スイカ割り
台風。
土曜日は遊泳注意だった。
天気は、多少の雨は降ったが、ほとんど薄曇りの状態、日が射すこともあった。
こちらは関東なので、台風の影響はまだそれ程でもない為か、
海水浴客もいた。
それでも、風は強く、波も高かった。
この日、大学のサークル仲間だというお客さんが来ていた。
大波に乗ろうとしては、波に巻き込まれていた。
また、それを楽しむように何度も大波に挑んでいた。
遊び疲れて海から上がってきた彼らは、クタクタになっていた。
男の背中には海藻の切れ端が付き、
女の子は、水着がズレて、ブラからはパットがはみ出している。
相当波に揉まれたのだろう。
彼らは、シャワーで砂や海藻を洗い流し、海の家で休んでいた。
ひと休みしたところで、
「そういえばスイカはどうした?」
「あっ!忘れた。」
「どうするんだよ!」
「これじゃ、写真撮れねぇよ。」
などと騒ぎ出した。
困り果てたメンバーの1人が、
「この近くでスイカ売ってるところありますか?」
と聞いてきた。
なぜ、そこまでスイカにこだわるのか理由を聞くと、
この日は、サークル全員で来る予定だったが、
台風で海は無理組と大丈夫組に別れた。
結局、大丈夫組だけ海に来ることになった。
そこで、海といえばスイカ割りということで、
楽しんでいる姿を写真に撮って、無理組に見せつけてやろうとしたが、
肝心のスイカを買い忘れてしまった。
ならば、現地調達しようということになった。
この辺りは、スイカや野菜の路上販売をしている農家が多い。
オレは、海から5分とかからないところにある、一軒の農家を教えた。
「ありがとうございます。」
と言って、彼は仲間のところに戻って行った。
しばらくすると、スイカを持って砂浜に出てきた。
そして、スイカ割りを始めた。
砂浜に輪になって座り、割ったスイカを食べている。
その間、何枚も写真を撮っていた。
とりあえず、彼らは何とか目的を達したようだ。
ちなみに、
翌日の日曜日は
台風の影響で遊泳禁止だった。
花火大会
通常、海の家の営業時間は午後5時までだが、
花火大会の日は、売店のみ夜も営業している。
花火大会。
この日だけは、仕事を終えたら早々に帰宅。
そして、海の家に向かい、売店を手伝う。
いつもならお客さんはいない時間なのだが、昼間以上の人混みだ。
みんな砂浜にシートを広げ、腰を下ろしている。
浴衣姿の女の子も多い。
海岸線の駐車場には、車ではなく夜店が並び、大勢の人が行き交っている。
夏の海に、花火に、浴衣姿の女の子。
やっぱり夏はいい!!

ちなみに、
ナンパ目当てのニーチャン達が、売店にビールを買いに来た。
お客さんの女の子と親しそうに話してたオレを見て、
「どうしたらあんなふうに仲良くなれるんスか?」
と聞いてきた。
面倒くさいので、
「折れない心だよ。」
答えておいた。
花火が終わる頃には、
彼らの心は何度も折られたことだろう。
不機嫌からご機嫌に
砂浜を歩いている2人のお姉様。
少し落ち着いた感じ。20代後半くらいに見える。
まだ私服なので、これから入る海の家を探しているようだ。
まわりの海の家からは、呼び込みの声がかかっているが見向きもしない。
ひたすら不機嫌そうに歩き、
時々立ち止まっては、2人で相談している。
オレも、ダメ元で声をかけてみた。
2人はまた立ち止まって相談を始めた。
どうせ無視されるだろうと思ったが、意外にもこっちにやって来た。
缶チューハイを買い、空いている場所を見つけ、そこに座り、飲み始めた。
缶チューハイを飲み終え、2人がこちらに歩いてくる。
そのまま出ていくものと思っていたら、彼女達の方から話しかけてきた。
