世界のスピルバーグ監督にはがっかりしたものだった。3年前の映画「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」。冒険家の主人公が、米ネバダ州の核実験場に紛れ込んだ場面である。
間近で核爆発が起き、主人公はどうしたか。何と冷蔵庫に入ってやり過ごしたのだ。いくら不死身の男とはいえ、それはないだろう。核兵器に対する米国人の感覚を皮肉ったと取れなくもないが、真に受ける人がいかねない状況を無視した軽さに落胆した。
今度のがっかりは英BBCテレビだ。広島と長崎で二重に被爆し昨年亡くなった山口彊さんについて、同局が先月、バラエティー番組で「世界一運が悪い男」などと笑いの種にしていた。
原爆投下後の日本人のたくましさにも触れるなど、悪意があったわけではないようだ。しかし日本人にとって愉快なわけがない。日ごろ優れた教養番組を手掛け、英国民に信頼される同局だけに、ため息が出る。
不快だが、謝罪されたところでさほど意味はないだろう。皆が皆ではないにせよ、核保有国に核兵器を軽く見ている人がいることや、非戦闘員の被爆者の痛みに思いが至らない人がいる状況は、変わりがないのだから。
二重被爆者を終戦10年後に取材し、その悲惨さをいち早く報じたのは、米国人ジャーナリストだった。ヒット映画「アバター」のキャメロン監督は、原爆を映画化しようと苦心している。BBCもそんな取り組みをしてほしいと、山口さんも願うのではないだろうか。(G)