ジョン・アクセルロッド 都響 南紫音 チャイコフスキーV協奏曲、ストラヴィンスキー《火の鳥》 | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(12月15日・東京文化会館)
南紫音のチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」は、確かな技術に裏付けされた端正な演奏。品格があり、キリッとした音が美しく印象的だ。
ヨーロッパ(ドイツ、ハノーファー在住)を拠点に活躍していることを感じさせる正統的な演奏だった。
オーケストラの強奏でも音が前に突き抜けてくるのは、経験を積み重ねていることを思わせる。アクセルロッドの南を引き立てるバランスの良い指揮も助けになっていただろう。

ハッタリで聴かせるタイプではないため、華やかさはやや控えめ。この先さらに磨き抜かれ、洗練されていけば、外面の派手さではなく、本物の音楽家として、さらなる高みにむかうのではないだろうか。

 

南のアンコールは、パガニーニ「24のカプリース」から第13番。完璧なテクニックだった。

 

後半のストラヴィンスキー「《火の鳥》全曲(1910年版)」は、アクセルロッドの実力が分かる名演。関西の友人達からアクセルロッドと京響の名演の話をよく聞かされていたが、初めて聴くことができた。

指揮は的確で分かりやすく、無駄がない。「火の鳥」の場面ごとの描き方が丁寧で、バレエの場面が浮かぶようだ。色彩感、軽やかさ、ここぞという時の芯のある分厚い響きまで、多彩な表現力があり、16型の大編成の都響の実力を充分に引き出した。

 

「イントロダクション」の低弦が分厚い。「火の鳥の嘆願」が聴きごたえがあった。オーボエ(広田智之)の艶のある美音、フルート(柳原佑介)の吹く東洋的な旋律も色彩的で美しい。オーボエは「王女たちのロンド」でも好調。

 

「不死の魔王カスチュイの登場」の低音弦楽とファゴットなどによる地の底から響くような不気味な音の表情も豊か。

 

「カスチュイ一党の凶悪な踊り」は期待通りの迫力。アクセルロッドはバランスが良い指揮で、切れ味と弾力性のある、余裕がある響きをつくる。目一杯派手に鳴らすだけの指揮者とは一線を画す。

「火の鳥の子守歌」のファゴット(岡本正之?)が素晴らしい。

「カスチュイの魔法の消滅 石にされていた騎士たちの復活そして大団円」は壮大だった。

 

アクセルロッドは演奏後楽員たちへの感謝の気持ちを率直に示す。近づいて行き、一人一人立たせていく。にこやかな表情は、いかにも人柄が良さそうだ。指揮のわかりやすさとともに、オーケストラから好かれる指揮者だろう。

今月は読響の《第九》にも登場する。どのようなベートーヴェンとなるのか楽しみだ。