(10月13日・サントリーホール)
カーチュン・ウォンの日本フィル首席指揮者就任披露演奏会。
今日の演奏、特に第6楽章は世界レベルと言っても過言ではなく、ウォンと日本フィルの演奏もこれまで聴いた中では最も高い段階に到達していた。
マーラー「交響曲第3番」はウォンが2016年グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝した際の課題曲であり、最も愛する曲のひとつでもある。
作品についてウォンは『6つの楽章で構成され、第1楽章は世界の創生、第2楽章は木や花の音楽、第3楽章が動物、第4楽章は人間、第5楽章が天使、第6楽章は愛。人間のステージをすべて上書きするような形で音楽が膨らんでゆくところがとても好きです』と説明する。
その第1楽章では、展開部のトロンボーン首席伊藤雄太?が素晴らしかった。またホルン首席の信末碩才も完璧で大活躍。冒頭の9本のホルン(8本+アシスト)を統率するとともに、ソロをことごとく見事に決めていった。
第2楽章は花が語るように優しくのびのびと進む。きれいなお花畑で遊ぶよう。
ウォンが「動物」と言う第3楽章は愛らしい。ポストホルンはトランペット首席のオッタビアーノ・クリストーフォリが2階LA後ろのドアの奥で吹いた。
これも完璧を絵でかいたように鮮やかなソロ。実演で聴いた中ではトップの演奏だと思う。
オットー(愛称)にインタビューしたさい、第3楽章ではトランペットのC管、ロータリーのフリューゲルホルン、本物のポストホルンの3種を使ったことがあると語った。
カーテンコールでオットーがステージに登場した際持っていた楽器は、ロータリー式のトランペットのように見えた。
ウォンが「人間」という第4楽章。メゾ・ソプラノの山下牧子はチェロセクションの後ろで歌った。深々としているが、藤村実穂子の存在感のある歌唱がいまだに耳に残り自分の基準になっており、欲を言えばもうひとつ掘り下げがほしかった。
天使の第5楽章は、24名の東京少年少女合唱隊と、22名の女声合唱、harmonia ensembleが歌った。harmonia ensembleは2009年結成のプロフェッショナルな室内合唱団とのこと。
世界レベルと冒頭に書いた第6楽章。
冒頭の第1主題はポジティブに明るく始めたが、練習番号9「安らぎに満ちて」から音楽はどんどん深くなっていった。練習番号11からのフルートをはじめとする木管からもより高い世界に向かっていった。
例としてyoutube↓で聴いてみてください。
https://youtu.be/pRhQhUtOpPI?si=H1caK4atQcZsv7fI
主要主題が三回目に出る練習番号21から先は、この夜最も高い到達点となった。ウォンは第6楽章を「愛」と呼んだが、それは「神」と同義語ではないかと思われるような、すべてを超越した世界が出現した。
例としてyoutube↓で聴いてみてください。
https://youtu.be/pRhQhUtOpPI?si=s9eLeHxLol9BV-kc
さらに静かになってから、「ゆっくりと」と指示された練習番号25のフルートとピッコロのソロも神聖な領域に聴き手を導いていった。
youtube↓
https://youtu.be/pRhQhUtOpPI?si=2YevkRJuyPfwpDRA
コラールのように主要主題が奏でられ高揚していくコーダでは、練習番号30から5小節目のシンバルは、なんと7人の奏者により壮大に打ち鳴らされた!前代未聞。(6人と言う方も多いのですが、現場で数えたら7人でした)
ウォンのアイデアだろうか。スコアにはfrei(自由に)と書かれており、自由に増員しても良いとウォンは解釈したのかもしれない。
youtube↓
https://youtu.be/pRhQhUtOpPI?si=c6wu2DgYpFmHdyvc
二組のティンパニが最後を締め、最後の音を長く延ばしてカーチュン・ウォンと日本フィルの壮大な旅が終わった。
首席指揮者就任披露という記念すべきコンサートにふさわしい、記憶に残る演奏だった。