カーチュン・ウォン 日本フィル 伊福部昭 マーラー「交響曲第4番」 | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(2022年5月27日・サントリーホール)

指揮:カーチュン・ウォン

ピアノ:務川慧悟*

ソプラノ:三宅理恵**

伊福部昭:ピアノと管絃楽のための《リトミカ・オスティナータ》*

マーラー:交響曲第4番ト長調**

 

来年9月からカーチュン・ウォンが日本フィルの首席指揮者になることが発表されてから最初のコンサート。

 

伊福部昭「ピアノと管絃楽のための《リトミカ・オスティナータ》」が素晴らしかった。
伊福部作品を日本の指揮者が振ると、泥臭いズンドコ調になりがちだが、ウォンはそうした土俗性をきれいに拭い去り、洗練されたヨーロッパ音楽のように響かせる。5拍子と7拍子を胸のすくような切れのいいリズムで刻む。日本フィルのアンサンブルもウォンの明晰な指揮により、磨き抜かれた音に変身した。

務川慧悟の切れの良いダイナミックなピアノも素晴らしく、リズムも完璧、ウォン日本フィルとピタリと合っていた。
ミニマル・ミュージックのようだったと知人の音楽評論家の方が言っていたが、エネルギーの熱量の膨大さは、ミニマル・ミュージックとは異なるように思う。


務川慧悟のアンコールは、J. S. バッハ:フランス組曲第5番より第1曲「アルマンド」。装飾音が美しく、自由な動きや表情も感じられる新鮮な演奏。

 

ウォンは伊福部の他、早坂文雄、芥川也寸志、細川俊夫、そしてもちろん武満徹など日本人作曲家とその作品に多大な関心を寄せている。

ウォンは作曲も行うが、シンガポール生まれのアジア人として西洋音楽と向かい合う時、先達の日本人作曲家たちが西洋音楽を身に着けてきた過程や方法に興味を持ったとのこと。彼らの作品を研究し指揮することで、同じアジア人として共感する点や得るものもあるのだろう。

 

後半は、マーラー「交響曲第4番」。12月に聴いた第5番は少し辛口のレヴューを書いた。演奏のスタイルは今回も同様だったが、前回はウォンの長所をもっと評価すべきだった。
カーチュン・ウォン 日本フィル マーラー交響曲第5番(12月11日サントリーホール) | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

なによりも日本フィルの音がふだんとは完全に変わってしまうくらい、美しく磨き抜かれていることが素晴らしい。音は全く異なるが、オーケストラの変貌ぶりはアレクサンドル・ラザレフと同等のインパクトがある。

 

響きの明晰さが驚異的で、マーラーの緻密なスコアと細部の指示をウォンはいともやすやすと実現していくように見える。響きの混濁が皆無といっていいくらい透明感がある。

 

今日は日本フィルにアンサンブルの乱れがあったが(冒頭のフルートの合奏や、別の楽章でのホルンのアンサンブルなど)、土曜日の公演は改善されたのではないだろうか。ホルンの信末碩才(のぶすえせきとし)が、目覚ましい演奏で光っていた。

 

第4楽章「天上の生活」のソプラノは三宅理恵。声はやや細いが、高い音は美しい。ドイツ語発音のメリハリがなく、ドイツ語らしく聞こえないことが残念。

 

 

カーチュン・ウォンの指揮するコンサートは、2023年まで待たなければならない。

 

1月14日(土)埼玉会館、15日(日)サントリーホール

ロドリーゴ「アランフェス協奏曲」(ギター:村治佳織)、ベートーヴェン「交響曲第3番《英雄》」

 

1月20日(金)、21日(土)サントリーホール

伊福部昭「シンフォニア・タプカーラ」、バルトーク「管弦楽のための協奏曲」

 

1月28日(土)横浜みなとみらい 大ホール、29日(日)東京芸術劇場

ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」(ピアノ:小菅優)、「交響曲第2番」

 

5月12日(金)、13日(土)サントリーホール

ミャスコフスキー「交響曲第21番《交響幻想曲》」、芥川也寸志「チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート」(チェロ:佐藤晴真)、ヤナーチェク「シンフォニエッタ」