久しぶりに目が覚めるような第九を聴いた。シモーネ・ヤングが来日できなかったことは残念だが、代役で登場した鈴木秀美の指揮は、それを補って余りあるものがあった。
ノン・ヴィブラートで、フレーズは短め、切れ味鋭く奏するスタイルだが、チェロとコントラバスの低弦の響きはクリアながら豊か。各楽器の混濁がないため、透明な響きで内声部もよく聞こえる。テンポは全体的に速め。演奏時間は曲間を入れて64分ほど。全てのフレーズやアーティキュレーションが新鮮であり、聞き慣れた《第九》が新しい表情でよみがえった。
新日本フィルは12型対向配置。
この作品は人類皆兄弟という肯定的なメッセージとして受け止められることが多く、重厚壮大な演奏が多い。しかし、鈴木&新日本フィルはピリオド奏法の透明感と清らかな表情があり、教会音楽のように感じられ、時にベートーヴェンの独白のようにも聞こえた。
ただアダージョ・モルト・エ・カンタービレの第3楽章は、テンポが速く粘らないため、意外にあっさりとしていた。
全体に静謐な印象があったが、バロック・ティンパニは激しく打ち付けられ、レクイエムの「怒りの日」のように強烈なインパクトがあった。
4人のソリスト(ソプラノ:森谷真理、アルト:中島郁子、テノール:福井敬、バリトン:萩原潤)はベストなメンバーであり、鈴木の指示のためか、4人ともヴィブラートが少ない透明感ある歌唱で、最後の四重唱のバランスとハーモニーが非常に美しかった。
32人の二期会合唱団はP席で歌ったため、クライマックスでも管弦楽との混濁が少ない。それぞれがソリスト的な実力のある合唱は充分な迫力があり、発音も明解。合唱指揮はキハラ良尚。
前半に序曲「レオノーレ」第3番が演奏されたが、これも《第九》同様切れのある緊張感あふれる演奏だった。