その城は奇妙な城であった。平地に天守がそびえ立つ平城でありながら、そのすぐ背後には標高140メートルほど山を登ると山城が存在し、そして山を下りればすぐ海に出口を持つ海城へと変貌する。戦にはセオリー(「戦いは数だよ!兄貴!勝利は大軍と共にあり、とか何よりも確固たる補給は大事エトセトラ」があるのと同様に、城にもいくつかのセオリーがある。ところがその「城」は互いに相容れない要素を合体させたかのように、大いなる矛盾を孕んでいた。この城を築城した男が様々な顔を持つ精神を体現したかのように。その城の名は
萩城
言わずもがな幕末の雄藩にして、明治維新を通してのちの日本の歴史に大きな影響を与えた長州藩毛利家の本拠地の城です。この城の特徴といえば、冒頭文の通り「いくつもの要素を混在させたいくつもの顔を持つ城」と言えるでしょう。なお今回歴史についての記述は後日に築城した毛利輝元と共にご紹介して、純粋に城についての解説記事とさせていただきます。
2010年7月24日
2016年7月7日
この城については初期の頃に2010年に一度回り、2016年夏に再度訪問しました。本当は2015年に訪問予定でしたが、ある事情から一年ずらしました。2015年当時に日曜夜8時に放送されていた番組は何でしょう?
「大河ドラマ名状しがたい何か」
もうね、流石にあの作品の便乗観光客になど見られたくなかったのですよ。それこそ恥辱以外の何者でもありませんし、本当に忌避反応を起こしたくなるぐらい出来の悪い作品と言うのは罪深いものと言えます。さて鶴ヶ城にしろ、上田城にしろ大河終了した翌年でもその余熱が十分残っていました。果たして萩の場合は
JR山陰本線の朝一番列車に乗車して萩へ。山陰線のこの区間は列車の本数が指で数えるくらいしかない「本線」とは名ばかりのローカル線区間。それでも昔は特急も走り、それなりに列車も走っていたのですが、今では激減してなんと日中列車1本乗り遅れたら、5時間は待たなくてはいけないという鉄道旅行者泣かせの区間となっています。単純にアクセスするのなら新幹線の新山口駅(もしくは山口駅)からバスで行くのが無難です。
でも列車で行くのも本当は悪くないのです。こうして日本海沿岸の風光明媚な海岸風景を車窓から楽しむことができるのです。
東萩駅に到着。萩市の場合、東萩駅がメインターミナル駅(バスもここが発着)です。駅を出るとそこはまるで静寂につつまれた空間でした。
さてここから旧城下町のエリアまでは路線バスが走っていますが、やはりおススメはレンタサイクル。荷物も預かってくれるので。但し1日千円となります。
萩市街空撮図。萩の町は写真上方の日本海へ注ぐ阿武川の分流、松本川と橋本川に挟まれた広大な三角州を立地としていました。萩城は写真左上の端っこの緑の突き出した半島部分にあります。
萩は見島、大島といった離島への玄関口です。これらの島々は古来大陸との交易の拠点になったと言われています。
やがて海岸線沿いに進むと有名な菊ヶ浜に行き着きます。正面に見える山こそ萩城の一部を成す指月山です。ちなみにこの近辺に「女台場」と呼ばれる土塁跡がありますが、全力スル―していました。
川と人工的な水堀をもって三角州の城下町との防備となっています。
○毛利輝元の執着:平城
天守台上から見ると見事な水堀と石垣です。
山城から観た萩市街。
○毛利輝元の野心:海城
砂浜沿いに延々と連なる土塀と石垣
菊ヶ浜から見た城跡の光景
潮入門の跡
三摩地院櫓跡。城の北端部分です。
海城は当時の西日本の物流の大動脈である瀬戸内海沿いの沿岸部には多くの城が建てられました。籠城時の補給路や退路、あるいは水軍の軍港、そして海上交通の要として。しかし日本海沿岸にはそれほど多くありません。(小浜城等)何故かというと海の荒く、寒暖の差が激しいので城壁が破損しやすいからです。そのような自然地形の不利を考えてもなお、築城されたのはかつて瀬戸内の制海権を制して大きな勢力を誇った輝元にとって海こそ進出の道と考えていたからでしょう。
以上の如く、様々な形を見せつける萩城。それは毛利輝元の一筋縄ではいかない人間性を示しているかのようです。そんな萩城ですが、幕末には山口に「遷都」となり、次第に廃れていきました。当時海の城は海上からの砲撃が脅威となっていった為でした。そして明治になり、城は取り壊されることになりました。
これにて「海の城」シリーズは終了します。ここまでご覧いただきありがとうございました。
≪参考文献≫
歴史群像名城シリーズ『萩城』1997
○アクセス
JR山陰本線東萩駅からレンタサイクルで15分(1日500円)
萩城公園
入園時間:4~10月8:00~18:30
11~3月8:30~16:30 3月8:30~18:00
料金: 210円
関連施設:萩博物館
9:00~17:00 510円
博物館にリーフレット販売あり
「萩城に狼煙が一本・・・」