日本フィル初登場! アレクサンダー・リープライヒ(3月15日、サントリーホール) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

 

ドイツ、レーゲンスブルク生まれ。ポーランド国立放送交響楽団とプラハ放送交響楽団の首席指揮者兼芸術監督というアレクサンダー・リープライヒ。サヴァリッシュが立ち上げた「リヒャルト・シュトラウス音楽祭」の第3代芸術監督も務める。日本フィルへの登場は初めて。

 

 長身でスーツ姿。全身を使ったダイナミックでエネルギッシュな指揮。音楽は勢いがあり生き生きとしている。楽曲の構成感もしっかりとしており、フレーズ(音楽の流れのなかで自然に区切られるひとまとまり)やアーティキュレーション(音の切り方つなぎ方)は自然で滑らか、デュナーミクの幅も大きい。

 

 1曲目、ロッシーニ「歌劇《どろぼうかささぎ》序曲」はリープライヒの身体の内から音楽があふれ出すようで、その生き生きとした音楽は聴く者を浮き浮きさせる。日本フィルの音もがらりと変わり、ヨーロッパ的なまろやかで艶のある響きを創り出す。

 リープライヒはオーケストラ中心の指揮者のようで、歌劇場デビューの経歴はないようだが、オペラも指揮できそうな印象だった。

 

 2曲目はリープライヒが得意とするポーランドを代表する作曲家、ルトスワフスキの「交響曲第3番」。ベートーヴェンの「運命」の動機と同じ4音連打が頻出する。
 前半はその動機が出るたびにアレストリー技法(偶然性音楽の手法)による3種類のエピソードが続く。そうした組み合わせが3つほど前半で展開する。

 4音連打が単独で繰り返されて始まる後半は、旋律的なフレーズも登場、動的な動きに加え、哀愁を帯びた旋律が展開されていく。

 

 リープライヒの指揮は、全体像がしっかりとできており、弛緩するところは全くない。日本フィルもリープライヒの引き締まった指揮と一体となり充実した演奏が生まれた。

ただ、弦楽器と金管楽器がそれぞれ何小節も即興演奏するクライマックスは、もっと激しさがあってもよかったのでは。最後に4音連打で決める終結部ももうひとつ迫力が不足したように思えた。

 

後半はベートーヴェン「交響曲第8番」。この作品はメトロノームのリズムを模したといわれる第2楽章がよく話題にとりあげられ、ユーモアのある作品というイメージが先行しベートーヴェンの交響曲としては軽く見られがちだ。

 

この曲で納得できる演奏はめったに巡り合わないが、今日のリープライヒの指揮は本当に素晴らしかった。最初から最後まで、音楽は常に動きがあり、生命力に溢れている。ベートーヴェンのソナタ形式の完成度が最高度に発揮された作品の構造が鮮やかに描かれていく。

 

リープライヒの指揮棒からは、この交響曲がたった今生まれたような新鮮そのもののフレーズが次から次へ飛び出してくる。

その面白さたるや、腰が浮き上がるほど楽しいものがある。日本フィルの楽員も演奏しながら乗りに乗っていることが伝わってくる。自分もリープライヒの指揮のもと、一緒に演奏している気になる。楽器が演奏できたら、日本フィルの楽員と入れ替わりたいと思ったほどだ。

日本フィルの木管も素晴らしいし、第3楽章中間部のホルンの二重奏も最高だった。

リープライヒ指揮で、ベートーヴェンの交響曲ツィクルスが実現したらどれほど楽しいだろう。

 

今年の12月6日(金)、7日(土)にリープライヒは再び日本フィルのサントリー定期に登場する。プログラムは以下の通り。

モーツァルト:歌劇《ドン・ジョバンニ》序曲

ルトスワフスキ:オーケストラのための書

R.シュトラウス:交響詩《英雄の生涯》 op.40

https://www.japanphil.or.jp/concert/23655

 

これは聞き逃すわけにはいかないだろう。


写真:アレクサンダー・リープライヒ(cSammy Hart