続いて、橋本左内は西郷隆盛に、
「だから、西郷さん、京で共に、一橋慶喜(徳川慶喜)様を次の将軍候補にするために奔走するには、この水戸藩の派閥問題も充分に注意しなければいけません」、
西郷隆盛は驚いた、まだ自分は、京で共に行動するなんて言って無いのに、橋本左内は決まっているかのように言ったので、
それで西郷隆盛は少し戸惑っているけど、橋本左内は続けて、
「それで、藤田先生の意思を受け継ぐ、御老公派の方々へ面談に行くと言うのは、どうでしょうか」、
「それで、その方々は誰で、ごわしょうか」、
「はい、とりあえず、原田八兵衛どの、安島弥二郎どの、武田耕雲斎どのではいかがでしょうか」、
「はい、わかりもした、行く日が決まりもしたら、連絡をください」、
西郷隆盛は、『こん男どんは、小さい体で良く喋りもすな』と、思いながらも連絡先を書いて橋本左内に渡し、帰ろうとして立ち上げると、
橋本左内は、「西郷さん、早ければ明日にでも会いに行けるようにしますので」と、また気の早い事を言ったので、
西郷隆盛は、自分より体の小さい男に、いろいろと指図されているような気持ちになって、普通なら腹立ちそうな感じだけども、この橋本左内だと何か許せる感じだった。
西郷隆盛は帰るため玄関先へ向かって歩き、その後ろを橋本左内は見送るために歩いていた、けど、西郷隆盛は肝心の用事を思い出して振り返り、橋本左内を見て、
「すんもはん、おいは、大事の用事を忘れていたでごわす」と言った。
それは、島津斉彬から松平慶永(春嶽)に渡すように預かってきた書簡だったけど、
橋本左内が、あまりにも良く喋るので、スッカリ忘れてしまっていた。
西郷隆盛は、書簡を懐から出すと、
「橋本どん、いやすんもはん、橋本さん、これは、斉彬様から越前公の慶永様に渡すように預かってきたものでごわす、橋本さん、お願いできるでごわしょうか」と、言って、
橋本左内に渡すと、橋本左内は笑いながら、「西郷さん、橋本どんと呼んでくれて良いですよ、別に無理に直さなくても、私とは、慣れた言葉で喋って下さい」、
「いや~、すんもはん、では、この手紙、お願いしもす」、
そう言って、西郷隆盛が帰ろうとすると、
「いや~、待って下さい、西郷さん、西郷さんが、この越前屋敷に来るとなれば、当然、斉彬様は、何らかの言付けを託しますよね、すみません、私も気がつきませんでした」、
この、謝る橋本左内を見て、西郷隆盛は、ますます橋本左内のことが気に入ってしまった。
「西郷さん、慶永様のところへ、ご案内しますので、もう一度部屋へ、お戻り下さい」、
「いや、おいは」、西郷隆盛は帰るつもりだったが、橋本左内は部屋で待っていて下さいと言うので待っていると、しばらくして、橋本左内は、藩主の前に座る服装に着替えて来た。
「では、行きましょう」、
鈴木主税の屋敷を出て、松平慶永の居る大屋敷へて向かって歩いた。
「急に行きもして、越前公の、ご都合は、よろしいのでごわしょうか?」、
「はい、大丈夫です、斉彬様の使いの者だと言えば、会って下さいます」、
西郷隆盛は、橋本左内と言う男は、今日初めて会った男に、藩主に会わせるように動くことに、また、一層感心した。

つづく。