思いがけない再会
自粛期間中の日曜日。
買い物に出かけた帰り道。海岸線の下り車線を車で走っていた。
その時、少し先の反対車線側にあるコンビニから、自転車に乗った男が下り車線に入ろうとしているのが見えた。
前方を見ると、信号は赤。既に3台程の車が止まっている。
今、対抗車線に走っている車はいない。
オレはスピードを落として、自転車に入れと合図を出した。
自転車は、ロードバイク。ヘルメットをかぶり、体にピッタリと張りついたようなウェアは、肩は白で胸から腹にかけて赤く、黒のパンツでサングラスをかけている。
この辺りでは、週末になるとロードバイクやサイクリングの自転車をよく見かける。
彼は笑顔で手を上げ、軽く会釈をして入ってきた。
オレも手を上げて応えた。
ロードバイクはオレの前を横切る時、もう一度会釈をして路肩を走って行った。
やけに丁寧な男だ。
信号が青に変わり、前の車が進み始めた。
走り出すと、前方にあのロードバイクが見えてきた。
オレはスピードを落としてロードバイクに並走し、手を上げて追い越した。
バックミラーの中で、ロードバイクが小さくなっていく。
しばらく走ると、前方の信号は赤。
やはり数台の車が止まっている。
バックミラーを見ると、ロードバイクがどんどん大きくなってきた。
オレの車に近づくと、スピードを落とし手を上げて追い越して行った。
その顔は笑っている。
信号が青になって走りだし、ロードバイクに追いつく。
オレは、ロードバイクに手を上げて追い越した。
それからは信号に引っかかる事もなく、順調に走っていた。
その先の信号は三叉路で、左は海岸線、真ん中は高台に向かう上り坂、右に行けば駅だ。
信号は青。
オレは、そのまま海岸線を走って行った。
信号を過ぎてしばらく走ると、反対車線側にコンビニがある。
オレはウインカーをつけ、対向車が通り過ぎるのを待ってコンビニの駐車場に入った。
駐車場に停め、車から降りた時、あのロードバイクが入ってきた。
そして、オレの横に来ると、
「さっきはどうも。」
と、ヘルメットとサングラスを外した。
「なんだ、追いかけて来たのか? 」
「おにいさんが挑発するからですよ。」
と笑った。
その顔は、汗をかき息も上がっている。
オレが、コンビニに入るのを見て飛ばして来たのだろう。
「挑発?オレは挨拶のつもりだったんだけどな。」
「それに、この辺りはよく走りに来るんですよ。おにいさんの車も何度か見かけましたよ。」
と言った。
「この車種は、よく走っているからな。」
オレの乗っている車は、一時期は人気で、そこそこ購入者の多い車種だ。
「そうじゃなくて、おにいさんのこの車ですよ。」
「そんなのわからねぇだろう。」
「だって、この車のナンバー覚え安いじゃないですか。」
確かに下4ケタの番号は覚え安いかもしれない。
「それに、前にも今日みたいにおにいさんの車に入れてもらった事があるんですよ。それでさっき入れてくれた時、なんか似てる車だなぁと思ってナンバー見たら同じだったんで。」
「こっちから見れば、ロードバイクに乗ってる奴らって、みんなヘルメットにサングラスだろ?にいさんの顔なんかわからねぇよ。」
「まぁ、それは確かに。」
「それより、その頃は自粛期間中だったんじゃねぇのか?不要不急の外出は控えろって言われてただろ。」
「あの時は、必要至急の状況だったんですよ。」
「何だよ、必要至急って。そんな言葉あるのか?」
「いや、前からいいなぁと思っていた女の子が、1度走ってみたいって言うんで、彼女と2台で走りに来たんですよ。」
と言った。
必要至急という言葉が正しいかどうかはわからないが、それを聞いてなんとなく思い出した。
以前、同じようにロードバイクを入れた事があった。
1台目はスムーズにオレの前を横切って行ったが、2台目は女性でぎこちなく、車にぶつけるんじゃないかと気が気ではなかった。
「今日は1人なのか?その時の彼女は?」
「ちょっとダメだったみたいで・・・。」
と、ちょっとバツが悪そうな顔をした。
そんな話をしている時、オレは飲み物を買う為に、コンビニに来た事を思い出した。
「せっかく会ったんだから、寂しいロンリーローディーに冷たい物でもおごるよ。」
と、コンビニへ入って行った。
スポーツドリンクを2本買った。
そして1本を彼に渡し、オレ達は道路を渡って、海沿いの駐車場に向かった。
駐車場から砂浜に下りる階段に座って、また話し始めた。
「なんで彼女ダメだったんだ?」
「彼女は、半分サイクリング気分で来たのに、オレが調子に乗ってガンガン走ったもんだから、懲りたようで・・・。」
と、苦笑い。
その光景を想像して、思わず笑ってしまった。
「にいさん、格好いい所を見せようとしたんだろ?」
「えぇ、まぁ・・・。あと坂道が・・・。」
と言った。
この辺りは、海岸線は気持ちよく走れるが、そこを過ぎるとアップダウンが出てくる。
海岸線が終わると上り坂、しばらく走って下るとまた海岸線に出るのだが、その海岸線が終わるとまた上り坂といった具合だ。
「そりゃそうだよ。あの道を初心者相手に本気で走ったらイヤになるさ。男でも上りきれないヤツだっているんだから。」
「ですよね・・・。」
「オレは夏になると、時々この海岸線をMTBで走るんだけど、のんびり走るのもいいもんだぜ。」
「結構いますよね。あとジョギングとかウォーキングしてる人とか。」
「それに、この辺りを走ってるんなら電動自転車のサイクリングもよく見るだろう?」
「あぁ、あの海岸線にあるレンタサイクルのですよね。」
この海岸線には、自転車のレンタルショップがある。
そこでは、電動アシスト自転車もレンタルできる。
休日には、カップル客や男性客、女性客、家族連れまで幅広く利用している。
「今度、彼女を誘ってみたらどうだ?たまには電動自転車でのんびりサイクリングっていうのもいいんじゃないのか?坂道も楽に行けるし。」
「大丈夫ですかねぇ。」
と、不安そうだ。
「別にいいんじゃねぇのか?断られたって。だって、もう1回やらかしてるんだから。」
「それはそうなんですけど・・・。」
「ここまで車で来て、彼女のペースで電動自転車でサイクリング。通り道には新しくできたカフェもあるし。」
「あぁ、あのカフェですね。」
あのカフェとは、海岸線が途切れた辺りに新しくできたカフェだ。
駅からは離れているので、車で来る客がほとんどだが、サイクリングの客もかなりいる。
「それに、この辺りを走っているにいさんなら、他のルートだって知ってるだろ?いろいろ走れば、帰りの車中は盛り上がるんじゃねぇのか?」
「あっ!そうですね!それいいかも!」
なんとなく吹っ切れたようだ。
彼がその気になった所で、オレ達は階段から腰を上げ、コンビニの駐車場に戻った。
オレ達は、また海岸線を走り始めた。
この先しばらくは信号はない。後ろを走っていた彼のロードバイクはもう見えない。
もうGWも間近に迫っている。のんびりサイクリングをするにはいい季節だ。
相変わらず、ロードバイクや電動自転車のサイクリングをよく見かけるが、にいさんは彼女を誘う事ができたのだろうか。





