(9月10日・東京芸術劇場)
ベートーヴェン 「ロマンス 第2番 ヘ長調 作品50」
デュメイの美しい音は健在。オーケストラに向いて指揮を始めるとオケの音が深くなった。
モーツァルト 「ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調K.216」
モーツアルトは文句なしの名演。心地よい音で満たされる。カデンツァも流麗。デュメイの指揮も良く、オーケストラと一体感があった。デュメイが指揮するとモーツァルトがいかにもモーツァルトらしく、優雅に軽やかに聞こえる。日本の指揮者では、なぜかこうした軽やかさ、優雅さ、ヨーロッパ的なものが出てこない。文化の違い、言語の違いなのだろうか。
デュメイのボウイングは見ていても美しい。肘を下げて弾く姿勢はクレーメルに似ている。
ベートーヴェン 「交響曲第7番 イ長調 作品92」
2011年から関西フィルの音楽監督を任されているデュメイの指揮を聴くのはこれが初めて。指揮者としても、優れた才能があることに気づかされた。
指揮棒をもたず、高い身長もあるのか、指揮台も使わない。パシフィックフィルハーモニア東京は12型だが、コントラバスは6台(12-10-8-6-6)。低音が充実していた。
冒頭の和音は下から上へ跳ね上げるような両手の動きにより、豊かな残響を伴って鳴り響く。
第1楽章からパシフィックフィルハーモニア東京のバランスの良い響きに瞠目した。指揮者によってオーケストラが輝く好例を見る思いがした。
フルート首席、荒川洋が主題を華やかに奏し、推進力のある演奏が始まった。提示部の繰り返しはなし。
再現部の主題を吹くオーボエが艶やかでとても良い。
直近で見たNHKのEテレ番組『ロッチと子羊』にオーボエ首席、石井智章(いしい ともあき)が出演、公演後興奮して眠れない悩みを山口大学の小川仁志教授が哲学の力で解決していた。解決方法は「逃げること」。具体的には関係のない言葉をしりとりのようにつなげていくゲームをお笑いコンビと楽しみ、そのことを後で思い出す、という単純なもの。
それが功を奏したのか、今日の石井の演奏はまろやかで、デュメイがモーツァルトとベートーヴェンで立たせていた。
ちなみに、石井は「第37回日本管打楽器コンクール オーボエ部門 本選」で見事2位を受賞している。
第2楽章はとても見通しが良い。
ヴィオラとチェロの音が充実している。中間部のバランスも良く、チェロ、コントラバスが豊かに響く。
後半は弱音の表情が良く、フーガも楽曲の構造が良く分かる。
コーダでの中間部の再現も同様に、呼吸が楽になるような自然な音楽の流れがあった。
第3楽章スケルツォは、アクセントを前に置き、リズムを明確につくる。スケルツォの繰り返しはなく、すぐトリオに入る。フレーズが明快でだれない。トリオの頂点も煽り過ぎない。
アタッカで入った第4楽章アレグロ・コン・ブリオはリズムが実に自然。一方でホルンに強奏を促すなど、ここぞという時の踏み込みにより、勢いがさらに増す。
展開部でも同様で、ホルンを強調、強弱の差を明解につける。
再現部に至る過程もなめらか。再現部ではオーケストラ全体を盛り上げていく。パシフィックフィルハーモニア東京はヴァイオリンの最後のプルトまで、全力で弾いていた。
長大なコーダでの低弦のバッソオスティナートも分厚く、まるで20代の若者のようにエネルギッシュに演奏を終えた。
デュメイの指揮は、音楽が自然に呼吸しており、ヨーロッパ音楽の本流を聴くような、安定感、信頼感がある。パシフィックフィルハーモニア東京にぜひまた登場してほしい。