一年越しの
お盆休みの週末。
売店の忙しさも一息ついたオレは、
その空き時間に、砂浜出したサマーベッドの上でのんびりしていた。
そこへ、お客さんから、
「私たちのこと覚えてますか?」
と声をかけられた。
そこには女の子が2人っていた。
顔を見たがどうしても思い出せない。
考えているオレを見て、
「私たちはお兄さんのこと覚えてるよ。」
そして、
「去年の夏、大雨で雷が凄かった日、お兄さんが海の家に入れてくれたんだよ。」
と言った。
「あぁっ!あの時の!」
それを聞いて、ハッキリと思い出した。
去年のことだ。
8月後半のある週末。
この日は、朝から遠くで雷が鳴っていた。
その雷雲が真上を通過して物凄い雷雨になった。
上空の風が弱いのか、雷雲が大きいのか、雷雨は何時間も続いた。
何度も海に雷が落ちていた。
そんな光景を、オレは海の家から眺めていた。
やがて、雨の勢いが少し衰えてきた。
だが、雷はまだ鳴っている。
その中を傘を差した2人の女の子が、
「あのぉ、紹介されて来たんですけど…。」
とオレに声をかけてきた。
オレは、
「濡れちゃうから、とりあえず中に入って。」
と彼女たちを招き入れた。
「紹介って誰に?」
と聞くと、
「あそこのビールのお店のお兄さんが、〇〇〇っていう海の家がいいよって。」
それを聞いて、オレは納得した。
去年は、夏のイベントとして、ビーチにビアガーデンをオープンしていた。
海水浴客向けなので、家族連れでも来られるようなメニューが揃っていた。
オレは、準備している時から、そこのイベントリーダーとよく雑談していた。
夏が始まってからは、バイトを飲みに連れて行ったり、
海の家に来たお客さんを案内することもあった。
その頃には、他のスタッフとも顔見知りになっていた。
そんな関係から、何軒もある海の家の中から、うちを紹介してくれたのだ。
その彼女たちと、雨が上がるのを待ちながら、しばらく話をした。
彼女たちは、海に行く計画を立てていたが、互いに仕事が忙しく、この日しか予定が合わなかった。
悪天候だったが、午前中には雨が上がるという天気予報を見て海に来た。
海に来たものの、雨は上がるどころか雷雨の状態。
海の家にも客がいる様子はない。
困った彼女たちは、オープンしていたビアガーデンに入って時間を潰していた。
そこでスタッフと話している時に、うちを紹介されたということだった。
そんな話をしているうちに、空が晴れてきた。
週末ということもあり、泊まり客やどこかで雨宿りしていたであろう他の客たちも続々と現れ始め、
まわりの海の家も開店し始めた。
完全に晴れたビーチは、徐々に賑やかになってきた。
彼女たちも水着に着替え、唯一の海を楽しんで帰って行った。
そんな事を思い出しながら
「また来てくれて嬉しいよ。」
と言うと、
「いっぱい客引きされたけど、ここに来てお兄さんの顔が見えたから迷わず入ったんだよ。」
「お礼も言いたかったし。」
と言った。
「もっと早く声かけてくれれば良かったのに。」
と2人を見ると、
「忙しそうにしてたから。」
と言った。
「でも、よく覚えていたね。」
「うん、あの時は本当にどうしようか困っていたから。」
「お兄さんが入れてくれなかったら帰ってたよ。」
と彼女たち。
そんな思い出話をしながら、彼女たちは今年も海を楽しんでいた。
帰りぎわ、
「今年は晴れて良かったね。」
と言うと、
「来て良かったよ。」
「あの時はありがとう。また来年もお兄さんに会いに来るね。」
と言った。
一年越しでお礼を言いに来てくれた彼女たちの気持ちが嬉しかった。
迷子
8月のある土曜日。
夕方。
この日も一日の営業を終えて、閉店準備をしている時。
海パンと水着姿でウロウロしている遊び好きそうな5人のオニーチャンとオネーチャンがいた。
彼らは隣の海の家を覗き込んでいる。
その中の1人のオニーチャンが、
「隣の海の家、もう誰もいないみたいなんスけど、閉まっちゃったんスかねぇ。」
とオレに聞いてきた。
時計をみれば、もう5時を回っている。
隣を覗いてみると、もう完全に閉店している。
「今日はもう誰もいないみたいだね。」
と言うと、
「でも、まだ荷物預けたままなんスよ。」
と隣の海の家を見ている。
「本当にここで合ってる?海の家の名前は?」
と聞いた。
「多分、ここだと思うんスけど…。」
とイマイチ記憶が曖昧だ。
「でも、お客さんの荷物を預かったまま閉めることはないし、呼び出しの放送があるはずだよ。」
と言ってもう一度隣の海の家を見た。
その時、思い出した。
閉店時間の5時少し前、救護本部から客を呼び出す放送があった。
救護本部に依頼すれば客を呼び出してくれる。
「海の家〇〇をご利用の番号札〇〇番のお客様……」
といった感じだ。
そこで呼び出していた海の家は、オレが親しくしている海の家だった。
「兄さんたち海の家の番号札持ってる?」
と聞いてみた。
「あたし持ってる~!!」
水着のオネーチャンが走ってきた。
番号札を見ると、さっき呼び出していた海の家で使っているものだ。
「もしかして海の家の名前って〇〇じゃなかった?」
と確認すると、
オニーチャンは、
「どうだったかなぁ…。」
と、相変わらず曖昧な返事。
でも、オネーチャンは思い出したらしく、
「あーっ!!それだよ。〇〇だよ。」
と言った。
「それならもっと向こうだよ。何軒も先だよ。」
と今いる場所と真逆の方向を指した。
「スイマセン。助かりました。」
とニーチャン達は走って行った。
それにしても、時間を忘れるほど遊んで、帰る場所がわからなくとは…。
いい年をして立派な迷子が出来上がったものだ。
