短かった夏
梅雨明けから暑い日が続くコロナ禍の中、なんとか7月の後半にオープンした海水浴場。
建設中の海の家に立ち寄った時、今年はガイドラインに従って、収容人数を抑える為、建物の規模は小さくすると店長が言っていた。
それから数日後、海の家が完成し営業を開始したので、顔を出して来た。
中に入ってみると、思っていたよりもかなり狭く、ちょっと窮屈な感じがした。
海水浴客もまばらだ。
入って来たオレにバイトが、
「いらっしゃいませ!」
と、声をかけて来た。
その声を聞いた店長が、オレを見て、
「おう、来たか。」
と言った。
オレは、辺りを見回した。
バイトの顔ぶれが一新している。
この日は、男3人、女2人。大学生と高校生だろう。
例年に比べ、海水浴客が減っているとはいえ、バイトの数がちょっと少ない気がする。
店長に、
「このメンバーが今年のバイト?」
と聞いた。
「まだ何人かいるけど、これが今日のシフトだよ。」
いつもなら10人程いて、ほぼ全員で毎日フル稼働なのだが、このご時世、今年はそこまでの来客が見込めそうもないので、シフト制にしたそうだ。
あとは客足に合わせて、臨機応変に対応していくらしい。
一昨年のバイトの大学生と高校生は、全員卒業している。
新しいバイト達は、店長と親しそうに話しているオレを、誰だ?という顔で見ている。
その時、
「○○さ~ん!」
と、オレを呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのあるこの声はアイツだ。
オレは、声のする方向を見た。
荷物の預かり所の奥から、マスクをしている女の子が手を振って出てきた。
当然だが、今年は全員マスク着用が義務付けられている。
オレも店長もマスクをしている。
オレが女の子の方へ歩いて行くと、
「○○さん、久しぶり~!」
と言った。
マスクで顔は隠れているが、笑っているのがわかる。
その目が嬉しそうだ。
オレは、
「誰だっけ?」
と、とぼけた。
「あたしだよ!わかんないの?」
「知らねぇなぁ。」
「えーっ!?あたしのこと忘れちゃったの?」
このままとぼけるのも面倒だ。
「わかってるよ。□子だろ?」
「もう!わかってるんなら早く言ってよね!」
「声を聞いた時からわかってたよ。そんなやかましい声でオレを呼ぶのは、お前しかいねぇだろ。」
あの迷惑コンビの□子だ。
「でも、なんでいるんだよ。お前、卒業しただろ?」
「あたし進学したから。言ってなかった?今、夏休み中なの。」
と言いながら、横にあったアクリル板を預かり所のカウンターに置き、マスクを外した。
オレは、その様子を見て、
「へ~、一応そういう気遣いはできるようになったんだ。」
「当たり前でしょ。あたし20歳になったんだよ。」
「もう、20歳か。」
「全然来ないから、もう会えないのかと思ってたよぉ。」
バイトをしていた一昨年は高校最後の夏休み。
昨年は、コロナの影響で海水浴場は開設されなかった。
そして今年。
あれから、もう2年。
早いものだ。
ただ、進学するとは聞いていなかった。
マスクを外した彼女は、髪を伸ばし、薄くメイクをして、あの頃のガキっぽさも消えていた。
そこには、あの頃より少し大人になった彼女がいた。
だが話し始めると、□子のテンションが上がってきて、
「○○さん、喉が乾いた~。」
「まだ全然働いてねぇだろ!喉が乾くのはしゃべり過ぎなんだよ。」
とか、
「ねぇ、○○さん。今年はいつマックご馳走してくれるの?」
「また太るからやめておけ。」
「またって、元々太ってないもん!」
とか、会話があの頃の□子に戻っていった。
その様子を他のバイト達が面白そうに見ている。
少し大人になったが、オレの前で全然気取らない□子が嬉しかった。
そこへ通りかかった店長が、
「まだ言ってなかったけど、○美もバイトしてるからよろしくな。」
「えっ!?マジで?今日は?」
「今日は来てないよ。なんか用事があるとか言ってたなぁ。」
○美は、あの迷惑コンビの片割れだ。
そして、□子を見た後、オレを見て、
「お前が来るんなら、2人共お前と同じ日にシフトに入れておくよ。」
「なんで?」
「コイツら文句は多いけど、お前の言う事は聞くだろ?その分オレが楽なんだよ。」
と、店長は笑っている。
確かにあの迷惑コンビは、言われた事はしっかりやるし、仕事も早い。
その代わり、その愚痴をぶつけにオレに絡んで来るのだが、お互いそのやり取りを楽しんでいるところがあった。
店長も、それをわかっているのだ。
今年は海水浴客も少なそうだし、オレが手伝いに来る必要もないだろうと思っていたのだが、これでは何度か顔を出さなければならなくなりそうだ。
まあ、久しぶりに迷惑コンビと騒いで過ごす夏もいいだろうと思っていたのだが・・・
この後、状況は一変した。
8月に入って間もなく海水浴場の閉鎖が決定した。
緊急事態宣言の下、人流を抑え感染拡大を防ぐ為に、県の取った措置だ。
結局、オレが海に行ったのは、□子と再開したあの日だけ。
○美に会うことはできなかった。
その後、解体中の海の家に顔を出した。
店長が、さっきまで□子と○美が来てたと教えてくれた。
2人共、今年の夏は全然物足りなかったと言ってたらしい。
結果的に、天気予報ではお盆休み中は雨。
あのまま海の家を続けていても、赤字になっていただろう。
店長にとっては、海水浴場の閉鎖はいいタイミングだったそうだ。
そして、
「それにしても、今年は短い夏だったよなぁ。お前も期待はずれだっただろう。」
と、店長が言った。
花火大会も、恒例のBBQも、常連のお客さんに会うこともなかった。
でも、このコロナ禍の状況では、仕方のない事だ。
それでも、やっぱり今年の夏は短かった。





