超絶技巧!クリスチャン・リンドバーグ トロンボーン・リサイタル | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

129日、東京文化会館小ホール)

 20年以上前、会員向けCDClubでCDベスト盤を制作したことがあり、名前はなじみのあるクリスチャン・リンドバーグ。その生演奏を初めて聴いた。CDではわからない広がりのある豊かで輝かしく強烈な音と超絶技巧の連続にノックアウトされた。今年61歳とは思えない驚異的な体力と肺活量、全て暗譜という点にも圧倒された。

 

 リンドバーグはステージにシルキーなブルゾンにタイトなパンツというファンキーな出で立ちで登場した。ピアノ伴奏は白石光隆。

本人作曲「ブラック・ホーク・イーグル」は、6つの小品からなるが、山脈に響き渡る落雷のような激しい出だし。スタッカート、ロングトーン、弱音ほかトロンボーンのあらゆる技巧をおりまぜる。

 

ウェーバー「ロマンス」は一転ロマン派作品を美しく歌う。トロンボーンをピアノと平行に構え、ピアノの音とやわらかくブレンドさせた。

 

リンドバーグは東日本大震災直後の2011年6月に多くのアーティストがキャンセルする中単身来日、復興支援リサイタルを開いた。そのコンサートのために作曲した「日出ずる国へ」は、怒り、自然、津波、勇気というイメージを抱かせる。曲の中間で足踏みしながら吹く姿は、日本人へ励ましのエールを送っているようだ。

 

 バイク乗り用の肩当てがついた赤いジャンパーに着替えたリンドバーグは、スウェーデンの作曲家サンドストレムと共につくった「モーターバイク協奏曲」を前半最後に演奏した。録音済の音源とともに吹くのだが、ウルフマン・ジャックのDJのような不気味な声に続き、犬たちが狩りで獲物に向かって吠える音が聞こえてくる。そこにリンドバーグがバイクのマフラーを吹かすような音で割入る。あとはバリバリと吹きまくる。そのけたたましいまでのパワフルな音に降参。

 

 休憩後は同じくBGMとともに自作ラテンテイストの「ポンペイ湾のバラクータ」をラテン音楽のように演奏した。

 ギルマン(1837-1911)の「交響的断章」は、トロンボーン奏者にとっておなじみの課題曲とのこと。リンドバーグの演奏は歌心に満ちている。

 チャイコフスキー/リンドバーグ編「スペードの女王」組曲はロシア風のメロディーを抒情味たっぷりに聴かせた。

 

 最後は、プライヤー「スコットランドの釣鐘草」。スコットランド民謡の編曲だが、最初はおだやかな旋律で始まり、それなりに難しいテクニックが披露されるが、中間でテンポが緩やかになるとピアノの白石はあくびをはじめ、ついに舞台上に寝てしまう。それをリンドバーグが大きな音で白石を脅して起こし、今度は超絶技巧、早吹きのオンパレードが始まる。

 会場の半分くらいは吹奏楽部所属らしい中高生で埋まっていたが、驚異的に滑らかなスライド管の動きに彼らも唖然となったのではないだろうか。

 

 アンコールは3曲。1曲目ホークベルク「ズビドバ」に驚いた。ラップ音楽のようにリンドバーグは叫び声を合間に入れて吹く。ルイ・アームストロングがトランペットの合間にひとふしうなる姿を思いだす。

 2曲目はサンドストレム「クリスチャンソング」。これは抒情的。最後にモンティ「チャルダーシュ」の超絶技巧で締めた。

 

 CD即売はあっという間に完売したとキングインターナショナルにいる友人が驚いていた。

写真:クリスチャン・リンドバーグ(c)Mats Bäcker