思い出話4:FENDIの彼女
もう何年も前のことになる。
このビーチには、
アイス売りのアルバイトがあった。
肩からクーラーボックスを下げ、鐘を鳴らしながらアイスを売っていた。
福引きで、大当りが出ると鳴らすあの鐘だ。
鐘をカランカラン鳴らしながら、ビーチにいる海水浴客にアイスを売り歩く。
それが、いつの頃からか、無くなってしまった。
その頃の話。
そのアルバイトというのは、
アイスを1個売ると、その何パーセントかがバイト代になるという方式。
いわゆる、歩合制だ。
だから、売れば売るほどバイト代がもらえる。
売れなければ、バイト代は微々たるものだ。
バイトをしているのは、ほとんどが若いオニーチャンやオネーチャン達。
クーラーボックスを肩から下げ、鐘を鳴らしながら、ビーチを端から端まで何往復もする。
真夏の炎天下ではキツい仕事だ。
当然、かわいい女の子やノリのいいオニーチャンはよく売れていた。
毎日、海の家の前を何往復もするので、自然と顔見知りになるアイス売りもいた。
アイス売りが休憩に来たときは、冷たい水や麦茶を出してあげたり、持っているボトルに氷を入れてあげたりした。
そんなアイス売りの中に、うちのバイトたちの間で話題になっている女の子がいた。
ビキニの水着にショートパンツ姿。
肩よりちょっと長めの髪には、ゆるくウェーブをかけていた。
その彼女は、いつもFENDIのタオルを肩にかけ、アイスを売っていた。
バイトたちはそのアイス売りの女の子を、
FENDIの彼女
と呼んでいた。
なぜ話題になったかというと、
それは彼女の売り方だった。
その彼女の売り方は、
いつも男たちの正面にクーラーボックスを置き、
その上に腕を組んでさり気なく胸を乗せる。
男たちの目の前には強調された胸の谷間がある。
そのままの姿勢でにこやかに会話をしている。
他の女の子はと言うと、
立ったまま会話をするか、ただしゃがんで話しているだけ。
結局、売れずに立ち去ることが多かった。
けれど、FENDIの彼女はかなりの確率で売れていた。
夕方になって、
「今日はどうだった?」
と声をかけると
いつもVサインをしながら、
「バッチリ!!」
と言って帰っていく。
そして、
朝になると、彼女はまたFENDIのタオルを肩にかけてやって来る。
あれから、何年になるだろう。
夏に当時の仲間が集まると、今でも話題に出ることがある。
あのFENDIの彼女は、今は何をしているのだろう。

