


「こんにちはー」

「はい?どちらさまで?」

「先日お電話した神戸HCの有田です。ご主人は・・・」

「まあ!こんな田舎までようこそお越しくださいました。主人をすぐ呼んできますんで、お待ちください。」


(数分後)


「おや、あんたたち、本当に来たのかね?!」

「古来さん、はじめまして。神戸HCです。」

「たしか、スカーレットメールの幼駒をお求めでしたね?へへへ、姉貴プリンセスメールの活躍で少々値がはりやすが、まあ見てやってください!」

「ご、ご主人!我々が見たいのは、ナムラコクオー産駒なんです!」

「なんだって!・・・うーん、あの仔は・・・。」

男の顔色が急変した。


「一目だけでも見せていただけないですか?」 沖田が横から懇願した。

「うーん・・・。じゃあ、裏手で今放牧してるから。ついてきて。」

「なんだ、あのオヤジ!おれたちは客だぞ!」

「落ち着け多良崎。高値での取引が期待できない仔馬が目当てだったんだ。テンションが下がるのもわからんでもない。」


「ほら、今走ってるあいつがそうだよ。」

そこには、1頭の仔馬が気持ちよさそうに草原を駆けていた。

「へぇ!ダイナミックなフォームだなぁ!」 沖田が思わず感嘆の声をあげた。










「せっかくこんな辺鄙な牧場まで来てもらって申し訳ないんだが、あの仔を売ることはできないんだ。」

「ええ!なんだって?!」







「もう買い手がついてるんですか?!」

「いや、そういうわけじゃないんだが・・・。」

「ご主人、何かわけがありそうですね。」

「・・・・。」





「おとーちゃん、まだ引きずってるのかい?」

「か、かーちゃん・・・。」

「みなさん、すみませんねぇ。この仔馬はあたいどもの息子が、2年前に生産した仔馬なんです。」

「ほう、セガレさんが?!」

「おい、かーちゃん!よさないか!」







「なるほど。そのセガレさんの許可がないと売れないってわけですな?今どちらに?」

「実は1年前に交通事故で亡くなりまして・・・。」

「ええええええええ!(((゜д゜;)))」



「うちの人ったら、息子が亡くなってから、この仔馬を我が子のように溺愛してまして・・・。」

「そういうことでしたか・・・。」






「古来さん、我々はこれで失礼します。無理を言ってすみませんでした。」

「わざわざ来てもらったのに、すまないね・・・。」


「いえいえ、では失礼します。奥様もあまり気になさらないでください。」

「ふぅ・・・。まったく、かーちゃんの軽口にも困っ・・・、か、かーちゃん?」



バタン!






「お、奥さん!大丈夫ですか?! (((゜д゜;)))」

「か、かーちゃん、しっかりしろ!(((゜д゜;)))」

(つづく)