先日、公開した記事についてですが、思ったより多くの賛同の反響があったようで実はかなりホッとしています。いやさぁ…Twitterとか見ているとノイエ銀英伝って「何て素晴らしい作品!」と絶賛されているのを目にすると「オレのような口うるさく批判する人間ってオールドタイプなのかな…」となんか自問自答するようになってきていたんですよ。もちろん感想は人それぞれですし、もちろん改変やアレンジもそれによって作品世界の魅力が深まるならいいと思うのですよ。でもさぁ、今回ばかりは私は銀英伝古参ファンとして絶対にやはり許容できないのよ。そして一番嬉しかったのはこの前、パートナーと一緒に鑑賞した時の事。パートナーはまだ今回の「策謀編第一章」を見ていないので、37話の記事はまだ見ていませんでした。そして鑑賞終了後に述べた37話の感想は
図らずも私と同じ箇所を批判し、同じツッコミをした
という点で思わずガッツポーズをしてしまったwwおかげで自分の評価に自信を持てるようになりました。
第37話はノイエ銀英伝最大の問題話となった原因は2つ
①ケンプの出番を盛り上げようとして、「勝敗を度外視した指揮官の個人的な動機に基づく特攻」という行為を美化して描くという銀英伝自体の根本を否定してしまったこと
②ケンプにフォーカスをあてすぎて、他のキャラの描写が余りにも粗雑かつ支離滅裂な描写となってしまったこと(特にミュラー)
まあ詳細は上記の記事を見ていただければ私の主張がご理解いただけると思いますが、ただ「単なる批判」だけでは芸がないと思いまして、ノイエ版スタッフの目指した「ケンプの再評価」という方向性を尊重したうえで、一度整合性の取れる「私なりの要塞対要塞」をリライトしてみました。流石に全部は無理ですが、変更部分だけでもいけたらな、と思います。なお、赤字は今回のリライトの核心部分です。
(始まり)ナレーション「カール・グスタフ・ケンプ対象率いるイゼルローン駐留艦隊と同盟軍増援艦隊の各個撃破戦法に乗り出した帝国艦隊であったが、ヤンの奇策(ランサー・スパルタニアン)により、予想外の損害を被り、遂には包囲殲滅の危機に立たされていた)
(ミュラー旗艦リューベック)
ミュラー「このままでは我が軍は包囲殲滅されてしまう…かといって今や退却こそ至難の業…どうすれば」
リューベックオペレーター「旗艦ガルフピッケンより通信!ケンプ提督からです!}
ミュラー「!!よしつなげ!」
(通信モニター越しにケンプとミュラーの会話)
ケンプ「ミュラー、卿に一つ頼みたいことがある。何としてでもこの危地を脱するには卿の能力が必要だ…その前に一つ卿に詫びないといけないことがあるな…先のヤン不在の情報は真実であった。にもかかわらず卿の進言を一蹴してしまったのは俺の不明だ。今更言っても栓なきことだが、すまん、この通りだ」(頭を下げるケンプ)
ミュラー「ケンプ提督、もう過ぎたことです。しかし、この窮地を脱する策とは…?」
ケンプ「卿には俺の直属艦隊が包囲網を脱出してガイエスブルク要塞へ帰還するのを援護してもらいたい。無論、アイヘンドルフとパトリッケンの艦隊を卿の指揮に委ねる。現有戦力で救援するまで防戦指揮にあたって欲しいのだ」
ミュラー「しかし、今更ガイエスブルク要塞に帰還したところでもう予備の艦隊はありません!どうやって同盟軍の包囲網を脱出するのですか!?」
ケンプ「策はある。ガイエスブルク要塞をイゼルローン要塞にぶつけるのだ。さすればヤン・ウェンリーの注意はそちらに向く。その間に艦隊を撤退させるのだ」(①)
