前回は初めて対戦した強敵・「関東廂番衆」の若武者たちの強敵ぶりを見せつける回となりましたが、逆に今回はそれに対する時行くんら逃若党の少年少女たちの「強さ」、そして「互いが互いを思う気持ち」で強敵に逆襲していく少年ジャンプ漫画あるあるな展開。その意味では非常に王道ともいえるものでしょう。まあバトルメインとなるとちょっと書きにくいのがあるけどね(苦笑)それでは本編感想参ります。
〇思い
回想場面からスタート。石塔範家はある日突然上司の足利直義からΣ(゚Д゚)ビックリサプライズプレゼントを用意されることになりました。
脳内にいる「彼女」鶴子ちゃんのために鶴岡八幡宮という鎌倉で至高の場所を貸切にして、そこで「二人」で楽しむ時間を与える
…贅沢ってレベルーじゃねーぞ!!
ここでも恐るべき部下の全てを把握している直義さん。石塔の「嗜好」からその誕生日という設定まで全て把握して、それを祝うための場をセッティングしてしまうなんて。それは本来、同じ廂番衆である同僚たちからも「強者だ!」と言われながら、壁を作られたのとは対照的。全てを掌握したうえで、その「嗜好」を尊重し、むしろそれを受け入れてくれるまさに理想の上司ぶりです。
足利直義「己を磨くには様々な道がある。おまえが足利家のため、強くなるために創り上げた空想の女を…私も誇りに思う」
やだ…直義さん、カッコよすぎる。
石塔範家「誰も理解できなった俺の嗜好を…直義様は丸ごと認めてくださった」
石塔本人も自覚していたように石塔の「嗜好」は誰にも理解されないものであり、その言葉にはそんな自分も分け隔てなく受け入れ、しかもこうして色々とフォローしてくれる直義の理想の上司ぶり。まさに世の中の労働者諸氏も「現実世界の上司がこんな深い包容力のある人間だったら…」と思わずにいられない「上司の鑑」です。そんな直義に感激した石塔は改めて「足利のため(もちろん直接的には『直義のため』である)、鶴子ちゃんのため」に強くなることを誓い、修羅の戦士となったのでした。
そう語ることで自らを更に強化していく石塔、しかしそこに望月の郎党たちが立ち塞がります。彼らにとっては上司である望月重信の娘は自分達にとっての大切な「お嬢」。うーん、それにしても愛されているね…亜也子。この辺は弧次郎とは全く正反対の境遇。既に石塔は配下の兵士たちから引き離され、孤立無援の状態に。「雑で適当な望月様の下でいると…臨機応変に動ける」或る意味、望月の下で戦う兵士たちの「強さ」が発揮された回。強力な武将はそれだけに兵士たちに依存心を知らず知らずのうちに付けてしまう。しかし、それは逆に言うとその武将がいないときには臨機応変に動けるだけの力がないということを示してします。実際「名将○○の下で有能さを発揮した▲▲、その有能ぶりを買われて一軍の将となったら、全く使い物にならなかった」という例は非常に多い。その意味では足利のために部下の理解不能な嗜好も受け入れる直義も、そして郎党たちをきちんと学ばせる望月もまたそれぞれ似たようなものなのかもしれません。そして今また亜也子もまたそんな郎党たちの援護と自らもまた「愛」のために強くなろうとするのでした。
亜也子「私だって父上と同じででかくて雑でじゃじゃ馬で絶対若様の理想通りの娘じゃない…でも私はそんな私を大切にしてくれる若様が好き」
そういう亜也子の回想で出てくるのは亜也子が担ぐ薪を自分も持とうとしている時行くん。同い年とは思えないほどでかくて、しかも時行くんに比べて遥かに腕力強い亜也子が二束持っていても平気だけど、時行くんは一束でもキツイ肉体労働をそれでも笑ってしている。そんな時行くんに対しても自分の思いを吐露するように強くあらんとする亜也子。その思いの強さは石塔でさえ感じいるものがありました。自らが「理想」をどこまでも追い求めた「愛」「戦い」であるのに対する亜也子の戦いは「雑」と言いつつ、現実に根差した臨機応変の動き、そして不器用な若君への思い。果たしてこの勝負は…?