「ここ料金はいくら?」
オレはひと通り説明した。
彼女達は、
「ここにしようか。」
「そうだね。それじゃお願いしよ。」
と言って、会計を済ませ、着替えに行った。
そして水着に着替えた彼女達が、
「空気入れてもらえますか?」
とウキワを持ってきた。
少し表情がにこやかになっている。
今なら大丈夫かなと思い、ウキワに空気を入れながら聞いてみた。
「なんであんなに不機嫌そうに歩いてたの?」
「だって、みんなうるさいし、しつこいし、ねぇ。」
もうひとりの彼女も、
「そうそう。うちは他よりサービスがいいとかなんとか、どこも同じセリフばっかり。」
また顔が不機嫌そうになった。
「そりゃそうだよ。みんなお客さんに入って欲しいからね。それならどうしてここに入ったの?」
と聞くと、
「だってお兄さんはそんなとこ一言も言わなかったでしょ。」
「そう。『暑いからここで休んでいてもいいよ』って言っただけ。だから休憩に入ったの。」
「で、ちゃんと休憩させてくれたからここにしようってことになったの。」
と答えた。
「だけどこっち歩いてきた時には、なんか文句でも言われるのかと思ったよ。」
と言うと、
「そんなとこしないよ。」
と彼女達。
「そうかなぁ。結構こわい顔だったよ。」
「こんな感じ?」
と眉間にシワを寄せて、オレをにらみつけた。
そして、その顔のまま、
「早くウキワよこしなさいよ。あとパラソルもよろしくね。」
オレは、笑いながら、
「やっぱりネーサン達こわいよ。」
と言いながらウキワを渡し、
「今日は台風の波が入って来てるし、風も強いから気をつけるんだよ。」
と彼女達を送り出した。
「うん、ありがとう。」
と言って、彼女達は出て行った。
この日は、8月最初の週末。
海水浴客も多く、パラソルとサマーベッドのレンタルが好調だった。
午後になると、在庫がほとんど出払ってしまうほどだ。
レンタルしたお客さんは、帰りぎわにレンタル小屋に一声かけていく。
そしてバイトがお客さんが帰ったあとの空きパラソルを回収する。
時間も進み、空きパラソルが目立ち始めてきた。
貸し出した数が多かったので、
オレもレンタル小屋に行き、バイトに指示を出し、チェックを始めた。
辺りを見回すと、あの彼女達がパラソルの下でウキワの空気を抜いていた。
そろそろ上がる準備をしているようだが、ウキワが大きいので、悪戦苦闘している。
オレは彼女達に、
「このパラソル片付けてもいいのかな?」
と聞いた。
「うん、ありがとう。もうシャワー混んでるかなぁ。」
時計を見ると、既に3時半を回っている。
「もうそろそろ行ったほうがいいね。」
すると、
「まだラーメンも食べられる?」
「あっ、あたしも食べたい。」
と言い出した。
「じゃぁ先に食べてくれば?」
と言うと、
「でも、先にシャワー浴びたいしなぁ。」
と言いながら、ウキワとオレの顔を交互に見ている。
「わかったよ。ウキワは抜いておくから、早く浴びておいでよ。」
「ありがとう。行ってくるね。」
と荷物を持って海の家に戻って行った。
オレは、ひと通りチェックし、残りをバイトにまかせ売店に戻った。
彼女達も着替えを済ませ、無事、ラーメンも食べられたようだ。
砂浜に面したテーブル席に座り、
ビール片手に海を見ながらまったりとしている。
オレは、彼女達のところに行き、
「朝の顔と随分違うね。」
と言ってウキワを渡した。
「ありがとう。なんか気持ちよくなってきちゃった。」
「今すぐ眠れそう。このままここで寝ていたい。」
と彼女達。
そして、
「ここに入ってよかった。」
「今度海に来るときも、こに来るね。」
と言った。
朝の不機嫌な顔が、帰りは満面の笑みに変わっていた。