ミュラー「!!ガイエスブルクを撤退の囮とするのですか?しかし、それではケンプ提督らは!」
ケンプ「無論、俺も要塞に要る兵士たちもイゼルローンへの衝突コースに乗せた段階で脱出する。危険な策だが、間違いなく同盟軍はもう要塞の方に向くはずだ。先のイゼルローン要塞での包囲下に置かれた時の卿の指揮ぶりは報告を受けている。まさに『鉄壁』と称するに相応しい見事な防戦ぶりだった。その能力を見込んでのことだ。頼む」
ミュラー「承知しました。何としてでもケンプ提督の脱出を援護します」
ケンプ「すまん、必ず救援する。俺を信じてくれ…」
(ガルフピッケン以下ケンプ直属艦隊が同盟軍包囲網から脱出)
ミュラー「必ずケンプ司令官が救援に来て下さる!何としてでもそれまで持ちこたえるのだ!」
ヤン「なかなか粘るな…それにしても先ほどの脱出した艦隊の行方は…もしかしたら『あの策』に気づいたのか…?」
「全艦隊包囲陣形を解き、艦隊を帝国領方向に再展開させる!」
アラルコン「ヤン提督!このままいけば包囲殲滅できるのに何故見逃すのですか!?折角の好機を!」
ヤン「今は命令通りに動いてもらいたい。今のうちに展開しておかないと手遅れになる可能性がある」
アラルコン「…(不満気に)了解」
ミュラー「包囲陣形が崩れた!今だ、全戦力、防水陣形をもって突破しろ!」
(激しい戦闘の末に脱出を果たした帝国艦隊は戦闘宙域を離脱)
ミュラー「脱出できた艦艇は?」
オルラウ「確認できた限りでは約1万隻強ほどとのことです」
ミュラー「くっ!3万7千隻あった艦隊が三分の一以下にまで減らされたのか!」
(通信モニター越し)
アイヘンドルフ「いえ、ミュラー提督の見事な防戦指揮があればこそ、まだこの程度で済んだものと…」
パトリッケン「もっと多くの艦を失っていたことを考えれば、御自身をお責めになられますよう…」
オルラウ「閣下、ガイエスブルクをイゼルローンに衝突させるとなると、その破壊エネルギーは凄まじいものとなります。一刻も早く艦隊を安全宙域まで撤退させるべきかと具申いたします」
ミュラー「損傷艦及び負傷兵は輸送艦や揚陸艦の非戦闘艦に移乗させて2千隻ほどの艦隊を離脱させるのだ。残る艦艇は両要塞が衝突した場合のエネルギーが及ばぬギリギリの宙域で待機させる。アイヘンドルフとパトリッケンの両提督には後送艦隊を率いて離脱せよ(②)」
オルラウ「しかし、閣下それでは!」
ミュラー「ケンプ提督とガイエスブルクに残る兵士たちを回収しなければならん!このナイトハルト・ミュラー、決して窮地にある味方を見捨てたりはしない!」③
オルラウ「…は、御命令通り、両要塞が衝突した場合の破壊エネルギーを算出し、安全圏の位置を算出します」
(ここの間のヤンとユリアンの会話シーンは本編通り)
ヤン「やはり気づいたな…だが遅かったな
(イゼルローンに向かい、移動を開始したガイエスブルク要塞内)
ガイエスブルク要塞オペレーター「ガイエスブルク要塞、間もなくイゼルローン要塞への衝突軌道に乗ります」
フーセネガー「閣下、御命令通りに司令官指揮シートで一元操作できるように設定を行っておきました」
ケンプ「よし、総員至急退避せよ!ガイエスブルクのコントロールは俺が引き継ぐ」
フーセネガー「は、総員退避!至急宇宙港に集結せよ!」
「閣下、しかし本当に最後まで残られるのですか?」
ケンプ「元より、敗北の責任は俺にある。ならば最後の義務として、兵士たちが脱出させるまでの殿を務めなければならん。案ずるな。ギリギリで脱出する」
フーセネガー「どうか、御武運を…!」
