大野和士指揮都響 藤村実穂子(メゾ・ソプラノ) (2月3日・サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

【定期演奏会1000回記念シリーズ①】

【ブルックナー生誕200年記念/アルマ・マーラー没後60年記念】

指揮/大野和士

メゾソプラノ/藤村実穂子

曲 目

アルマ・マーラー(D.マシューズ & C.マシューズ編曲):7つの歌 [日本初演]        

ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調 WAB103(ノヴァーク:1877年第2稿)

 

アルマ・マーラー《7つの歌》は、《5つの歌》と《4つの歌》から、英国の作曲家兄弟デイヴィッド・マシューズ(1943~)とコリン・マシューズ(1946~)が1995年に抜粋して並べ直し、ピアノ・パートを管弦楽に編曲したもの。

 

第1曲「静かな街」、第2曲「気だるい夏の夜」、第3曲「夜の光」、第4曲「森の至福」、第5曲「父さんの庭」、第6曲「君といると心地よい」、第7曲「収穫の歌」が藤村実穂子により歌われた。

 

新国立劇場《トリスタンとイゾルデ》で大野和士都響と共演、ブランゲーネ役で主役を食うほどの歌唱を聴かせただけあり、今夜も絶好調。大野都響の音が時に大きすぎるように思えたが、伸びやかな声でオーケストラにもまったく負けない。

 

アルマ・マーラーの作品は個人的には半音階を含む難しい歌よりも、すなおな旋律やユーモアが感じられる第2曲「気だるい夏の夜」や第5曲「父さんの庭」に惹かれた。

 

ブルックナー交響曲第3番 ニ短調はノヴァーク:1877年第2稿。

実演で第2稿を聴くのは実は初めてのこと。2013年マゼール指揮ミュンヘン・フィル、2017年上岡敏之指揮新日本フィル、2021年ヴェンツァーゴ指揮読響は全て第3稿だった。他にもあったかもしれないが、全て第3稿だったと思う。
来週下野竜也日本フィルも第2稿を演奏するが、2回続くのは珍しい。ブルックナー生誕200年ならでは。

 

初稿、第2稿、第3稿との違いは都響の曲目解説に詳しい。
下記から入って「曲目解説」をクリックしてください↓

第996回定期演奏会Bシリーズ │ 東京都交響楽団 (tmso.or.jp)

 

第2楽章アンダンテは3つの主題の構成が異なり、初-第2-第3と稿を重ねるごとに楽章が短くなっている。

スケルツォは第2稿ノヴァーク版には41小節のコーダがついている。

終楽章は第3稿が495小節に対し、第2稿は638小節と143小節も長く、再現部での第1主題の省略もないので、聴きごたえがある。

 

大野和士都響は3年前の新国立劇場《ニュルンベルクのマイスタージンガー》公演後の定期演奏会で素晴らしい演奏を聴かせた。

強烈!大野和士 都響 阪田知樹 ラフマニノフP協奏曲第3番、ショスタコーヴィチ交響曲第5番 | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

そこにも書いたが、オペラ公演後の演奏が充実する理由は、長期に渡り指揮者とオーケストラが一緒に過ごすことで、お互いのコミュニケーションが深まるためではないだろうか。

 

今日のブルックナーにも、同じように両者の緊密さが感じられた。

特に第3楽章スケルツォと第4楽章は、金管が力強く爽快に鳴り切り、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと16型の弦も艶やかでしなやか。強靭で磨き抜かれた美しさがあった。

 

第2楽章アダージョもヴィオラによる第2主題、第1ヴァイオリンによる第1主題の再現からコーダに至る対位法的な展開が特に磨き抜かれた音で素晴らしかった。

 

一方で、fffの金管の強奏が強すぎて、いわばメーターの針が振り切れた状態になり、さらに強いクライマックスが出現するさいに、それ以上到達しない印象もあった。

また第2楽章のヴィオラの第2主題の最初の登場はあっさりとしており、もう少し深みをもたせられたらとか。全体的にも、ブルックナーの深淵さはもっと繊細で奥行きがないと出せないのではと思いながら聴いていた。

 

とは言え、今日の大野都響の演奏は有無を言わせぬ迫力があり、説き伏せられ、押し切られてしまった。

 

コンサートマスターは矢部達哉。弦は最後のプルトまでよく弾いていた。ホルンのゲスト首席に東京シティ・フィルの谷あかねが入っており、大活躍だった。