ロシア遠征を開始して一か月、8月にスモレンスクまで到達した大陸軍は遂にロシア軍と交戦を開始。しかし、壮大な都市の炎と共にまたしても大陸軍はロシア軍を撃滅するチャンスを逃してしまう。今回はその失態の責任を負った男、ナポレオンが数少ない「友人」であるジュノーへの処遇に悩むナポレオンの「情」が肝になります。それは「個人」としては当然のことだったかもしれませんが、「皇帝」としては間違ったことだったかもしれない。でも、それを捨てるということはできないという悲しい性も理解せざるを得ないのも事実です。一方のロシア側でも遂に変化が訪れ…それでは本編感想参ります。

 

〇ロシア側の内輪もめ

大陸軍をスモレンスクで迎撃することになったロシア軍ですが、その内輪ではバルクライとバグラチオンという2人の将が方針をめぐって対立。

バルクライ「スモレンスクを放棄する!撤退だ!!」

バグラチオン「この腰抜けがあ!」

相も変わらずバルクライは更に撤退を主張する「避戦派」、そして猛将バグラチオンは「抗戦派」でしたので折角合流したものの両将は方針をめぐって大喧嘩。これでは折角の戦略の基本原則「兵力の集中」を行っても、2人の将がいがみ合うだけで全く意味を成しません。挙句にとうとうバグラチオンは戦闘中だというのに

バグラチオン「あんな奴と一緒に戦えるか!(俺は別で戦わせてもらう)

とさっさと離脱してしまいました。こんなバラバラな有様では到底、組織的な防戦など不可能なわけでこれではとても戦える状態ではありません。ただ結果的に見るとこのバラバラに動いていたことがナポレオンの狙いをことごとくスルーしてしまったことになり、後々重要になってきますが、もちろんそれは結果オーライでしかありません。まこと戦争は難しい。

 

〇ジュノーの失態

かくして撤退を開始するロシア軍、大陸軍にとっては敵が背中を見せている絶好のチャンスであり、当然追撃戦を敢行します。ようやくロシア軍の尻尾を捕まえて、敵に大打撃を与える絶好のチャンス。もちろんそれを見逃すナポレオンや元帥たちではなく、決死の勢いで追撃します。ここでジュノーが率いる軍団が重要なカギに。彼の部隊が回り込んでロシア軍の側面を叩けばまさに勝利を手にする場面。ネイが言う通り、「元帥杖を手にする絶好の機会」と語る通り、重要な位置にいたのですが、しかし部下に急かされながらもジュノーはスモレンスクの大火を見て、何かに憑りつかれかのように心ここにあらず。そして遂に何かが吹っ切れたかのように倒れてしまったことで絶好のチャンスを逃してしまいました。

 当然、ナポレオンは大激怒しますが部下からの報告でその原因を聞き、怒りを治め、逆に彼の胸中を慮ったのは意外でした。そうそれだけナポレオンにとってはジュノーが重要な存在だからこそといえます。ジュノーが倒れたのは実は薬物中毒。かつてナポレオンを戦場で身を挺して庇ったときに負った傷をはじめ、戦場で負った傷の痛みを紛らわせるために薬物がいつしか身体を蝕むようになっていたこと、そして更に家庭内の事情も大きく関わっていました。実は遠征前、ジュノーの若妻であるロールはオーストリア外交官メッテルニヒや犬猿の仲であるミュラと不倫をしていたのです。かつてジュノーがミュラの奥方であるカロリーヌとスキャンダルを引き起こしたことを考えると、皮肉なめぐりあわせといえますが、いずれにせよ「不倫を理由に外交官を追放できない」と却下されてしまったことで傷心となったジュノーは精神的に不安定になり、遂には夫人をケガを負わす事態を引き起こすほど追い詰められていたのでした。彼の苦境を知っていたナポレオンは苦悩する姿はどこか悲しい。

ナポレオン「ジュノー、お前…体も心もボロボロなのか」

 

〇友としての言葉

心身ともにボロボロとなり、挙句今回の失態で完全に追い詰められたジュノーは遂に宿舎で銃の引き金を自らの頭に銃を向けて…そこへ届く皇帝からの召喚命令。兵士たちは「軍法会議か」「死刑か」と噂するほどの緊張した空気が大陸軍内に流れます。

しかし本営で待っていたのは意外なナポレオンの穏やかな顔。そこには皇帝のものとは思えない粗末な食事とビールが並んでいました。一緒に食事をと誘います。食しながら、ナポレオンが語るのは昔の思い出。かつてナポレオンとジュノーはまだ貧乏軍人であった頃から一緒にしていた頃から苦楽を共にしてきました。『獅子の時代』でのかつての光景がここで思い出されてきます。あの時は何気ない日常であったように思われたシーンでしたが、今となっては時の移ろいの落差に思いいたすと悲しいものが伝わってきます。その日の食事にも事欠き「粗末な食事とビール」で済ませるほどだったナポレオンをジュノーは公私ともに支えていました。その時の感謝と喜びをジュノーにも味わわせてやりたかったと飾らないそしてサングラスを外して語り掛けるナポレオン。彼がサングラスを外すのは本当に心を許す相手といるときが大半です。だからこそこの言葉が突き刺さりました。

