1994年、名古屋の中心部に開場したクラシック専用ホール「三井住友海上しらかわホール」(約700名収容)が、経営状況や維持管理費の問題のため30年という歴史に幕を下ろし、2月29日で閉館となった。
「音楽の友」5月号掲載予定の記事のため名古屋に行き、その最後の2日間のコンサートを取材した。28日は山下一史指揮愛知室内オーケストラ。29日は阪田知樹のピアノ・リサイタル。
音響が良いと評判のホールだがこれまで行く機会がなく、しらかわホール最後の2日間に間に合った。最高級の木材を使った床と壁が生む豊かな音響と、大理石のエントランスをはじめ、たっぷりとした空間と贅沢なインテリアが素晴らしかった。このホールが閉館になってしまうのはアーティストにとってもオーケストラにとっても、なによりも聴衆にとってどれほどの痛手だろうか。
詳しくは「音楽の友」にレポートするのでここにはあまり書けないが、愛知室内オーケストラは以下の意欲的なプログラムで渾身の演奏を聴かせた。
権代敦彦/時と永遠を結ぶ絃 ~ヴァイオリンとオーケストラのための~ [ACO委嘱作品、世界初演] 辻󠄀彩奈(ヴァイオリン)
モーツァルト/交響曲第40番 ト短調 K. 550
モーツァルト/交響曲第41番 ハ長調 K. 551「ジュピター」
29日の阪田知樹は2022年、2023年に続く3回にわたるピアノリサイタルシリーズの最終回。
プログラム~vol.3 連作集―新たな世界~
ベリオ:水のクラヴィーア(1965)
ショパン:24の前奏曲 Op.28
シューマン:クライスレリアーナ Op.16
バルトーク:戸外にて Sz.81/BB89
プログラム冊子には『音の響き、建物に入った時の素敵な雰囲気、そのどちらも面でも素晴らしいしらかわホールが閉館してしまうことは、とても寂しいです。今夜の響きを胸に刻みたい』という趣旨の阪田本人のメッセージが掲載されていた。
その言葉通り、演奏には尋常ならざる気迫と集中力が込められた。
演奏の印象を一言で言えば、ベリオ、ショパン、シューマン、バルトークという4人の作曲家の傑作が阪田知樹の深い洞察と鋭い感性、緻密な譜読みにより、共鳴する音楽として見事に関連付けられ、ひとつの大きな世界が生まれた、というもの。
主催が地元のテレビ局中部日本放送ということもあり、演奏は録画された。
その一部が配信されると言う。
『しらかわホール最後のコンサートを立体音響(バイノーラル)で配信決定!
閉館した三井住友海上しらかわホールの最後のコンサート(阪田知樹ピアノリサイタル)の一部を3/18(月)19時予定で本ページから配信いたします。
配信は、会場にいるかのような臨場感を味わえる立体音響(バイノーラル)でお送りします。イヤホン・ヘッドフォンを用意してお楽しみ下さい!』
CBCイベント・映画情報 | CBCテレビ (hicbc.com)
この日は同時刻にコンサートに行く予定があり見られないことは残念だが、阪田知樹の演奏はしっかりと耳と胸に刻まれた。