ケンプ「そうだ、万が一の時はミュラーに…(ここの会話シーンは伏せる)」
(接近するガイエスブルクへの対処を命じるヤンとヤン艦隊メンバーの描写は本編通り)
(本編通り、一転集中砲火によって、エンジン一基が脱落し、バランスを崩すガイエスブルク要塞)
ケンプ「!!バカな!、フーセネガー!」
(通信モニター越し)
フーセネガー「閣下、先の衝撃で宇宙港内は混乱を極めています。シャトル搭乗中の兵士に多大なる死傷者が出ました!一刻も早く脱出を!!」
ケンプ「…今、完全な手動操作でバランスを取らせて、ガイエスブルクの姿勢を何とか安定させる。卿らはその間に全速で脱出するのだ!」
フーセネガー「し、しかしそれでは閣下は…!」
ケンプ「今、俺の操縦を失えば、ガイエスブルクは完全にバランスを崩す!急げ!」
フーセネガー「…(無言で敬礼)」
ケンプ「何としてでもフーセネガーらが安全圏に脱出させるまでの時間を稼がねば…イゼルローンにもっと接近させねば…!」
ヤン「トゥール・ハンマーを使用!ガイエスブルクがこれ以上接近する前に破壊するんだ!」
キャゼルヌ「撃て!」
(トゥール・ハンマーの直撃によって大破したガイエスブルク要塞内)
ケンプ「グスタフ、カール…すまんな、父さんは約束を守れなかった…」
(閃光に包まれるケンプ)
(ガイエスブルク要塞の破壊エネルギーはミュラーのいる宙域にまで凄まじい衝撃波をもたらす。翻弄され、衝突する艦艇、阿鼻叫喚の悲鳴が通信越しに流れる、そしてリューベック内でもミュラーを始め、将兵が負傷するシーン)④
ミュラー「…ぐっ!」
オルラウ「閣下!軍医を早く…!」
(軍医とミュラーの会話は原作通り)
オルラウ「ガイエスブルク要塞の爆発が予想以上に早すぎ、そのために艦艇も衝撃の被害が及んだ模様です。二千隻の艦艇が破壊、もしくは航行不能です。将兵にも多大な死傷者が生じています」
ミュラー「何ということだ…それではイゼルローン要塞は…」
オルラウ「全くの無傷です」
ミュラー「ぐっ!」
リューベック・オペレーター「イゼルローン方向により接近する艦艇あり…味方です!ガルフピッケン以下数百の艦隊が!」
ミュラー「…!至急回収させよ!同盟軍が追撃に入る前に!」
オルラウ「要塞に残っていた将兵にも多大なる犠牲が出た模様です」
ミュラー「もっと早く行動していれば…悔やんでも悔やみきれぬ」
オルラウ「いえ、閣下が留まることを決断していたからこそ、これだけの将兵を救出することができたのです」
(リューベック艦橋を訪れたフーセネガーと副官ルビッチ)
ミュラー「ケンプ司令官は、ケンプ司令官はどうなさったのだ」
フーセネガー「…ガイエスブルク要塞からの脱出シャトルに搭乗したのは小官が最後でした」
ミュラー「…!」
フーセネガー「ケンプ司令官よりご伝言があります。こう言っておいででした。
『ミュラー、卿は何としてでも生きよ』と」④
ミュラー「大神オーディンに照覧あれ、ケンプ司令官の復讐は必ずする。ヤン・ウェンリーの首を必ずこの手で掴んでやるぞ…!」
(この後、ミュラーが音声で将兵に布告するシーンは本編通り)
ミュラー艦隊が離脱を開始するのを追撃するグエン、アラルコンの分艦隊
アラルコン「今度こそ逃がさん!完全に殲滅してやる!」
グエン「たとえ、今回の戦いに勝てたとしても同盟と帝国の戦力差は変わらぬ!ならば何としてでも今回の帝国軍だけでも殲滅し、奴等に二度とこのイゼルローン要塞に攻勢をかけられないほどの恐怖を与えねば、また次の戦いはより不利になるだけだ、追撃!」⑤
(この後は本編の通り展開する)
総括:ノイエ銀英伝本編の問題