ナポレオン「ジュノー、お前もランヌのように俺を置いていく気か?」

既にランヌというかけがえのない存在を失ったナポレオンにとってはジュノーは残された数少ない友人。彼を失ってはナポレオンは更に一層孤独となります。本当は友人たちと一緒に駆け上がりたかったナポレオンでしたが、そこで待っていたのは「友」たちが次々に命を落とし、そして権勢の中で不幸となっていく辛い現実。彼が望んでいたのはそんなモノでは無かったはずなのに…「俺たちは一緒に行くと言ったろ」と必死に呼び止めるナポレオンの心からの訴えは果たしてジュノーに届いたのか涙を流して、思いとどまります。

 

そしてジュノーは結局ナポレオンと一緒に行くことはできない未来を辿ることになります。

それを思えば、今回の展開は余りにも悲しいものがありました。そしてジュノーの対する処罰が無しということに対して厳しい言葉を述べるのが軍中にいるマルボ。かつては新米将校として大陸軍の戦闘に参加していた彼もいまや歴戦の士官として冷静に分析するようになっています。彼が懸念するのは現在の大陸軍の状況。既に大陸軍は侵攻当初の45万以上の大軍が三分の一の10数万にまで減ってしまっている。こんな時に失態を犯した人間を処罰できないことは軍内に更に悪影響を及ぼすことになる。

マルボ「皇帝もヤキが回った」

たとえ「個人」としては間違いではないかもしれない、でもそれは「将帥」としては間違いである。無論、ナポレオンもその事情を承知しているのでしょう。しかし、彼にとっては「友と共に戦う」こと、だからこそその友を切る捨てることはできない。そこに人間の業を感じてしまいます。いずれにせよ、ナポレオンが如何に情を働かせようと大陸軍の状況は好転するわけがなく、死の街と化したスモレンスクでの滞在が続きます。

 

〇クトゥーゾフの帰還

一方のロシア側では宮廷でバルクライに対する非難が殺到。何しろほとんどまともに戦うことなく撤退、撤退、撤退の連続なのでこれもまたやむを得ないことでした。皇帝であるアレクサンドルはバルクライを「ハゲだがカッコいい」とお気に入り将帥であることから庇おうとしますが、既に廷臣たちの不満は皇帝である彼でさえ抗えないものとなっており、指揮官交代の圧力がかかります。廷臣たちが口をそろえて、「後任」に推すのが老将であるクトゥーゾフ将軍。

アレクサンドル「あのデブは嫌いだ。年寄りで太って怠け者で食いしん坊で好色でー 愛人は太った百姓女、会議ではすぐ寝るし・・・」

とまあよくもまあここまで欠点を並べられるものというぐらいアレクサンドルはクトゥーゾフが大嫌い。しかし、現状では彼以上にロシア国民や兵士に信望のある将はいない現状に渋々認める皇帝なのでした。総司令官となったクトゥーゾフはバグラチオンに語り掛けます。

クトゥーゾフ「バルクライは名将だった」

「腰抜け」とまで言っていた相手を評価するクトゥーゾフの言動に反発するバグラチオンでしたが、それに対するクトゥーゾフの指摘はすさまじかった。「腰抜け」だからこそ逃げ回ったおかげで大陸軍の兵力は消耗してしまい、当初の圧倒的な「数の優位」は完全に消失。しかもいまや補給は途絶えて士気も低下している。一方のロシア軍は兵力を温存しているとスラスラと現在の状況を分析します。

クトゥーゾフ「あれほど恥知らずな撤退が誰にできる?わしだってできん。やりたくともな」

バルクライは結果から見れば、大陸軍に対して「正しい」選択をしたといえ、「名将説」を肯定する内容です。ああ確かにどんな名将でもここまでの撤退をできる決断はできるものではない。

しかし、クトゥーゾフもバルクライの正しさを認識する一方でその彼が更迭されて、自分が総司令官になった意味を理解していました。既にロシア側はこれ以上の逃げは許されない。彼としては自ら選んだ地でナポレオンとの決戦の決意を露にします。

その地の名は「ボロジノ」

遂に両軍は初めての本格的な決戦を迎えることになります。ここまで度重なるチャンスが全部不発に終わたナポレオンとしてもこの展開は願ったりかなったりですが、既に大陸軍の消耗は激しく、厳しい展開になりそうです。果たして…