思い出話3:これも仕事
ボート客が少ない日。
「今日はボートがヒマそうだなぁ。おかずでも釣ってくるか?」
と店長から声がかかる。
その言葉を合図のように、
「じゃぁ、ちょっと行ってくるよ。」
と言って、
オレは、釣り道具を積み込んでボートを出す。
釣り道具と言っても、テレビの釣り番組のような、立派な道具ではない。
釣具屋で、釣り竿からリールまでセットになっている、千円程度のオモチャのような道具だ。
ボートからの釣りならば、これで十分だ。
ボートで沖まで行き、まわりの景色を見る。
海の上から陸に見える建物の位置などからポイントのあたりをつけ、釣り糸をたらす。
この辺りの海底は砂地なので、キスやメゴチが釣れる。
運がよければ、アナゴも釣れる。
普通の釣り客ならば、キスを狙うが、
オレは、キスとメゴチの両方を狙う。
刺身ならばキスでもいいが、
天ぷらならメゴチはキスに負けないくらいウマい。
オレはキスよりもウマいと思う。
1時間から1時間半で、20~30匹は釣れる。
天ぷらにするには十分なサイズだ。
釣り上げた魚を持って、海の家に戻り、
その場で魚をさばく。
味見と称してつまみ食い。
常連客と一緒に食べることもあった。
そして、残りは夜の食卓に並ぶ。
一応、これも仕事のうちなのだ。
思い出話2:朝練と朝の散歩
前にボート番の話を書いたが、
バイトには、毎朝ボートの練習をさせた。
特にオレが手伝いに行く土日には、
ボートの朝練をよくやった。
何しろ、海水浴客が泳いでいる中を、ボートを出さなければならない。
泳いでいる人を避けながらボート漕ぐテクニックが必要になる。
初めは一緒にボートに乗り、沖に出る。
沖まで出れば、それほど波の影響を受けないので、漕ぎやすい。
とりあえず漕がせてみる。
そして、指示を出す。
「左に回って。」
これはなんとかできる。
「右に回って。」
ちょっとぎこちない。
利き腕ではないので、上手く操作できない。
そこで一度漕いで見せて、オールの操作を教える。
大回り、小回り、その場で方向転換。バック等々。
ある程度できるようになったら、
次は、波打ち際での漕ぎ方を教える。
これが結構重要になる。
岸に近くなるほど、波の影響を受けるからだ。
ボートは、真っ直ぐ向かってくる波は乗り越えられるが、
横波には弱い。
方向転換がうまくできないと転覆することもある。
更に、遊泳区域の中なので、泳いでいる人が大勢いる。
専用通路があるとは言っても、泳いでいる人は入って来る。
お客さんにケガをさせる訳にはいかない。
ひと通りの操作ができるようになったら、
あとは自主練で自由に漕がせる。
自分でボートを出し、好きなように海の上でボートを漕ぐ。
いつからかこれを朝の散歩と呼ぶようになった。
毎朝、バイトは、
「ちょっと散歩に行ってきます。」
と言って、ボートを出していた。
まだ人のいない海を、
自由気まま繰り出すのは、
最高に気持ちがいい。
ボートが禁止になった今では、
もう、できない。
あの頃はよかったなぁ。