さていかがだったでしょう?主要な変更点はケンプとミュラーの行動をより『銀英伝』風に改変し、なおかつそれに整合性が取られるようにしておきました。
①ケンプの「特攻」の必然性
本編を見ていて思ったのは「ケンプが特攻する必然性」が全く見られなかった…正確に言えば、「ガイエスブルク要塞の航行エンジンを稼働させる必然性」に整合性を見出そうとして、肝心の「何故特攻するのか?」という点がまったく見られなかったことです。あれでは単なるヤンに対する意趣返しという個人的な動機で動き、部下に対する責任を(ある意味)放棄した最低の指揮官というマイナス印象しか浮かばなかったのですよ。そこで、その必然性として「艦隊及びガイエスブルク要塞の将兵が脱出するまでの殿」としての捨て身の殿として理由付けをしました。実は『銀河英雄伝説』では「美しい最期」として描かれるのはこの手の指揮官でした。敗軍となっても将兵に対する責任を果たさんとする将帥、これが本来の「銀英伝」で美しく描かれるタイプです。例として挙げると
アムリッツァ前哨戦のウランフや
ノイエ版のホーウッド、
帝国軍なら回廊の戦いのファーレンハイトや
ウルヴァシー事件の時のルッツ
そして何よりもマル・アデッタのビュコック爺さん…(涙)
③ミュラーの整合性
実は今回の話で一番の不満点だったのはミュラーの描写が余りにもおかしなものとなっていた点。それによってスタッフが意図せずに魅力を下げてしまったことにありました。特に、イゼルローンに「特攻」するケンプのガイエスブルク要塞に背を向けて離脱したというのは大きなマイナスポイントでした。それこそ、原作のミュラーの描写を見れば、こんなの矛盾することいくらでも例証をあげることができます。ましてや、ノイエ版でも第35話でも「窮地にある味方を見捨てない」って演出入っていたのに、今回
どう見ても軍事的に意味のないそして、確実にケンプが死ぬ「特攻作戦」に唯々諾々として従うのには違和感しか感じませんでした。更にその後の負傷の描写にしても、本編では「ミュラーだけ」負傷したかのような描き方で演出としてはどう見てもダメでしょう。あそこは絵的にきちんと「多大なる損害を出した帝国軍全体」を描かないと、「司令官のミュラーが負傷」したのがどう見てもまぬけにしか見えんのが難点。そこでここら辺をミュラーの魅力を下げず、なおかつバーミリオンに向けての伏線という意味合いで整合性が取られるようにしました。
そしてそれ以外の改変は以下の通り
②ノイエ版本編ではケンプの部下であるアイヘンドルフとパトリッケンの顛末がまったく触れられていなかったのでここで加えておきました
④先の記事にもあった通り、冒頭で和解という形を果たしたノイエ版本編では原作の「ダイイング・メッセージ」は完全に不要です。ここはきちんとノイエ版では改変すべきと思った箇所です。
⑤これも描写が全くなかったグエン&アラルコンの暴走に至る経緯をきちんとしておく必要性を感じました。「2人が脳筋だったから」というのでは安直すぎるので、ここはきちんと彼らにも「ある程度の事情」を踏まえて行動していたのだ、と強調させてみました。もちろんだからといって全く擁護できないけどね
いかがだったでしょう?私が今回の記事書いたのはあの第37話が果たしてあれで良かったのか?という疑問からでした。もちろん、こんなの単なるファンの駄弁りだという自覚がありますが、改めて「銀英伝とは何か?」という意味合いを込めて、皆さまにお届けしようと思いました。もちろん、その賛否の判断は皆さまにお任せします。