突然の
ふと思い出した
ここ数日、気温の高い日が続いている。
これだけ暑いと、海岸で遊んでいる人も多い。
シートを広げて日光浴をしてるグループ、デッキチェアを並べて、海を眺めているカップル、レジャーテントを広げている家族等々。
その中にロングヘアーの女の子がいた。
彼女は、その長い髪が顔に掛からないように、顔を少し右に傾けて友達と話している。
その仕草を見た時、ふと昔のお客さんを思い出した。
もう10年以上前になるが、毎年、海の家に遊びに来る、男女5~6人のグループがいた。
ひと夏に何度か来ては、海で遊んでいた。
20代前半ぐらいで、明るく賑やかなグループだが、ばか騒ぎをして他人迷惑をかけるような事は、絶対にしなかった。
その雰囲気から、多分、社会人だろうと思った。
売店もよく利用してくれた。
何度も海に来るうちに、その中の1人の女の子と話すようになった。
彼女は、ワンレンの黒く長い髪にウェーブをかけ、話す時はには、その髪が顔にかからないように、顔を少し右に傾けていた。
少しつり上がりぎみの目で、パッと見はちょっとキツそうに見えるのだが、笑顔でおっとりとした口調で話す。
その瞬間、一気にほんわかした雰囲気に変わる。そんな不思議な魅力を持っていた。
彼女は、帰る時にも売店に必ず顔を出し、
「おにいさん、そろそろ帰るね。」
「今日も楽しんだか?」
と、問い掛けると、
「うん、すごく楽しかったよ。」
と、あの仕草と口調で話す。
彼女は、こちらが聞くと、いつも「うん」とうなずいてから答えた。
その度に、彼女の長い髪が揺れる。
「じゃぁ、気をつけて帰れよ。」
と言って送り出す。
彼女は、
「うん、ありがとう。またね。」
と、ニッコリ微笑んで、控えめに手を振りながら帰って行く。
初めはその程度の会話だったが、
やがて、
「結構、赤くなったなぁ。」
「うん、体は火照るし、ヒリヒリするし、もう大変だよぉ。」
「今日はもうTシャツ着てた方がいいぞ。それ以上焼くなよ。」
とか、次に来た時には、
「おっ、いい感じに日焼けが馴染んできたじゃん。」
「うん、結構キレイに焼けたでしょ?」
とか。
彼女の日焼け濃くなるにつれて、会話の回数も時間も長くなっていった。
彼女達は、ひと夏に何度も来るのだが、毎年7月最後の土曜日だけは、いつもかなり早い時間に帰って行った。
オレは、彼女に、
「今日はやけに早くないか?」
すると、彼女はいつもの仕草でニッコリと笑い、
「うん、これから花火大会を見に行くの。」
「あぁ、そうか。今日はあそこの花火大会か。」
「うん。だから早めに行って場所取りしないと。」
と、ニッコリ微笑んだ。
当時、7月の最終土曜日に、大きな公園のある港の近くで花火大会が行われていた。
電車ならば、途中下車をして駅から歩いて行ける。車でも行けるが、駐車場の確保はかなり厳しい。
「夏の間、また遊びに来る?」
「うん、そのつもり。まだ、お盆休みもあるし。」
それからも彼女達は、毎年、ひと夏に数回海に遊びに来た。
帰りはいつものように、オレの所に顔を出した。
そして、7月の最終土曜日だけは、早めに切り上げて花火大会に行く。
それが毎年の恒例行事になっていた。
やがて夏も折り返しを過ぎ、終わりが近づく頃になると、
「おにいさん、そろそろ帰るね。」
「じゃぁ、気をつけて帰れよ。」
「うん、ありがとう。でも、ごめんね。」
「何が?」
「今年は今日が最後かもしれないから。」
「そうかぁ、もうそういう時期かぁ。」
「うん、あっという間だよね。」
「じゃぁ、また来年だな。次の夏を楽しみにしてるよ。」
「うん、またね。」
と、いつもの仕草で微笑むのだが、その中に少し寂しそうな雰囲気が漂っていた。
そして、翌年の夏には、
「おにいさん、今年も来たよ。」
と、嬉しそうに売店に顔を出す。
毎年そんな感じだったが、いつからか、彼女達の姿を見なくなった。
あれからもう10年以上、あの彼女は、今どうしているだろう。