〇「テメーは信濃の女を怒らせた!」
一方、望月VS岩松経家の戦い。ありとあらゆるものをへし折ってしまう巨大な大刀「艶喰」の威力に劣勢一方の望月。岩松の方は余裕綽々です。その周囲では未だ岩松の兵たちが諏訪の陣営で女性たちを蹂躙しようとしていますが、悉く吹雪に討ち取られていきます。そんな状況にも気を留めず、こちらもまた自分語りをしていく岩松。岩松が戦う動機はただ一つ女をものにするという動機のため。誰のためかと言えば自分の欲望を叶える者の為に戦う。
岩松経家「俺は新田の一族だったが見限って足利を選んだ。天下を統べる資質があるのは足利だけだからな」
まさに雫ちゃんたちに立ちふさがった野獣のような笑みで滔々と語りだした岩松。ですが…岩松、間違いなくお前死亡フラグを踏んでしまったぞ。時行くんを殺し、信濃中の女をモノにするという危険極まる野望を聞かれた雫ちゃん、そして諏訪大社の巫女3人衆は遂に参戦します。雫ちゃんらにしてみれば
まさにこれでしょう。
雫ちゃん「私たちも岩松討伐に参加します」
あ~あ、ある意味では渋川よりも怒らせてならない相手を怒らせてしまった岩松なのでした。もっとも岩松にすれば、そんな女はむしろ「大好物」、力ずくで服従させてやる楽しみにワクワクする本当に女の敵と評するに相応しい野獣のような男です。雫ちゃんらの参戦を見て、冷静になった望月。若い豪傑が「新しいもの」で勝負するなら、老練な自らは「今あるもの」で勝負を挑む覚悟を決めます。最早単なる雑魚程度にしか思っていない岩松はトドメの一撃を喰らわせようとしますが…
鎧甲冑を着込んだ岩松兵の死体を「盾」にする望月
ここで瘴肝との初戦闘時に語られた「鎧甲冑の強固な防御力」の伏線が来ました。そう、当時の鎧甲冑は極めて強固で正面から打っても跳ね返されるだけの防御力があるという事実。岩松の大刀をもってすら、鎧を着込んだ甲冑武者(死体)2体では切り裂けないものでした。流石の岩松も動揺を隠せません。
「今あるもの全てを使う」という宣言通り、雫ちゃんら女性メンバー、そして死体すらも武器にすることでこの豪傑と戦えるお膳立てが揃いました。
たとえ単騎同士では倒せない相手でも複数ではなら戦える。それが逃若党の強さのように。
〇変態王子VS阿修羅の鬼
そしてその頃、女影原の戦いの中心では大将である渋川義季と時行くん&弧次郎の二対一での「一騎打ち」。凄まじい長刀で時行くんをして、「初見だったら回避しきれなかった」と言わしめるリーチ力を誇る渋川の攻撃。しかし、最初は本当に危うくなってもそこは逃げ上手の若君。どんどんと生死の掛かった状況を楽しむ変態属性が発揮され、全て躱していく様は味方の鎌倉党の武士たちも盛り上がっていきます。
鎌倉党の武士「すげえ、やっぱド変態だ、あの若君!」
味方の武士達からも「ド変態」と公式認定されてしまった時行くん(笑)一方の「北条時行」という相手を「単なる滅びた幕府の侍王子」としてしか認識していなかった足利は面食らうばかり。斯波孫二郎にとっては総大将が自ら危険な渦中に飛び込んで逃げ回るのを楽しむ、というのは理解不能。まあそりゃそうだよね。しかも本来二対一であるにもかかわらず、もう一人の弧次郎(ちゃんと事情を知らない人間の視点では『小次郎』表記になっているのが芸が細かい)はただ背後でちょこまかと動いているだけで全く主人を守る気配がない。合理的な思考で状況を認識する軍師タイプの孫二郎からすれば、まさに全く非合理の極み。それだけに読めず、対応できない有様です。それにしても時行くんの挑発…
渾身のしかも愉悦たっぷりの表情で煽り倒す時行くん、何か見ていて色々ヤバイ(笑)
単行本の帯にも「どうした、時行!?」なんて書かれているしさ(笑)
弧次郎(教えた台詞は棒読みだが、逃げる興奮顔で言っているから最高の挑発だな)
まあ確かに棒読み台詞なのだけど、この表情は見ているだけで敵からすれば最高に腹が立つのは間違いない。それにしても普段は絶対に言わないような口汚い台詞を教え込む弧次郎…なんかジワジワときます。こうしてただでさえ、腹が立つ状況なのに、そのうえ更にギャラリーの中から玄蕃でさえ、挑発して遂にキレポイントMAXになった渋川。
「おのれ!どこまでも武士の戦を愚弄しおって!!」
頼重さん「ご安心ください、時行様…
今の私は阿修羅すら凌駕する存在でございます!!!」
なんて光景が思い浮かんでしまった(笑)いや、なんか「阿修羅」と聞いているとなんとなくね…でもいいこと思いついた。
頼重さんはグラハムネタでいこう!
頼重さん「私は貴方様に心奪われました。そうこの気持ち、まさしく『愛』にございます!!」
時行くん「ちょっと頼重殿!何言っているのかさっぱり分かりません!」(汗)
おお!!なんだ、この違和感のなさ(笑)
すみません。話が脱線してしまいました。
そしてここでまさかの海野幸康生存確認。あれほどの傷を受け重傷ながらも生きていた海野幸康。彼はこの戦いを見ながら、笑みを浮かべます。渋川の恐ろしいほどの強さを認めながらもまだ「若い」。凄まじいパワーの攻撃を繰り出した反動で、遂に疲労の色が見えだした渋川。孫二郎も今までにない渋川の姿に衝撃を隠せないでいました。これまでどんな敵相手にしても見せることのなかった疲労。一方、弧次郎は時行くんに合図を送ります。「今ならやれる」それに頷いた時行くんは
時行くん「渋川、今までの非礼を詫びる。ここからは正真正銘の一騎打ちだ。我が自慢の郎党祢津弧次郎。彼に勝てたら私の首を差し出そう!」
今までの心ない言葉を吐いていたのが嘘のように正座して、非礼を詫びる時行くん。うん、君はやっぱりそっちの方が良く似合う。そして逃若党の中ではやはり一番信頼している弧次郎に全てを託すその姿。全ては弧次郎に託されます。