チョン・ミョンフン指揮東京フィル  メシアン「トゥランガリーラ交響曲」第1001回サントリー定期 | ベイのコンサート日記

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第1001回サントリー定期シリーズ(6月24日)

チョン・ミョンフンと東京フィルの熱演と、務川慧悟の鮮やかなピアノ、作品を熟知する原田節のオンド・マルトノの霊妙な響きにより、想像以上にすさまじいエネルギーに満ちたメシアン「トゥランガリーラ交響曲」となった。

 

圧巻は、第5楽章「星々の血の喜び」。コーダではチョンが両手をぶるぶると震わせ「もっと!もっと!もっと!」と東京フィルにさらなる音を要求していく。その絶頂で、一気に解き放つようにタクトを振りきると、巨大なエネルギーが渦を巻いて宇宙の彼方まで飛んでいく。かつてこんな音楽、演奏はあっただろうか。

 

第8楽章「愛の展開」も強烈。3人によるシンバルが頂点で叩かれるとまるで落雷が頭上を直撃するかのようだ。

 

第1楽章序奏のコーダと第2楽章「愛の歌1」の頂点も、巨大な雪崩が起きたかのような衝撃があった。

 

静かな楽章、例えば第6楽章「愛の眠りの庭」は、恋人たちがまどろんでいるところに務川慧悟のピアノが鳥の鳴き声を模すが、もう少し音を抑えてもよかったのでは。

浮遊する不協和音はもっと官能的な表情もほしいと思った。

 

最後の第10楽章は、それまでの全エネルギーをさらに集約するような音響で突き進む。色彩が渦巻く最後はさすがに東京フィルのエネルギーの限界も感じた。

 

務川慧悟はほぼ休みなくピアノを弾く。原田もまた然り。二人の献身的な演奏にはチョン・ミョンフンも敬意を表していた。

 

圧倒的な演奏だったが、聴き終わって何か深く残ったものはあったのかと自身に問えば、あまりそれは感じられなかった。何か浄化されるもの、清められるものも期待していたが、そうした感覚とは少し異なるものが残った。

 

チョン・ミョンフン東京フィルのつくる響きは色彩的だが、重厚でこってりとしており、胸にずしりと響く。メシアン本人はチョンのグラモフォン録音に感激したと伝えられているが、小澤征爾トロント交響楽団の録音のように、あるいはシルヴァン・カンブルランであれば、もう少し抜けの良い、爽やかな響きや後味もあったのではと個人的には思う。