大友直人  都響 上野耕平(サクソフォン) 福本茉莉(オルガン) (12月2日サントリーホール) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


サン=サーンス:交響詩《オンファールの糸車》op.31

都響の第1ヴァイオリン群が最後の繊細な高音をしっかりとした音程で弾いた。コンサートマスターは山本友重大友直人の指揮は総奏の強奏で音が団子になるところが少し気になった。

 

デュビュニョン:アルトサクソフォン協奏曲 op.89《英雄的》(2021)[上野耕平委嘱作品/世界初演]

リシャール・デュビュニョンは1968年、スイス、ローザンヌ生まれ。ローザンヌは地理的にフランスに近くフランス語が第一言語となっている。上野耕平はデュビュニョンの2台ピアノと2つのオーケストラのための《バトルフィールド協奏曲》を聴いて、彼にアルトサクソフォン協奏曲を委嘱したいと考えたという。

こんな曲だ。今回のアルトサクソフォン協奏曲の作風とも共通項がある。


Richard Dubugnon - Battlefield Concerto (UK Première) - YouTube

 

上野耕平は2018年6月にデュビュニョンの自宅を訪ね、音出しをしながらアルトサクソフォンについて詳しく説明したという。コロナ禍が作曲にも影響したが、デュビュニョンは最高に英雄的な作品をアルトサクソフォンのために書こうと努めたという。

 

アルトサクソフォン協奏曲《英雄的》の演奏時間は23分ほど。急緩急の3楽章からなり、冒頭のドラマティックな第1主題が循環主題として全楽章に出る。アルトサクソフォンは、ほぼ休む間もなく吹き続ける。技巧的なカデンツァや装飾音、無窮動的動機、最高音、スラップタンギング(舌をリードに密着させて 真空状態をつくってから離すことでリードがしなり、反動で戻った時に出る「ポンッ」という打楽器のような鋭い打音)など、技巧的なパッセージや奏法が多数登場する。
 

アルトサクソフォンのヴィルトゥオーゾ、上野にとっては挑戦のしがいのある作品であり、今日の世界初演に向け、準備も万端だったのだろう。緩急自在に吹き分け、カデンツァも完璧。

大友直人都響も上野と一体となる見事な演奏で盛り上げた。

 

第3楽章のビッグバンド・ジャズ的な乗りのよい部分はアルトサクソフォンにぴったり。チェロやコントラバスのピッツィカートがジャズの雰囲気を醸す。
 

デュビュニョンの作品は難解ではなく、スリリングな急速個所や抒情的でメロディアスな緩徐部分など、初めて聴いてもすぐに中に入っていけた。

 

最後にアルトサクソフォンとオーケストラが大きな山場をつくって終わると、客席は大いに沸いた。

デュビュニョンも舞台に上がり、上野と抱擁。上野、デュビュニョン、指揮の大友は聴衆の熱い拍手に幾度となく舞台に呼び戻された。

 

サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78《オルガン付》

大友直人の指揮する《オルガン付》は、2020年コロナ禍の中、ミューザ川崎シンフォニーホールでの東京交響楽団を指揮した無観客ライブでも聴いた。それも立派な演奏で、大友にとって得意のレパートリーのひとつだと思われる。

 

今回は大友が16型の都響のパワーをとことん引き出した演奏だった。都響の強力な弦の厚みは圧倒的なものがあった。

木管はフルートの柳原佑介の潤いと色彩感のある音が印象に残った。金管はトランペットの若手、伊藤駿が素晴らしかった。

オルガンの福本茉莉も第2楽章後半の開始を告げるマエストーソの大音響などサントリーホールのオルガンを重厚に鳴らした。

アレグロのコーダでは、オルガンの強奏とティンパニの強打も加わり、文字通り壮大なクライマックスを築いた。

 

最初の曲でも感じたが、大友直人の指揮でひとつだけ気になる点は、強奏で音が濁り、団子状態となることだ。
客演指揮者の大友には、リハーサル時間も限られ、過大な要求かもしれないが、各セクションのバランスがとれ分離がすっきりとしたら、楽器ごとに響きが鮮明に伝わり、さらに色彩的で洗練された演奏になったのではないだろうか。


写真©都響