フェスタサマーミューザKAWASAKI2020 東京交響楽団フィナーレコンサート 原田慶太楼  | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(8月10日・ミューザ川崎シンフォニーホール)
原田慶太楼のアラビアンナイト(千夜一夜物語)と題されたフェスタサマーミューザKAWASAKI2020フィナーレコンサート。

東京交響楽団は14型対向配置。久しぶりに聴くフル編成。
ショスタコーヴィッチ「祝典序曲」は、凄い勢いとスピード感があった。クライマックスではオルガン前にホルン4,トランペット3、トロンボーン3のバンダも登場し、輝かしいブラスの響きが会場に響き渡った。
原田は力が入りすぎたのか、タクトが宙を切るような印象もあった。少し重心をさげ、タメを作り爆発させても良かったように思う。

 

景山梨乃をソリストとするグリエールの「ハープ協奏曲変ホ長調」は、景山のハープに可憐で清楚な表情があり、作品の抒情性が良く出ていた。第1楽章のカデンツァは景山の長所が発揮され、細やかな音がつむがれていった。

この曲は華やかでもあるので、ハープの響きにもう少し派手できらびやかな輝きや豪華さがあっても良いように思えた。原田&東響は景山の音楽に合わせたきめの細かいバックをつけていた。
アンコールは、ルニエ「いたずら小鬼の踊り」。景山にぴったりの可愛らしい小品だった。

リムスキー=コルサコフ「交響組曲《シェエラザード》」は、原田と東響の若いエネルギーが爆発したパワフルで切れ味が抜群の、細部まで良くコントロールされた快演。ブラスが冒頭のシャーリアール王の主題をロシア的な極彩色がある重厚な音で吹奏する。


切れの良いヴァイオリンやヴィオラをはじめ、生き生きとした名人芸を聴かせる楽員個々の演奏が素晴らしい。何よりもコンサートマスター水谷晃のソロがキリリとしたシェエラザードを思わせ、光り輝いていた。
木管(オーボエの荒木奏美が出色)も全員が積極的なソロを披露、チェロ首席の伊藤文嗣のソロも木の香りが感じられた。金管もホルン、トランペット、トロンボーン、テューバが安定した演奏を聴かせた。
景山梨乃は、前半のソリストだけではなく、この曲でも参加し、要所を締めるハープを聴かせてくれた。

 

全楽章アタッカで突き進んだが、原田の指揮で聴く《シェエラザード》は、まるでストラヴィンスキーの《春の祭典》のようにエキサイティングで切れがあり、爆発するパワーがある。ロシアの大地のエネルギーと現代のテクノロジーが合体したような野性味と精密さを兼ね備えた演奏だった。

プログラムのメッセージに原田はロシア音楽とのかかわりについて語っているが、高校時代にyoutubeで見たゲルギエフ、テミルカーノフ、ビシュコフのつくるロシア的な音に魅せられ、サンクトペテルブルクまで勉強に行き、ウラディーミル・ポンキンに師事、彼の後押しもあり、モスクワ交響楽団でのデビューにつながったという。
来年4月から東京交響楽団の正指揮者に就任する原田。詳しい方の話では、ショスタコーヴィチとプロコフィエフを定期的にとりあげるとのこと。これは本当に楽しみだ。

 

原田はソロカーテンコールに登場したさい、水谷と景山も呼び、スタンディンクオベイションを受けていた。

今日は、7月23日から3週間にわたって開催されたフェスタサマーミューザの最後を飾るにふさわしい、華やかでさわやかなフィナーレコンサートだった。


原田がプレトークで語ったように、コロナ禍の中、世界中でこれだけの数のコンサートが開かれている国は日本だけであり、この祭典を実現した関係者のみなさん、ドアノブの頻繁な消毒まで行うスタッフの献身的な努力に改めて深く感謝いたします。大変お疲れ様でした。来年はフルスケールで開催できますよう祈っております。