エッシェンバッハ指揮N響 ブルックナー「交響曲第7番」(4月20日・NHKホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

風格のある堂々とした演奏。全体にテンポはゆったりとしている。コンサートマスターは川崎洋介。N響の弦はしなやかで、トレモロは渾身の力を込める。

ホルンとトランペットにわずかな疵(きず)があったが、ワーグナーテューバ、トロンボーン、バステューバとともに、金管は粘りのある輝かしい音で鳴り響く。木管も安定。

 

エッシェンバッハは息長くフレーズを歌わせていく。しかし、その演奏の中に入っていけない。立派なブルックナーなのになぜ?と自問しながら、入口を見つけようとするが、結局見つからず、演奏が終わってしまった。

 

聴き終わった後、なぜエッシェンバッハの指揮に共感できなかったのか振り返ってみた。

 

ひとつは、音楽がレガートで横に流れていき、のっぺりとして変化が少ないこと。

第1楽章の第1主題は雲の上に漂うように柔らかい。第2主題も呼吸が長いので、引き締まったところが少ない。第3主題もインパクトがない。全てが優し過ぎる。コーダも滑らかで滔々と終わる。

 

ふたつに、表情の変化が少ないこと。第2楽章アダージョも第1楽章の延長線。第1主題の優しさはまるで天国に遊ぶよう。女性的という禁句を発したくなる。第2主題は更に優しさを加える。甘過ぎ優し過ぎる。コーダのワーグナーテューバとホルンのハーモニーも柔らかい。繊細さの中に、もっと陰影の濃さや奥行き、あるいは感情の濃さが加わってもいいのでは。天国的と言えばまさに天国的だが。

 

第3楽章スケルツォもゴツゴツとした感じとは違い、角が取れてすべてが柔らかい。トリオも繊細。こういうブルックナーはあまり耳にしたことがない。

 

第4楽章もスケルツォ楽章と同様にすべてがまろやかで繊細で柔和。第3主題はさすがに金管の切れと総奏の迫力が出る。展開部の第3主題による頂点から停止はまずまずの力強さ。

再現部に入る。第1主題の動機で力を増していくが、全体にソフト。コーダの第1主題の金管も柔らかく美しいハーモニーで盛り上がる。トレモロも渾身の力で弾かれるが、角ばったところは少ない。金管の強力な吹奏などオーケストラの総奏による第1主題の動機で輝かしく終わるが、もうひとつすっきりとしない。

タクトが下りるまで静寂が保たれ、ブラヴォも起こる。

 

最初に書いたように、エッシェンバッハのブルックナーは素晴らしいと思うが、共感は少なかった。NHKホールという巨大な空間(座席は1階16列目中央)もあってか立体感がいまひとつ感じられなかった。もしサントリーホールで聴いたなら異なる感想を持ったかもしれない。