Sea Breeze Season8 -40ページ目

盗撮



売店の前はテーブル席になっている。


売店に近いこともあり、よく飲むお客さんが座ることが多い。


わざわざ離れた席から買いにくる必要がないからだ。


7月の後半の週末。


この日も、そんなお客さんが座った。


30代の前半くらいだろうか。


ちょっと落ち着いた感じのカップル。


ジョッキで生ビールを飲んでいる。


何杯も飲んでいるが、2人とも全く顔に出ない。


そのうち、


彼女がテーブルに置いた腕に顔を乗せ、目を閉じた。


こちらに向いている彼女の顔は眠っているように見える。


それを見た彼氏がカラになったジョッキを持って、


「もう一杯。」


と言った。


「彼女にナイショでコッソリおかわり?」


と彼氏に聞いた。


すると、


「鬼のいぬ間にってやつね。」


と笑って言った。


その時、彼女がパッと目をあけて、


「なにコソコソやってるの?あたしにも。」


と、おっとりした口調で言い、


カラになったジョッキを彼氏に差し出した。




この彼女、


声といい、しゃべり方といい、聞き心地がいい。


深夜のFM放送でリクエストハガキを読んだら似合いそうだ。


その彼女から、苦笑いしながらジョッキを受け取った彼氏は、


「もう一杯追加で。」


と彼女のジョッキもオレの前に置いた。


オレは、


「彼女いい声してるね。」

と言うと、


「しゃべるのが仕事だから。」


と言った。


ジョッキを持ってテーブルに戻り、


2人はまた飲み始めた。


半分くらい飲んだところで、彼女がスマホがない事に気付いた。


取りに行こうとする彼女に彼氏が、


「俺が取ってくるよ。」


とパラソルに向かって行った。




待っている間、


「さっき寝てたでしょ?」

と彼女に聞くと、


「もうちょっとで寝そうだったけど、あの人のビールって声で起きちゃった。」


と笑った。


「でも、まだちょっと眠そうだね。」


と言うと、


「今日は風が気持ちいいから。」


と、さっきと同じように、テーブルの上で腕を組み、顔を乗せ、目を閉じた。


しばらくして彼氏が戻ってきたが、彼女は目を覚まさない。


海で遊び疲れたのか、ビールのせいなのか、


今度は本当に眠ってしまったようだ。


「彼女気持ちよさそうに寝てるよ。」


と彼氏に言うと、


彼氏は彼女の頬をツンツンとつついた。


それでも彼女は起きない。


「それじゃ、せっかくだから。」


と言って、スマホで彼女の寝顔を撮った。


1枚目、彼女の寝顔だけ。


2枚目、寝顔の横に飲みかけビールを置いた。

まるで酔い潰れているようだ。


3枚目、その後ろで彼氏がVサインをしている。


因みに、3枚目はオレがシャッターを押した。


彼氏に、


「これ、盗撮だよ。あとでバレたら彼女に怒られるんじゃない?」


と言うと、


「大丈夫。1枚目しか見せないから。」


と彼氏。


そして、


「それにバレても、ここに3枚目を撮った共犯者もいるし。」


とオレを指差した。


「もし来年も来られたら、その時は一緒に謝ってもらうから。」


と彼氏。


「ひでぇなぁ。オレは主犯に頼まれて撮っただけなんだから。」


と反論した。


すると、彼女を見て、


「じゃぁ、コイツに決めてもらおう。」


結局、それで話はまとまった。


とりあえず、この日は彼女に写真を見られる事なく、2人は帰って行った。


1年後、オレは彼女に謝る事になるのだろうか。


どちらにしても、もう一度会いたい2人だった。


新橋の…



落ち着いた感じの女の子が2人。


ビールを注文した。


オレは迷わず、350mlの缶ビールに手を伸ばした。


すると、


「ビンのビールを2本ください。」


若い女の子がビンで注文するのは珍しい。


「グラスは2つ?」


「グラスはいいです。」


「えっ!?ラッパ飲み?」


「えぇ、そのつもりですけど。」


とニコニコ笑っている。


「それはやめたほうがいいんじゃない?男ならともかく、女の子のラッパ飲みしてる姿なんか、あまりいいもんじゃないよ。」


と一応忠告した。


「じゃぁグラス2つお願いします。」


と言って、彼女はビールとグラスを持って席に戻って行った。


それから程なくして、彼女たちのテーブルに料理が運ばれてきた。


焼きそば

イカの丸焼き

モツの煮込み


それらをつまみにビールを飲み始めた。


会話をしながら、ビールをグラスに注ぎ、つまみを食べ、ビールを飲む。


その姿を見て、彼女たちに、


「どう見ても、仕事帰りのOLが一杯飲みながら愚痴ってるって感じだね。」


と言うと、


笑いながら、


「女子会って言って欲しいなぁ。」


と彼女たち。


「そのテーブルの上を見たら、女子会って雰囲気じゃないでしょ?」


とテーブルを指さした。


「新橋みたい?」


と言って笑った。


「うん。ねえさん達、OL?」


聞くと、


「そう。」


と言って、


どういう仕事をしているか説明してくれたが、

OLという表現が一番しっくりくる雰囲気だ。


「なかなか板に付いてるよ。新橋のニオイがするよ。」


とオレ。


ビールとつまみで腹ごしらえをした彼女たちは、海に向かって行った。


持っているウキワはかわいらしい。


そのあたりはやっぱり女の子だ。


しばらく遊んだ後、休憩にきた彼女たちは、やっぱりビンのビールを注文した。


その飲みっぷりを見て、


本当に新橋辺りで、夜な夜な飲んでいるんじゃないのかと思った。



因みに、翌週も彼女たちはやって来て、新橋の雰囲気を漂わせていた。


サバを読むにも



毎年のことだが、ビーサンを持たずに海に来るお客さんは多い。


この日も、そんなお客さんから、


「ビーサンありますか?」

と声をかけられた。


オレは売店の品物を並び替えていた。


8月も後半に入ると、在庫も品薄になってくる。


そんな商品を整理していた。


振り向くと、男が2人、女の子が1人立っている。


その中に、1人だけ靴を履いている男がいた。


「サイズは?」


と聞くと、


「26.5か27㎝で大丈夫だと思います。」


と言った。


履いていた靴のサイズもその位の大きさに見えた。


そのサイズのビーサンを出し、足を合わせたが大き過ぎる。


「もう少し小さいほうがいいんじゃない?」


と言って、


大体の目測で、25~26㎝のビーサンを出した。


合わせてみるとピッタリだ。


「お兄さんサバ読んだでしょう。」


と冗談のつもりで言ったのだが、


そのニーチャン、どういう理屈かわからないが、


「男は足が大きいほうがカッコいい。」


と答えた。


それを見ていた女の子が、

「あんたの身長で足の大きさサバ読んでどうすんの。そういうのをバカの大足って言うんだよ。」


確かに背はあまり高くない。


オレは、


「ビーサンで足のサイズをサバ読む人は初めて見たよ。」


そのニーチャンは、まだ何か言いたそうだったので、


「靴ならまだわかるけど、ビーサンは裸足だからね。ごまかしようがないよ。」


と先に言った。


一緒にいた女の子も、


「そうだよ。ビーサンなんだよ」


そして、


「あんたの場合は、バカの大足じゃなくて、マヌケの小足だね。」


とキツい一言。


なんともキヒシイ女の子だった。