シャルル・デュトワ 新日本フィル(6月24日・すみだトリフォニーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

4日間にわたる徹底的なリハーサルで新日本フィルを鍛え上げたというデュトワ。

しかし、前半は新日本フィルが、少し硬くなっていたように思えた。

新日本フィルは16型という最大編成。コンサートマスターは崔(チェ)文洙。前半はトップサイドにコンサートマスター伝田正秀が、コンサートマスター西江辰郎が2プルト表(裏はアシスタント・コンサートマスター立上舞)にそれぞれ座った。後半はトップサイドに西江が、伝田、立上は2プルト目と総動員体制。

 

 

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

フルートは、単色でややふくらみが足りない。デュトワが指示する弱音や動きのあるパッセージに懸命に応えようとする姿勢は出ていた。2台のハープはフランス的な華やかで色彩のある音。第2ヴァイオリンの弱音も繊細。これはという手ごたえのないまま終わる。拍手もそれほど盛り上がらず。

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』組曲(1919年版)

「序奏」「火の鳥とその踊り」「王女たちのロンド」までは、まだ調子が出ていない印象。デュトワは弱音にこだわりを見せ、弦やホルンの弱奏は集中力があった。

「カスチュイ王の魔の踊り」の最強奏は切れ味があり、ここからようやく演奏にエンジンがかかる。「子守歌」で沈静するが、ホルンのソロから「終曲」に入り、最後は金管の華やかな斉奏で壮大なクライマックスをつくった。ただ、ここも16型の割には厚みがいまひとつ。

 

しかし、後半のベルリオーズ:幻想交響曲 op. 14 はさすがに聴かせた。音の厚みの点でやや弱く感じる面もあったが、これだけの《幻想交響曲》はなかなか聴くことはできない。

第1楽章 夢・情熱 は序奏の弱奏、繊細さに唸る。躁と鬱の揺れ動く振幅も大きい。弦とフルートによる固定楽想の繊細な質感も素晴らしかった。提示部の繰り返しも行った。

 

第2楽章 舞踏会はやや速めのテンポ。デュトワの3拍子の伸縮の自然さ。コーダの渦巻きのような速い部分も鮮やか。

 

第3楽章 野の風景 オーボエとイングリッシュ・ホルンの対話はまずまず。この楽章はじっくりと進めた。

 

第4楽章 断頭台への行進 テンポは遅めで、重心が低い。ティンパニの打音と低弦が凄まじい。金管は堂々としている。断頭台の処刑の場面の最後は短くずばっと切った。

 

第5楽章 魔女の夜会の夢

この楽章は凄みがあった。新日本フィルの集中力も全開。Esクラリネットは健闘。鐘は下手袖で叩かれたが、響きが良い。「怒りの日」のテューバも骨太。コントラバス、チェロの刻みも強烈。最大のクライマックス「魔女のロンド」が凄まじい。亡霊たちの夜会の嬌声が飛び交う狂乱のエンディングは、ホールの天井を突き破らんばかりに上昇して行った。

 

デュトワはカーテンコールにコンサートマスターの崔文洙を伴い、彼を指揮台に登らせ最大限の賛辞を送っていた。