『ポストコロナ社会へ向けてのSDGsによる地方創生』と当社の事業戦略 | 藤原洋のコラム

 新型コロナウイルスとの人類の戦いを通じて、「経済」の基本が、「健康」にあることと「先進国では既に克服された課題である」という認識が誤謬であることが、再認識されました。18世紀半ばから始まった産業革命は、世界を大きく変え、それによってもたらされた巨万の富は、金融資本として膨れ上がると同時に地球規模の様々な格差と環境問題を産んでいます。今日のコロナという課題は、既に国境を越えSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)の重要性を改めて強調しているように思えます。その世界の課題解決の鍵を握るのが、デジタル技術です。

 

 このような状況の中で、今月のトピックスとして、去る8月7日にZoomを用いて開催された、JCI国際ハッカソン予選(本選は11月開催)への基調鼎談への参加がありました。これは、国際青年会議所(JCI)と野村総合研究所(NRI)が連携し、中小企業/スタートアップ企業と全国規模の金融機関/大企業等を連携させ、日本経済・ビジネスを活性化させるためのハブの実現を目指すものです。私は、登壇者として招待されましたので、その様子を紹介すると共にその背景にあるSDGsに関わる当社の事業戦略について述べさせて頂きます。鼎談のテーマは、『地域から分断を持続可能な連帯に~SDGs/ESGファイナンスとデジタルによる産官学民イノベーション~』で、登壇者は、私の他は、御友重希氏(野村総合研究所未来創発センター主席研究員、財務省から出向中)、澤田純平氏(日本青年会議所 IT部会長)です。

 

 今回、このテーマで社長コラムを書かせて頂く背景には、御友氏ら三人の編著で私も執筆陣に加わった『SDGsの本質』(2020年7月、中央経済社)の刊行がありました。本書の主旨は、「新型コロナウイルスによる社会・ビジネスへの打撃が世界で深刻化する中、「SDGs目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」の回復・実現が急務であり、そのためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を始め、新しいビジネスやファイナンスの仕組みを築く企業を如何に創出するかである」ということにあります。

 

 私は、本鼎談の中で主に、第1部として「インターネットを中心とするデジタル文明のインパクト」と第2部として「地銀・中小企業のフィンテック/デジタル化が開く新金融・新市場の未来」について述べさせて頂きました。第1部では、世界のデジタル文明は、インターネット/モバイル/ソーシャルで構成され、2018年、ついにインターネットユーザーが世界人口の過半を超え57%、モバイルが67%、ソーシャルが45%となったこと、そして、産業革命以後のテクノロジーでここまで急速に普及したものはないこと、今後は、デジタル文明は、100%カバレッジへ向けて世界中を覆いつくすものであることを述べさせて頂きました(図1参照)。

 

図1.SDGsを推進するうえで最もインパクトのあるデジタル文明の進展

 

 また、第2部の最初に、「失われた30年」をもたらしたものは、何か?たった1つのことをあげるなら、「一極集中」(首都圏と大企業への)であり、産業構造の変化(数十年で起こった第一次/第二次/第三次の就業人口比の激変、図2参照)に対応できていないこと、特にライフスタイル/ワークスタイルのデジタル化を実現できていないことについて述べさせて頂きました。

 

図2.日本の産業別就労人口の推移による産業構造の変化

 

 この日本の首都圏と大企業への一極集中という課題に対して、SDGs基本概念の「誰一人として取り残さない」を定着化させることの重要性を強調したいと思います。2014年以来、「地方創生」を政策目標として掲げていますが、進まない理由として、六つの分断①「官民の分断」、②「縦割り組織の分断」、③「現在と未来の分断」、④「地域間の分断」、⑤「世代の分断」、⑥「ジェンダーの分断」をあげたいと思います。そこで、この局面を打開する具体策として、「地銀のデジタル化」と「中小企業のデジタル化」を行うこと。そのためには、地域金融を担う地銀のフィンテック企業への転換と、中小企業のオープンイノベーションによる脱下請けのための独自技術の取得を強力に推進することを提言させて頂きました。

 

 私が、申し上げたいことを要約すると、次の3点となります。①地方創生は、日本経済にとっての最重要テーマであること、②地方に存在する多くの分断をSDGsによって克服すること、③地方創生を真に担うのは、産業のデジタル化に取り組む「地銀」と「中小企業」であること。

 

 そこで、今後のポストコロナ社会に向けての当社の事業戦略について述べさせて頂きたいと思います。これまで、日本経済における首都圏への一極集中に対応し、当社は、新大手町データセンターへの先行投資を行い、今期から投資回収フェーズに入ることができました。そこで、日本経済にとっても、当社にとっても、次なるチャレンジは、「地方と中小企業のデジタル化」です。くしくもコロナは、テレワークを加速し、首都圏のリアルなオフィス空間の価値の見直しを求めています。その意味で、コロナがもたらしたテレワーク社会とは、換言すれば、ワークスタイルの変化に伴う地方への人口分散の可能性を提示しました。これは、コンピュータプラットフォーム事業(データセンター、クラウド、データソリューション、サイバーセキュリティ)、AI/IoTソリューション、メディアソリューションを事業ドメインとする当社の事業戦略にとって、新たなビジネスチャンスであると考えております。業界団体を通じたコンソーシアムの創設と参画を契機として、「地方と中小企業のデジタル化」をSDGsの視点から捉えていきたいと考えております。

 

2020年8月26日
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