西郷隆盛は、野村休成に合って帰って来た有村俊斎の話しを聞いて、
「そげな男のほうが、話しがしやすいかもしれんでごわすな、俊斎どん、もう一度行って、あの辺の茶店に連れ出してくれんでごわすかな」、
「ああ、それは、いいでごわすが、じゃが吉之助どん、あの男に合って話したら、叩っ斬りたくなるでごわすよ」、
「ハハハ、おいどんは、刀を振り上げることができんでごわすから、斬れんでごわすよ」、
西郷隆盛は、子供の頃、腕を怪我して、刀を振り上げられ無くなり、剣術が出来なくなってしまっていた。
そして、有村俊斎は野村休成の屋敷の近くで見張り、野村休成を見かけたら偶然に出会ったように見せかけ、近くの茶屋で待つ西郷隆盛の所へ連れて行く事にした。
西郷隆盛が団子を食べながら待っていると、野村休成は有村俊斎に上手く話され、連れられて来た。
野村休成には、連れの者がいて、有村俊斎と野村休成、そして連れの男、3人は西郷隆盛の前に来て立った。
野村休成は、品が良さそうで柔和な感じがしているが、その連れの者は、目つきもガラも悪そうで、まるで野村休成の用心棒のような感じだった。
有村俊斎は、「吉之助どん、来てもらったでごわすよ」、
「わざわざ来てもらって、すまんでごわす、おいは西郷吉之助、言いもす」、
野村休成は笑いながら、「なんや、有村さんは偶然会ったような感じやったのに、最初から、あんさんに会わすんが目的やったんですな」、
「ほんに、すまんでごわす、佃島で、一橋慶喜様の警護をしていもした、宗匠頭巾の男どんに、野村どんの、あ、いや、野村さんの名を教えてもらいもして、来たでごわす」、
野村休成は少し笑みを浮かべて、
「それは、たぶん、車善七だ」、
「それで、有村どんに行ってもらったでごわすが、情報を売ってくれるとか、金に糸目はつけもはん買いもすんで」、
「ハッハッハ、そうですか、あんさんの聞きたい事は、だいたい解ります、要するに、一橋慶喜様の継嗣問題でしょ」、
「そうでごわす、一橋慶喜様は次の将軍様になれるでごわしょうか?、それと、すんもはん、おいは、斉彬様から、薩摩言葉は出さないように直せと言われているでごわすが、どうしても出てしまいもす、言葉が解り難い思いますが、許してください」、
「ハハハ解りました、では話しましょう、幾らで買ってもらうかは後でとして」、
そう言うと野村休成は、少し小悪党の顔になって、
「一橋慶喜様が将軍様になるのは難しいでしょう、阿の字様(阿部正弘)は、近いうちに失脚させられるでしょうから」、
「何と、阿部様が辞めさせられると言うでごわすか?」、
「はい、そうなるでしょう、そうなると、一橋慶喜様の将軍跡取りは無くなるでしょうな」、
阿部正弘が老中首座を降りることになり、それによって、一橋慶喜の将軍跡取りの話しは無くなると聞いて、西郷隆盛は、啞然としていた。

つづく。