ピエール・ブリューズ 東京交響楽団 MINAMI(吉田南) 名曲全集(第195回)@ミューザ川崎 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


(3月2日・ミューザ川崎シンフォニーホール)

ミューザ川崎へ来たのは今年初めて。東京交響楽団が新国立劇場の《エウゲニー・オネーギン》でピットに入るなど、ミューザでの公演が少なかったためだと思う。ホール関係者のみなさんに「本年もよろしくお願いいたします」と3ヶ月遅れで年頭のあいさつを交わした。

 

アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督に2023/24シーズンから就任するピエール・ブリューズは明解極まる指揮で素晴らしかった。多分東響初登場。

 

プログラム全体の構成と演奏も最後に向かって徐々に白熱していき、流れも良かった。

ドビュッシー/ビュッセル編:小組曲は、これぞフランス音楽と言うべき鮮やかな色彩と、軽やかで繊細な表情があった。第1曲「小舟にて」のフルートソロが清涼。第3曲「メヌエット」の弦が繊細。

 

サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 op.61

MINAMI(吉田南)のソロは最初のうち楽器の鳴りが弱いように感じたが、終楽章に向かって鳴りが良くなった。曲想に合わせて表情の変化をもっとはっきりと打ち出しても良かったのでは。

ブリューズの指揮はメリハリがあり、踏み込みも深く、その上MINAMIとのバランスにも細かく配慮していた。

 

MINAMIのアンコールは、クライスラー「レチタティーヴォとスケルツォ・カプリスOp.6」
1911年に作曲、親友のウジェーヌ・イザイに献呈した作品。

厳粛に始まるレチタティーヴォの重音も正確、突然スケルツォに入り、弓を弾ませつつ重音や技巧的高音を高速で弾き、最後はピッツィカートで締めた。
ボウイングを含め、技術的な細部を今少し詰められたら余裕が生まれ、更にヴィルトゥオーゾ的な演奏になると思う。

 

 

後半はサン=サーンス:交響曲 第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付き」

オルガンは大木麻理

ブリューズの指揮は緻密で明晰。リハーサルでしっかりと仕上げてあることを感じさせる。明晰さという点では、色彩感や音色は異なるが、カーチュン・ウォンの指揮に重なるところがある。

 

第1楽章第1部分、序奏アダージョのヴァイオリンとヴィオラが繊細。続くオーボエのソロにも細かく指示を与える。第1主題の各動機が切れ良く展開される。イングリッシュ・ホルンのソロも明確な表情がある。提示部のクライマックスの金管が引き締まり、明るく突き抜けて鳴り響く。

 

第1楽章第2部ポーコ・アダージョでは、オルガンの低音に乗せ、弦がユニゾンで奏でる主題が良く揃う。続くヴァイオリンの変奏が実に繊細で、対位旋律を奏でる他の弦やオルガンも美しい。

 

第2楽章冒頭のアレグロモデラートの弦の主題の切込みが鋭い。プレストもピアノがくっきりと鳴らされる。揺れるような弦による別の主題も流れ良く進めていく。アレグロモデラートの再現の後、再びプレストの再現となるが、今度はトロンボーンとバストロンボーンが雄大な主題で加わっていく。弦のカノンが美しく展開され、オーボエのソロとともに静止する。

大木麻理がここでオルガンを強奏するが、音が大きすぎずバランスがいい。ピアノ連弾による分散和音にのせてコラール風主題が弦でこれもまた美しく奏される。荘重な主題に続き、オルガンと金管の輝かしいファンファーレで盛り上がる。

 

アレグロに入り、フガート風に進むと今度はコラール主題が木管に出て、もう一度盛り上がり、コラール主題で落ち着くが、再び荘重な主題と他の循環主題が加わり、バステューバ、オルガン、金管、打楽器が加わり壮大なコーダに突入。ティンパニの強打と共に豪快に決めた。

 

ブリューズの指揮は私が好きなタイプ。隅々まで明解で作品の構造が透けて見えるよう。その上に繊細さや色彩感があり、旋律の歌わせ方も自然。楽員をひとつにまとめ上げる手腕も確かだ。ぜひ東京交響楽団との再演を望みたい。