大植英次 NHK交響楽団 阪田知樹(ピアノ) グリーグ、ショスタコーヴィチ、シベリウス | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


4月22日(木)18時・サントリーホール

指揮=大植英次

ピアノ=阪田知樹

トランペット=長谷川智之

 

グリーグが自作の歌曲を弦楽合奏に編曲した「2つの悲しい旋律」「胸の痛手」「春」は、低弦に厚みがあり、重厚な響き。辻本玲を首席とするチェロ群が艶のある音で引き立つ。

大植英次の指揮で聴くと、グリーグの感傷的な面よりも、男性的な厳しさが前面に出てくる。

 

ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲 1 ハ短調 作品35

ソリストの阪田知樹は2016年のフランツ・リスト国際ピアノ・コンクールで第1位。昨年のフェスタ・サマーミューザで阪田が弾いたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」は、音色のパレットが多く、潤いと艶のある名演だった。

 

今夜のショスタコーヴィチでは、阪田の瑞々しく繊細な音に瞠目した。作曲当時27歳だったショスタコーヴィチの繊細な感性が伝わってくる。大植英次&N響も細やかなバックをつける。テンポが速くなり、トランペットのN響首席の長谷川智之が張りのある明るい響きで入る。阪田のピアノは躍動感と安定したテクニックで進んだ。

 

第2楽章レント冒頭のN響の弦の美音に魅了される。コンサートマスターは伊藤亮太郎。

中間部のラルゴでのffffでピアノが強奏する頂点は、もう少し阪田にパワーが欲しいと思った。物憂いトランペットとピアノ、チェロとピアノの対話は美しい。

 

第3楽章モデラートを経て、第4楽章のロンドはトランペット、弦楽、ピアノの華麗な共演で盛り上がった。プレストの頂点は阪田の華麗なテクニックが全開、スリリングな展開となる。長谷川の長いトランペット・ソロは見事。

カデンツァでは、阪田の切れのいいピアノが冴える。ピアノ、トランペット、オーケストラが一気に雪崩込むコーダの盛り上がりは爽快だった。

 

私の座席は1階センターやや上手だったが、オーケストラやトランペットが強奏すると、阪田のピアノが埋もれてしまう場面があった。サントリーホールは二階のほうがピアノの音が届きやすいと思うので、そこで聴けば印象が異なったかもしれない。

 

アンコールは、ラフマニノフ(阪田知樹 編曲):歌曲集『12の歌』 Op. 21 第7曲 「なんとすばらしい所」

阪田の編曲は、アール・ワイルド版よりも落ち着いて簡素で、イサーク・ミノフスキの編曲に近い気がした。

 

シベリウス:交響曲 2 ニ長調 作品43

大植英次がN響を指揮するのは22年ぶりという。大植は相当な気合が入っているように見えた。N響は12-10-8-6-4の12型だが、大植の気合に触発され重厚で輝かしい響きの、熱い演奏で応えた。

 

第1楽章は遅めのテンポ。ヴァイオリンによる副主題はたっぷりと歌わせる。展開部のオーボエソロ(吉村結実)は美しい。クライマックスは弦を覆うばかりに金管を輝かしく吹奏させた。

 

大植はアタッカで第2楽章に休まず進む。この楽章は粘っこく、終始緊張感を保った。コントラバスとチェロのピッツィカートは重々しい。低弦を強調、木管金管の応答も激しい。

トランペットのソロを吹くのは、前半のショスタコーヴィチで名演を聴かせた長谷川智之。テューバの低音が響くクライマックスへのクレシェンド、続く金管の強奏も激しかった。緊迫するコーダの金管と最後のピッツィカートに気合が漲る。これほど激烈なシベリウスを聴くのは久しぶり。

第3楽章に入る前の休止にほっとする。荒々しいスケルツォの第3楽章。激しい表情が続くが、レント・エスプレッシーヴォでの吉村結実のオーボエの温かみのある音に癒された。

クレッシェンドしながら第4楽章に入っていく。低弦とテューバはここでも強調される。

再現部のクライマックスでは金管が咆哮、弦をたっぷりと弾かせる。ティンパニの植松透は大植の指揮を凝視しながら、ティンパニを叩き続けた。

 

コーダでは、大植はコントラバスの方を向き、強烈に弾かせた。弦の渾身のトレモロの上に全金管が強烈にかぶさり、巨大な響きで終えた。音が消えてからも、大植の高く上がった両手は止まって固まったまま。緊張をほぐしながら指揮棒を下ろすまでの時間は長かった。

 

今夜のサントリーホールは寂しい客席だったが、オーケストラが舞台から去った後も、ほとんどの聴衆が残って拍手を続け、大植のソロ・カーテンコールとなった。

 

写真は21日公演。©NHK交響楽団