こんにちは。せいじょう鍼灸院の草野です。

 

前回は、私自身の話でした。

 

今日はまた、訪問の現場に戻ります。

 

訪問先のお宅に上がると、私はまず、足元を見るようになりました。

 

玄関の上がりかまち。

 

廊下と部屋の境目の敷居。

 

布団のへり。

 

延長コード。

 

夜、トイレに行くまでの道筋。

 

理由は単純で、転んだ話を、あまりに多く聞くからです。

 

そして、転んだ場所を聞くと、たいてい、階段でも外でもありません。

 

いつも寝ている部屋か、その隣の部屋です。

 

これは私の訪問先だけの話ではないようです。

 

東京消防庁が、救急車で運ばれた高齢の方の事故を、毎年まとめています。

 

2024年の1年間で、65歳以上の方の搬送は98,056人。

 

そのうち「ころぶ」事故が73,500人。

 

およそ4人に3人が、転んで運ばれている計算になります。

 

住まいの中で転んだ方の内訳を見ると、いちばん多いのは居室や寝室で、29,783人。

 

玄関が3,900人、廊下が2,653人、トイレや洗面所が1,229人。

 

居室や寝室が、他の場所より、飛び抜けて多い。

 

慣れた場所ほど、転んでいる。

 

私はこの数字を見て、現場で感じていたことと同じだと思いました。

 

もう1つ、数字を挙げます。

 

国が2025年に行った国民生活基礎調査で、介護が必要になった主な原因を聞いています。

 

要介護の方では、1位が認知症で23.6%。

 

2位が「骨折・転倒」で、14.8%です。

 

要支援の方でも3位に入っています。

 

つまり、およそ7人に1人は、転んだことをきっかけに介護が始まっている計算になります。

 

ここまでは、数字の話です。

 

現場で私が見ているのは、もう少し細かいことです。

 

ある訪問先で、ご家族から「このあいだ、ここで転んだんです」と教えていただいたのは、寝室と廊下のあいだの、低い敷居でした。

 

転ぶのは、大きな段差ではありません。

 

2センチ、3センチの、ふだん気にも留めない差です。

 

足が思ったより上がっていない。

 

本人はいつもどおりに歩いているつもりで、つま先だけが、ほんの少し遅れる。

 

その遅れが、敷居やカーペットのへりに引っかかります。

 

これは体の変化なので、ご本人には見えません。

 

ご家族にも、見えにくい。

 

長く住んでいる家ほど、段差はそこにあるのが当たり前になっていて、誰の目にも入らなくなっています。

 

だから私は、外から来た人間として、足元を見るようにしています。

 

それと、転んだあとの話を、1つだけ。

 

以前の腰の記事でも書きましたが、転んだあとに急に痛くなった腰や背中は、骨折が隠れていることがあります。

 

「ちょっと転んだだけ」で終わらせずに、まず病院で診てもらってください。

 

ここは、鍼灸の出番ではありません。

 

では、転ばないために、私に何ができるのか。

 

正直に言えば、大きなことはできません。

 

段差をなくす工事は、私の仕事ではありません。

 

私にできるのは、体に触れて、足の上がり方や、立ち上がるときの体の使い方を一緒に確かめること。

 

それと、気づいたことを、ご家族にお伝えすること。

 

「この敷居、つまずいていませんか」

 

「夜、トイレまでの廊下は暗くないですか」

 

そのくらいです。

 

ただ、転倒の予防では、足の筋力とバランスを保つことが大事だと言われています。

 

痛いから動かない、動かないから足が弱る、弱るから転ぶ。

 

この順番を、現場で何度も見てきました。

 

転ぶことそのものより、転ぶのが怖くて動かなくなることのほうが、私は心配です。

 

だから私は、家の中を全部変えてくださいとは言いません。

 

まず、ご本人がいちばんよく通る道筋を、1本だけ見てみる。

 

寝室からトイレまで。

 

そこにある段差と、コードと、明かり。

 

それだけでも、ずいぶん違うと思っています。

 

また書きます。

 

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